表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/173

59話「分水嶺」

「シュウジ、怪我はありませんね?」


 そう言ってクシャナさんは俺の両腕を持ち上げる。

 俗に言うバンザイ状態。

 さらにクシャナさんは俺の体をベタベタ触って怪我が無いか確認する。


「大丈夫だよ」


 体中を一通りチェックされる俺。

 クシャナさんは最後に俺の頬っぺたを触って例の2人組に向き直った。


「それで、彼らは何者です?」

「さぁ、よく分からないけど……」

「そう、ですか。シュウジ。私は先ほどあなたとは違う世界転移の痕跡を感じました。あの二人はどうやってこの部屋に?」

「あ、さっきのあれって……」


 そうか。そう言うことか。

 あの2人組が玄関のドアから入って来た時、後ろに見えてたのは違う世界のどこかだ。

 たぶん愛理の玄関の扉と別の世界の建物の扉を繋いで世界転移してきたんだろう。


「クシャナさん。あの二人のどっちか、世界転移能力を持ってるよ」

「やはりそうですか。あなた以外では初めての遭遇ですね……」


 そんな俺たちのやり取りに、優男はどこか嬉しそうな微笑みを浮かべてる。

 つまり肯定、ってことだろうな。

 俺たちの世界について色々知ってるくらいだから間違いないだろう。


「クシャナさん、どう? どっちかそれっぽい?」

「まだ分かりませんが、たぶん、違うでしょう」


 俺が聞いたのは、つまりあいつらがクシャナさんと同じ種族っぽいかどうかってことだ。

 元々クシャナさんは同じ種族の仲間を見つけるために旅してたからな。

 今回のは俺以外だと初めて見つけた転移能力者ってことになる。

 でもクシャナさんの種族とは違うか。

 あっちの転移能力は扉同士を繋げるみたいだし。

 クシャナさんと同じ種族なら世界の境界を直接切り裂くはずだ。


「あなたたちは何者です? なんの目的でここにきたんですか?」

「これは参ったね、クシャーナ=リュール。出来ればあなたが居ないうちに話しをつけてしまいたかったのだけれど、そう上手くもいかないみたいだ」

「それはどういう意味です?」

「あいつ、俺と愛理に一緒に来いって」


 あ、クシャナさんの眉毛がぴくってした。

 なんか最近クシャナさんのこういうとこよく見るかも。


「それは私たちと協力関係を結びたいということですか? でしたら――」

「違う。あなたは抹殺対象」


 そんな物騒なことを言ったのは、優男の隣でずっと黙ってた少女だ。

 銀髪ツインテールの13歳くらいの女の子。

 東欧だか北欧だかの、西洋人形みたいな顔して、白夜が好きそうな白いドレスを着てる。

 そんな少女がクシャナさん以上の無表情で平然と「抹殺」なんてことを口にした。

 そこには本当に冷たい、氷みたいな殺気を感じる。


「ジュリエッタ。手荒なことは無しだよ。今日は戦いに来たわけじゃないのだからね」

「だめ。この個体は特別に危険。いずれあなたを脅かす前に殺しておいた方がいい」


 おい、やめろよ。

 いくらなんでもクシャナさんに喧嘩売るとか無しだぞ。

 さすがに俺でもあんなに可愛い幼女のスプラッタは見たくない。


 でもダメだった。

 俺の願いも空しくジュリエッタが床を蹴った。

 速い!

 陣足を使った俺以上、いやレーベントーレよりもさらに上かもしれない。

 とっさに反応出来なかった俺はクシャナさんに突き飛ばされた。

 同時に自分も前に踏み込むクシャナさん。

 ジュリエッタが何かを掴むように両腕を上に振りかぶった。

 瞬間、雷みたいなのが奔って、ジュリエッタの両手に長柄の武器が握られてた。

 ハルバード。

 槍と斧が合体したみたいな西洋の武器だ。

 その渾身の打ち下ろしを、クシャナさんは化身のまま前に加速して回避する。

 すれ違うように攻撃をかわされたジュリエッタは、すぐさま体を回転させて横殴りの第二撃を放った。

 命中。

 クシャナさんは間合いの外への離脱が間に合わなかった。

 真横に吹っ飛ばされながら、そのまま空間を切り裂いて狭間に退避する。

 それからすぐに、化身を解いたクシャナさんが跳ね返るみたいにして戻って来た。

 げ。

 12本あるクシャナさんの足の1本から紫色の血が流れてる。

 マジかよ。

 化身だったとは言え、クシャナさんに傷つけるとか。

 ダメージ自体は大したことなさそうだけど、あのジュリエッタって少女はハンパない。


「クシャナさん!」


 2人の戦いは他人に割って入れるようなものじゃなかった。

 デカいハルバードを棒切れみたいに振り回して接近戦を仕掛けるジュリエッタ。

 それに鉤爪みたいな12本の足を使って応戦するクシャナさん。

 戦いは天井の高いロビーを飛び回りながらの立体戦闘に発展した。

 壁の高い所に張り付いたクシャナさんが風魔法を発動。

 それは斬撃を孕む、渦巻きのような風の螺旋。

 俺のブレイズトルネードに似てるけど、クシャナさんのは相手に向かってビームみたいに撃ちっぱなす射撃系の攻撃だ。

 一方で、クシャナさんとは反対の壁際の床に立つジュリエッタも魔法戦に応じた。

 ハルバードを腰溜めに構えて切っ先でクシャナさんにを狙う。

 撃ったのは光属性の魔力波動。

 こっちはマジでビームみたいに青い閃光が撃ち出された。

 2人の攻撃は交差するように通過。

 お互いに弾道を歪めながら突き進み、相手に命中することなく壁に穴を開けた。


「やめてよ! こんなところでクシャナちゃんが戦ったらボクの家が無くなっちゃうよ!」


 たしかにな。

 つーかそのうち館が倒壊して、俺たちまで生き埋めになるんじゃないか?


 そんな愛理の声が届いたのか、クシャナさんはジュリエッタが開けた穴から外へと飛び出した。

 戦いの場所を外に移してくれるつもりだと思う。

 そして当然、戦ってる相手のジュリエッタもそれを追って行く。

 新しく壁に穴開けてな。


「あぁ、もう! なにするのさ!」


 館の主が一段とぷんスカる。

 でも今は戦いの行方を追う方が大事だ。

 俺たちはジュリエッタが新しく開けた穴から外へ飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ