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63話「愛理の身の上」

「なんだ、白夜まで居たのか」


 獅子雄中佐の待ってるって部屋に行くと、そこには中佐のほかに白夜も待ってた。

 紅茶なんか飲んじゃって優雅な感じ。


「何よ。居たら悪い? だいたい私だけ仲間外れだと何でこの世界までついて来たのか分からないじゃない」

「そりゃたしかにそうだけどさ」


 いやいや、別に仲間外れになんてするつりなかったって。

 ただちょっと忘れてただけで悪気は無いんだよ。

 つか緒方大尉だって部屋に残るみたいだし、結局みんな集まったわけか。

 どうせだったらクシャナさんも呼んだ方がいいのかな?

 いや、それはやめとこう。

 今はゆっくり休ませてあげたいからな。

 話は俺があとで教えてあげればいい。


「とにかく、私だってあの世界がどうしてあんなことになってるのか気になるんだから、参加するわよ」

「ああ、それは全然オッケーだし、むしろ居てくれた方が助かる。お前も一応転移者だしな。なんか気付いたら言っていいぞ?」

「なんでそんなに上からなのよ。あんただって自分じゃ何も分からないからその子に聞きにこの世界まで来たんでしょ。だったら立場的には私とほとんど変わらないじゃない」

「いや、だってそもそも俺がこの集まりのホストみたいなもんだろ。だからこの場は俺が仕切るのが普通かなって」

「その普通はどこから出て来た普通なのよ? いいから早く座りなさいってば。じゃないとあんたのイスを消去して空気イスに座らせるわよ?」

「あ、お前えげつねーな。あれってけっこう辛いんだぞ」


 なんて俺と白夜がやりあってると、横で愛理が俺たちをジッと見てた。

 あ、すっごいネコ目。

 前から思ってたけど、こいつたまにネコっぽくなるんだよな。

 

「やっぱりなーんか仲いいんだね、修司と白夜ちゃんって」

「おい。止せよ、愛理。お前の身長でそんな子供みたいな煽り方してるとほんとに子供みたいに見えるぞ」

「むっかー。悪かったね。どうせボクはチビだよ。修司はクシャナちゃんにべったりだと思ったら、今度はこんなに将来有望そうな子なんか連れてきちゃってさ。何? ボクへの当てつけ?」

「なんでそうなるんだよ。白夜はただの転移者仲間。共通の問題に立ち向かう協力者。OK?]

「ふーん。じゃあ白夜ちゃんとは何もないんだね? たとえばデートしたり、プレゼントあげたりとか」

「俺がクシャナさん以外とデートするわけないだろ。プレゼントは……、なぁ、そのカチューシャってプレゼントになると思う?」


 白夜の頭に乗っかってるのは、このあいだ俺が竹下通りで買ってやったやつだ。

 その場のノリだったのに、律儀にちゃんと使ってるのな。


「えっと、プレゼントって言えば、プレゼントよね……」

「ほーら、やっぱり。修司ってば、ボクには何も買ってくれないくせに、可愛い子には優しいんだね」

「お前な、自分もなんか買ってほしいんだったらそう言えよ。そんな回りくどい言い方、相手次第じゃケンカになるぞ?」

「じゃあ買って。ボクだってたまにはプレゼントされたいんだよっ」

「分かったって。今度な今度。あんまり高くないやつで何か考えとけよ」


 ん?

 そうなると結局愛理も元の世界に帰らないといけないんじゃないか?

 まぁ、それならそれでいいけどさ。

 プレゼントに釣られてるんじゃ、ほんとに子供じゃねーか。


「じゃあ、そろそろいいか?」


 愛理が一通り落ち着いたところで獅子雄中佐が言った。

 なんか、ごめん。

 呼ばれて来たのに完全に置き去りにしてた。


「二人にも集まってもらったのは他でもない、僕らがこの世界に来た理由、僕らの世界に何がおこってるのか、その見解を聞くためだ」


 いや、ほんと色々あったから今になっちゃったけど、俺たちが愛理に会いに来たのはそのためだ。

 不可抗力って言っても、だいぶ待たせたし獅子雄中佐には悪いことしたな。

 って思ってると、


「その前に一つ聞きたいんだが、天能寺君。君のお父さんは天能寺有朋と言わないか?」


 ってあんたも脱線するんかーい。

 みたいな。


「実は何年か前に連邦技術廠(ぎじゅつしょう)と言うところでその名前の研究員の娘さんが行方不明になった事件があった。諸神君から君の名前を聞いて気になったから色々思い出してたんだが、たしかその娘さんの名前と言うのが……」

「いいよ、それ以上言わなくて。たぶん間違いないから、それ」


 そう答えた愛理は、今まで見たこと無いくらい不機嫌な顔だった。

 度合がって言うか、不機嫌の質が本物だ。

 さっきまで駄々をこねてたのとはまるで違う、マジの不機嫌。


「連邦技術廠? そんなの本当の元の世界には無かったはずだけど、あの人なら如何にも勤めてそうなところだよ。研究員って言っても、それなりに偉いんでしょ?」

「ああ、たしか主任研究員兼研究所長だったはずだから、かなりの地位だと思う」


 マジか。

 愛理は錬金術とは関係無しに、元々知識が豊富な奴だとは思ってた。

 それはやっぱり家柄が関係してたのか。

 今の色々変わっちゃった元の世界の父親はともかく、変わる前もやっぱりすごい人だったみたいだし。

 その父親在りにして娘在り、か。

 長い付き合いだけど、愛理のそういう身の上は初めて聞いたな。


 にしても、さっき愛理の質問に答えた獅子雄中佐はどこか曖昧だったよな。

 なんかそれほど詳しくなさそうって言うか、他人事?

 辛うじて思い出した感もあったし、どういうつながりだ?


「思うって、中佐はその愛理の父親と知り合いなんじゃないの?」

「いや、有名な人だから一方的に知ってるだけだ。色々と噂は聞いてるが、僕は一度も会ったことは無い」


 なんだよ。

 ただ偶然知ってただけかよ。

 それにしちゃ結構な確率だと思うけど、愛理の父親はそんなに大きい噂を立てられるほどの大物なのか?


「噂、ねー。たとえばどんなのがあるのかな?」

「いや、なんて言うか、まぁ、色々と先進的な実験を、だな……」

「具体的には? 一番新しいのだとどんな実験をしたって言ってた?」


 中佐はなんかかなり言いにくそうだ。

 もっとはっきり言ってくれないと、色々先進的ってだけじゃ何も分からないって。


「僕が聞いたのは、兵士の体と兵器を結合させる基礎実験の話だが……」

「ふふ。兵士と兵器を結合ねー。やっぱり相変わらずえげつないなー。ほんと我が親ながら耳を疑うような非人道っぷりだよ」


 お前がそんな風に言ってる方が耳を疑うけどな。

 人体実験も人体と異物の融合も愛理の得意技じゃねーか。

 俺は獅子雄中佐の話してくれた人が、ほんとに愛理の父親だと確信した。

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