表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/173

6話「アロハ追え~」

 手早く軽いおやつタイムを済ませたクシャナさん(再び化身中)と俺は、リザードマンを追って遊歩道を二人で進んでいる。

 ここまで歩いてきて分かったのは、ここが街中にある大きな公園の中らしいってことだ。遠くから自動車や電車の音が聞こえるし、木と木の隙間からは建物が見え始めてきた。まだ細かいとこまでは分からないけど、ビルの大きさと数からするとどうも結構な都会みたいだ。

 あのリザードマン、よくこんなところで生活できてるな。ほんとに誰にも見つかってないのか? この公園の中に隠れるったって限界があるだろうし、追いかけてる方向から言えば街に出ていくっぽい。こんな真昼間に堂々とし過ぎだろ。まさかクシャナさんにビビッてパニックでも起こしてんじゃないだろうな。騒ぎになったらあのリザードから話しを聞き出すのはほとんど無理くさいぞ。警察じゃ無理でも自衛隊が出張てくりゃさすがにリザードマン一匹じゃ抵抗するにも限界があるだろ。そうなったらたとえ生け捕りになったとしても厳重な監視下に置かれるだろうから、クシャナさんでも見つからずに接触することは難しいと思う。

 そんな心配をしてるうちに俺たちは公園の出口までたどり着いた。


「あれはここから外に出たみたいですね」


 やっぱり街に行きやがったか、あいつ。知らねーぞ、俺。だって何も悪くないし。もちろんクシャナさんもな。

 これが人が少ない田舎ならまだ間に合ったかもしれないけど、都会の街中じゃあのリザードはもう誰かに見られてる可能性がデカい。

 つーか、そもそもここはどこなんだよ。大きい建物がかなり多いけど、ビルばっかってわけでもない。やたらと本格的な西洋の建物もかなり混じってる。おまけのその向こうにはアラビアだかインドだかの宮殿っぽいのが見えてるし。ほらスライムみたいな屋根したやつ。あれがあ普通に建ってんの。ありゃ遊園地か何かか? それにしちゃ観覧車とかは見えないけど……。

 俺は現在地の手がかりを探して周りを見回した。公園の入り口だから周辺案内図的なのがあるかもしれないし、誰か来たら来たで聞けばいい。

 そう思った俺だったけど、この公園の名前が書かれた立て看板を見つけてちょっと戸惑ってしまった。


――ようこそ。中目黒公園へ。


 ん? 中目黒? 中目黒って、あの中目黒? 東京の? ここが? 何か違くない?

 実は俺、異世界に飛んじゃう前に中目黒公園には一回だけ来たことがある。そもそも生まれからして東京なんだけど、何せウチは貧乏だった。夏休みとか連休とかに親がどっか連れてってくれるって時も、ウチの場合金のかからない近場のデカい公園とかだった。東京には何個かあるだろ、有名なとこ。でもそんなのってすぐに全部周っちゃって行くとこなくなったから、ウチの親はもうちょっとマイナーなとこ攻め始めたんだよ。で、その内の一つが中目黒公園だった。

 俺の記憶じゃ中目黒公園はこんなに立派な大自然あふれるとこじゃなかった。もっと地味でつまらなかった記憶がある。それに周りの街並みも違う気がする。中目黒、っていうか東京自体こんな感じじゃなかったろ。6年でこんなに変わっちゃったのか? 俺はやっぱり浦島太郎なのか?


「シュウジ。どうかしましたか?」


 俺が返事もせずに黙り込んじゃったから、クシャナさんが声をかけてきた。

 そうだった。今はあのリザードのことが先だな。


「ごめん。行こう」


 リザードの気配の気配を追うクシャナさんに随って、俺は足早に中目黒公園を後にした。

 捕食者として最上位クラスなだけあって、クシャナさんの獲物を追う能力はさすがだ。土地勘のない初めての世界、初めての街の入り組んだ路地なのに迷うことなくどんどんと進んでいく。

 つーか道が狭いな。あと計画性なさ過ぎ。建物に統一性がないように道の作りにも規則性が感じられない。ほんと場当たり的に作っていった感じでちゃんと十字になってる交差点が全然ない。おまけに路面は石畳だ。いくら裏路地でもこれはひどくない? アスファルトどした? 

 しかも世紀末並みにガラの悪い連中までたむろってるし。頼むからこっち来んなよ? 今でこそ俺に気を使ってるけど、クシャナさんは普通に人間食べるからな?

 これでも意外とやさしい俺は、連中の安全のためにも歩くスピードを上げてクシャナさんに急いでもらった。

 この先はもう少し大きな道に出るみたいで逆光の中を人影が左右に横切ってる。あ、ヤバい。結構人通りあるぞ。これは絶対騒ぎになってる。下手したらもうネットに動画上がってるかも。リアルでリザードマン出てきたらそりゃコメント欄も盛り上がるだろ。俺だって「やべー見に行きてー」って書き込んでたと思う。まぁ、実際いやでも見に行かなきゃいけないヤバい状況なんだけどな。

 だからそこで繰り広げられているだろう騒ぎになかば諦めを持ちつつ、俺とクシャナさんは表通りに出た。そして今日何度目かのびっくり。みんなが全然普通にしてて、だけどそいつらみんな普通じゃなかった。

 何言ってるか分からないって? うん。俺も何が起こってるのか分からないんだよ。そりゃ訳の分からないことも言うだろ。だから先に言わせてくれ。


 日本よ。俺が居ない6年の間に何があった?


 いや、もうここが日本なのかも自信がなくなってきた。こんなの俺が知ってる日本じゃねーよ。そりゃたしかに中目黒公園は有ったけどさ、それだって全然記憶と違ったじゃん。まぁ、それだけだったら工事したで済んだ話しだよ。でもさ、この有様はどう考えてもおかしいだろ。みんなが剣とか銃とか持ち歩いてるのは最近の銃刀法的にはOK? 日本の道をエルフが歩いてんのは何? 獣人とか妖精の存在はスルーですか? ドワーフのおっさんの荷馬車の横を空飛ぶバイクに乗った宇宙人らしきデミヒューマンが通り抜けるのは日常の範疇ですか。そうですか。


「シュウジ。もう一度確認しますが、あなたの世界には魔物のたぐいは……?」

「居ないよ! って言うか居なかったよ。少なくともこんな大量にうろちょろしてなかったよ!」


 絶対おかしいだろ、こんなの。いつから日本はこんな異世界テイスト溢れた連中に占領されちゃったんだよ。何だったら下手な異世界より異世界感あるじゃねーか。アメリカ村にホワイトハウスが引っ越して来ちゃったとか、中華街が中国4千年の歴史持っちゃったとかのレベルだよ。マジでこれどーした?


「クシャナさん。もしかしたら何かたいへんなことになってるかも……」

「そう、ですね。今まで聞いていたあなたの故郷の話しに間違いがなければ、この街はあまりにも不可解な状態にあるように思えます」

「間違いって、俺はウソなんて言ってないよ?」

「ええ。もちろんそれは疑ってません。ですが何かがおかしいのは事実です。それをはっきりさせるために、まずは何が間違っているのか調べる必要があると思いませんか?」

「調べるって何を調べるの?」

「それはまだ分かりませんが、さしあたっては他の場所をもっと見て回りましょう。そうすればシュウジの覚えている元の世界と何が違うのかはっきりするかもしれません。もしかしたらシュウジの記憶が混乱しているという可能性もありますし、今は冷静に情報を集めるべきです」


 俺は自分の頭がどうかしちゃったなんて思わないけど、さすがにこんな時でもクールに対応するクシャナさんはイカしてる。そうだよな。こんなところで狼狽えてたって何の解決にもならないんだ。だったらせめて状況をはっきりさせるために行動しないと。


「分かった。クシャナさんの言う通りにするよ。でもあのリザードどうしよう。もう追いかけなくていいのかな?」

「この世界にとって異質な存在があのリザードマン一匹だけでないのなら、あえてあの個体を捕まえる必要はないでしょう。追われていた小娘も勝手にどこかへ行ったことですし、深追いする義理もありません」


 まぁ、そうか。目の前じゃ魔物の範疇に入る種族だって普通に行き交ってんだ。あのリザードだけが特別って訳じゃないよな。実際さっきのとは別のリザードも歩いてるし。のんきにたこ焼き喰ってんの。何かむかつく。


「じゃあ行こっか。とりあえず適当に歩き回ってみようよ」


 そうして俺とクシャナさんはこの日本の現状を知るべく、なんとも異世界感に溢れる雑踏へと足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ