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7話「アナザー東京見聞録序。的な方針会議」

 俺とクシャナさんは異世界情緒漂う街並みの中を歩いている。

 と言っても全部が全部きっちり異世界してるわけじゃなくて、ところどころ現代日本な部分もちゃんとある。レンガ造りのアイテム屋の隣には鉄筋コンクリートの雑居ビルが建ってるし、道路だって大通りの車道はちゃんとアスファルトだ。

 まぁ、その上を普通の車に混じって馬車とか走ってるのはご愛敬だけど。あと歩道が相変わらず石畳なのもな。

 周りの通行人には相変わらず亜人が多い。半分かそれよりちょっと少ないくらいの割合がそうだ。種族も色々で人間に近いのならエルフ、ドワーフ、ホビットはそれなりに居る。それ以外だとリザードマンやオークみたいなどっちかって言うと魔物に近い連中もちょいちょい混じってるな。中には羽の生えたちっこい妖精らしきのも飛んでるけど詳しくは分からない。

 ちょっと気になるのは獣人系。獣丸出しの狼男が歩いてる一方で、むしろほとんど人間の猫耳少女のグループも見える。

 これはちょっとおかしい。

 俺が知ってる限り、見るからにザ・ビーストな獣人と、体の一部だけが獣化してる種族ってのが同じ世界に一緒に居たためしがない。どっちか片方が居たらもう片方は絶対居なかった。呪いとかアイテム効果は別としてな。

 俺的にはむしろ両方居た方が自然じゃないかと思うんだけど、実際には常に片方だけだった。人間とザ・ビースト獣人の間には子供ができないてのも各世界共通だったし、ハーフとしての猫耳少女とかも生まれないのも常識。

 ところがこの東京ならぬアナザー東京だと、両方が普通に居るっていうその時点で普通じゃないよく分からない状況だ。

 これはちょっと覚えといた方がいいな。何かの手がかりになるかもしれないから。

 そんな亜人の皆さんは当然のように人間と変わらない生活をしてる。少なくとも俺にはそう見える。

 一例を上げれば道の反対側のビルの二階、何かの事務所の窓の中に一人の魔族の日常がちょうど垣間見えてるとこだ。

 そいつは背広を着た角付き魔族の男なんだけど、人間のハゲ親父に怒れてるらしくて必死に頭を下げてる。肌の色がチアノーゼなのはもともとそうなのか、怒られて青くなってるだけなのかは分からない。でもたぶん元の肌の色プラス怒られて今日は一段と青くなってる状態だろ。

 とまぁ、そんな感じでカオスってるアナザー東京だけど、俺やクシャナさんにとってはそれはそれで馴染みやすい。

 考えてもみれば一般人が武器持ち歩いてるのも亜人が普通に生活してんのも異世界じゃ珍しくない。むしろ俺たちみたいなちょっと特殊な素性の持ち主には恰好の隠れ蓑だ。

 もっとも、だからって世界転移能力やらクシャナさんの正体やらを簡単にバラすわけにもいかない。あくまでも自分の気持ちの問題だ。みんな変なんだから俺たちのことだって今更だろ、みたいな。日本だからって変に気を張ることもないってだけだ。

 まぁ、ただこんなでもやっぱり日本なんだよな? 地名とか店の名前とかも普通に日本だし。ってか字も言葉も日本語だし。

 早いとこ俺の記憶にある東京が何でこんなアナザー東京になっちゃったのかを確認したいとこだけど、まずは何から調べたらいいんだろうな。総理大臣が誰だとか首都はどこだとかは別にいい気がする。変わってても困らないし。


「シュウジ。あれはなんですか?」


 街の様子を眺めながらあれこれ考えていると隣から声がかかった。

 振り向くとクシャナさんがある建物を見ていた。


「ああ。あれは、電車の駅っぽいね」


 つっても俺の知ってる駅とはだいぶ形が違う。豪華って言うか大仰って言うか、何か神殿みたいになってる。正直入り口に掛かってる中目黒駅って書いた看板がなかったら分からなかった。


「あそこで切符っていうのを買うと行きたい場所に連れてってくれるんだけど、お金持ってないから乗れないよ」

「駅馬車のようなものですか? それにしてはずいぶんとたくさんの人が使っているんですね」

「そうそう。馬車よりかなり大きい乗り物に皆で乗るから安いんだ。この世界じゃ庶民の移動手段って感じかな」


 とは言えこのアナザー東京でも電車が使われてるのかは分からない。もしかしたら先頭の動力車は変な生き物だったりして。怒れる巨大ダンゴムシみたいなのが引っ張ってんの。

 それか駅舎が神殿みたいになってることを考えたら転送魔法って線もある。

 日本列島各駅ワープの旅! 

 いや、それはないか。そんな大魔法を町中に張り巡らされたら俺が困る。リアクションに。

 ともあれ駅って書いてるんだから何かしらの移動手段を使わせてくれることに違いはないはず。クシャナさんはそんな謎めいた中目黒駅に興味があるようだ。


「あれだけ人が集まっているなら情報収集もしやすいかもしれませんね」


 んー、それはどうだろう。たぶんクシャナさんは異世界の駅馬車とか船着き場のイメージで考えてる。たしかに街から街に移動すること自体が大変な世界だとそういうとこでもある程度の情報は集まる。乗客同士で教えあったりもできるし、何でも屋的な連中が居たりするからそいつらから情報を買うのも手だ。

 でもさすがにこの世界でそういうのはあんまりないと思う。何せテレビとかスマホがちゃんとあるのは確認済みだ。情報が欲しけりゃネットからいくらでも拾えるだろうしわざわざこんなとこでやりとりする必要がない。

 それでも駅員の人にちょっとだけ聞いてみるってのはありか。他県から旅行で来たフリすりゃ親切に教えてくれそうだ。

 よし。せっかくだし試してみるか。


「じゃああの駅で聞き込みしてみよっか」


 そうして俺はクシャナさんを引っ張って駅へと向かった。


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