10話「予定外の大物」
「クシャナさん、ただいま」
ベースキャンプに戻るとクシャナさんが居た。
キャンプって言っても、ちょうどいい空き地にみんなが集まってるだけ。
テントが張ってあるとか特別なことがあるわけじゃない。
今は他の冒険者はほとんど出払ってて、クシャナさんと青年団の人が何人かだけ番をしてる。
クシャナさんは、気配察知の能力を活かして、ここから冒険者にトランシーバーで指示を出す係だ。
「おかえりなさい。怪我は無かったみたいですね」
停車した軽トラから飛び降りるとクシャナさんが出迎えてくれた。
でも青年団の人たちは俺たちに目もくれず話し込んでる。
みんなけっこう愛想よかったんだけどな?
「うん。大丈夫。それよりなんかあったの?」
「それが、どうもこのあたりにはゴブリンとは比べ物にならない魔物が一匹潜んでいるようで……」
「え、何それ? どんなやつ?」
「今の私の気配察知ではそこまでは分かりませんが、近くに居るのはたしかです」
うーん。
クシャナさんがそう言うならほんとなんだろうな。
「そしたら今度はそれを見つけて倒せばいいの?」
「それを話し合っていたんですが、青年団としてはFランクの冒険者任せられないそうです」
「うそ? なんで?」
「Fランクでは返り討ちにあう可能性が高いからです。この世界の冒険者ランクは純粋な強さの序列と言うわけではないようですが、さすがに最下級のFランクはほとんどが新人ですからね。それではさすがに無理だろう、と言うのが彼らの言い分です」
まぁ、あながち間違ってはないよな。
この世界の冒険者ランクの主な基準はクエストの成功率だ。
つまりたくさんのクエストを成功させるほど上に行けるシステムってこと。
ってことは、あえて採取クエストばっかりやるってのもランクを上げる一つの手のはず。
でも普通は長く冒険者やってればそれなりに戦ってるだろうし、そこそこ強いはず。
その点Fランクってのは、はほぼ全員が新人って言ってもいいんだろう。
とうぜん本格的な戦闘経験なんてほとんどないわけで。
そりゃ青年団の人が不安になるのも分かるよ。
「話は聞いただ。クシャーナさん、その魔物はそんなに強そうだか?」
そう言って話しかけてきたのはミノさんだ。
軽トラを置いてから一回青年団の人たちのところに行ったと思ったら戻って来た。
後ろには馬とか山羊とかの頭をした青年団の人たち。
なんでか知らないけど、農業系の青年団はアニマル色が強い。
食肉系の家畜を出荷する時はどんな気持ちなんだろうな。
「気配から察すれば、害獣などと可愛いものではなさそうです。一般人が襲われれば命は無いでしょう」
「そら恐ろしいことだ。すぐに新しい討伐クエストとしてギルドに申請するだ」
「それは構いませんが、相手は動いていますよ? おそらく他所の土地から迷い込んできたのでしょう。放っておけばそのうち人里に出てくるかもしれません」
「そしたら早めに倒さねば人さ襲われるって言いてぇだか? だけんど今日のクエストはFランクからの募集だっただ。そげな強ぇ魔物さ倒せる冒険者なんざ来てねぇと思うんだべ……」
来てねぇと思うんだべか。
ところが来てるんだべな、これが。
「ミノさん、ミノさん。俺! 俺がやるって!」
「おめがか?」
俺が手を挙げて立候補するとミノさんが不審な顔をした。
「だども相手は恐ろしい魔物だべ? おめさ冒険者らんくいくつだ?」
「F! 昨日登録してきたばっかのこれが初クエスト!」
「バカたれ。そげな素人同然の新米に任せられっか」
「チッチッチ。俺をただの新人だと思ってもっちゃ困るよ。たしかに冒険者になったのは昨日だけど、魔物なら昔からバンバン倒してるからね。たいていの相手なら俺一人でやっちゃうよ?」
そして俺のウィンク&サムズアップ。
ミノさんは目を逸らしてクシャナさんを見た。
「たしかこの小僧っ子はクシャーナさんの連れだったべな? 本人はああいってっけど、どうだべ?」
「ええまぁ、自慢ではありませんが、この子はこれで本当に強いですよ。ただ危ないことはさせたくないので、私は反対です」
「えー? クシャナさん、なんで? このあいだだってヒュドラ倒したじゃん?」
「ヒュドラだか? それがほんとなら怖いもの無しだべ?」
「それは本当ですが、シュウジは結構おっちょこちょいです。もしものことを考えると、一人ではちょっと」
「白夜が居る。白夜が居るって。二人なら全然余裕だよ」
「ちょっと、思い出したように私を頭数に入れないでよ」
「いいから、いいから。お前だって『ゴブリンはもう飽きた。そろそろ歯ごたえのある敵と戦いたいぜ』って言ってたじゃん」
「何よそれ。私がいつそんなヤラレ役の四天王みたいな台詞言ったのよ」
うーん。
なかなか意見がまとまらない。
犠牲者が出る前に確実に仕留めるなら、俺が行くのが一番いいのに。
「ビャクヤと二人ならほとんど確実ですが、せめてもう一人くらいは頼りになるメンバーが欲しいところです」
あと一人か。
あと一人居れば、クシャナさんが行かせてくれそう。
誰か居ないのかよ?
「それならば私が一緒に行こう」
突然上がった妙にハキハキした感じの女の声。
振り返ると、そこには一人の女エルフが居た。




