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57話「入れ違い」

 俺は黒い霧に向かって斬波を放つ。

 目的は相手を愛理から引き離すことだ。

 そもそもこういう実体の無い系の敵に斬波がダメージになるのか怪しい。

 それでも黒い霧は攻撃を嫌がって一応避けてるみたいだ。

 だからとりあえず間に割って入ることには成功した。

 一方、愛理は俺の後ろで酸素を求めて喘いでる。


「おい、愛理。大丈夫か?」

「ケホケホ。……遅いよ、修司」


 背中越しに声をかけると愛理はちゃんと返事をした。

 ちょっと苦しそうだけど無事でよかった。

 何とかギリギリ間に合った感じだ。


「おいおい、SOSが届くより先に来たんだぞ。むしろ最速レベルだっての」

「どこがさ。ボクがピンチの時は、時間を遡ってでも助けに来てくれるって言ってたでしょ?」

「んな無茶苦茶なウソ言うな。それよりアレはいったいなんなんだよ。新手の借金取りか?」

「そんなわけないでしょ。って言うか知らないよ。昨日の晩から妖魔が襲って来てたけど、さっきアレがウチに入って来たんだもん」


 つまり愛理も自分が何で襲われてるのか分からないってことか?

 まぁ、いい。

 今は目の前のアイツをどうにかしよう。


「愛理。ちょっとそこでじっとしてろよ」


 一応釘を刺してから俺は正面に踏み込む。

 同時にレトリック作動。

 オクシモロンで右の拳に炎を付加結合。

 それをハイパーバリーで増幅。

 魔拳闘スキル<ファイヤーガントレット>。

 俺はそれを使って横殴りのフックで殴り掛かる。

 炎が轟っと吠えて、黒い霧は閃くように後退した。

 俺はファイヤーガントレットの使用を停止しつつフックの慣性を利用して回転。

 左の後ろ回し蹴りに付加した斬波で追い打ちをかけた。

 どうだ。このコンビネーションはびっくりだろ。

 黒い霧は踊り場から空中に飛び出して、そのまま下のロビーに降下した。


「白夜!」

「任せて!」


 俺は思わず手すりから身を乗り出した。

 ロビーにはもうすでにイベントホライゾンが出現してた。

 白夜は一瞬も遅れずに俺の戦いを引き継ぐ。

 でも黒い霧の方は完全に逃走モードだ。

 接近する白夜を無視して開いたままの玄関に向かう。

 そこへ緒方大尉が氷のニードルを立て続けに撃った。

 弾道としては全弾命中。

 でも黒い霧は、攻撃が当たる度に半分霧散。

 ニードルを素通りさせてやり過ごした。

 物理攻撃の無効化か。

 戦えば厄介そうだ。

 でも今は向こうにはその気がないらしい。

 黒い霧はそのまま玄関から飛び出すと、死角へ飛び込んでそれっきり居なくなった。


「……逃げられたな」


 獅子雄中佐がライフルを構えながらドアの向こうの様子を確認した。

 撃たないってことはもう見えないってことだろうな。

 まぁ、愛理が無事だったから無理に倒す必要は無いか。

 中佐も一応警戒しつつも玄関のドアを閉めた。

 とにかく俺はへたり込んだままの愛理のところに戻った。

 手を差してやると愛理は素直にそれを掴んだ。

 

「ほれ」

「……ありがと」


 引っ張るのに合わせて立ち上がった愛理。

 ちっこいから礼も俺の顔を見上げながら言ってきた。

 それから何故か服の裾を掴んでくる愛理と一緒に階段を下りる。

 やっぱりちょっと怖かったか。

 こいつがこんなにしおらしいのは珍しいな。

 俺はそのままでロビーまで愛理を連れて行く。

 するとそこに3人も集まってきた。


「ところでこの人たちは?」

「ちょっとな。あっちに戻って知り合った人たち」


 愛理は俺が元の世界に戻ったことを知ってる。

 って言うか、ずっと前から協力してくれてたしな。

 そもそも俺の世界転移能力がどういうものか、実験して突き止めてくれたのもこいつだ。


「ふーん……」


 愛理は3人の顔をそれぞれ見回した。

 緒方大尉。

 獅子雄中佐。

 そして白夜。


「可愛いね?」


 何故か俺に言ってきた。


「初めまして。ボクは愛理。修司とはずっと一緒に居るんだ」


 ずっとは居ないだろ。

 時々俺がこっちの世界に来るくらいだろ。

 つかなんか今の愛理からは圧力が出てないか?


「わ、私は雪代白夜よ。よろしくね」

「そっかー。白夜ちゃんって言うのかー。ふーん。へー。可愛いなー」


 愛理は白夜をジロジロ見ながらやたらと褒める。

 白夜も何かを感じ取ったらしくてちょっと戸惑ってる。

 いつもの愛理はこんな感じじゃねーんだけどな。


「それで、今日は何しに戻ってきたのさ? こんな可愛い子と知り合ったのを自慢しに来たんじゃないんでしょ?」

「んなわけあるか。俺はどんだけ暇人なんだよ。とにかく聞けって。あっちの世界がまずいことになってるんだよ」


 俺は元の世界に帰ってからのことを簡単に愛理に話した。


「えー。それほんとなの? ちょっとすぐには信じられないんだけど?」


 愛理は話を聞き終えてもちょっと疑ってるみたいだ。

 まぁ、無茶苦茶過ぎて実際見ないことには、な。


「本当だ。今の日本は、と言うよりは僕たちの世界は何かがおかしいことになっているらしい」

「……誰?」


 愛理は獅子雄中佐を見て眉をひそめた。


「日本国連邦軍の獅子雄だ。諸神君とは事態の解明をするために協力し合ってる」

「日本国連邦、ねぇ。まぁいいや。それで? 一緒に来たってことはボクに用事があるんでしょ?」

「もちろんだ。君にも諸神君同様協力を頼みたい。向こうの参考資料も持ってきたからこれを見て決めてくれ」


 そう言って獅子雄中佐は変な筒みたいなのを取り出して愛理に渡した。


「これは?」


 受け取った愛理がその筒を引っ張る。

 とするする解けるように広がって一枚の紙みたいになった。

 厚紙を巻いて筒にしてたみたいな感じだ。


「何って、資料になるデータを入れた電子スクロールだが、分からないか?」


 わ、分かりません。

 何それ。タブレット端末みたいな?


「分かんないけど、これはあとでいいや。ところでクシャナちゃんは? 修司と一緒に居ないなんてめずらしいね?」


 あ、そうだ。

 クシャナさんいったいどうしちゃったんだろ。


「こっちには一緒に来たんだけどな。妖魔とかの相手してくれてるはずなんだけど、呼んでも反応無いんだよ。何かに手間取ってるにしても、もうそろそろ来てもいいと思うんだけど……」


 そこまで言った時、ちょうど玄関の扉が開いた。

 一回ぶち破られただけあってギイギイ言ってる。


「おや。これはずいぶん先客が多いみたいだね」


 扉が開いてそこに居たのは、クシャナさんじゃなくて知らない若い優男。

 そして隣には銀髪の幼い少女だ。


「な、なんだ?」


 いったいどうなってんだ。

 こいつらどうやってここに入ってきた?

 いや、扉を開けてってのは分かってる。

 だけどその後ろに広がってる風景が問題だ。

 玄関の扉の向こうには、愛理が仕掛けた罠だらけの庭があったはず。

 それなのに、今、扉の前に立ってる二人の後ろには別の部屋がある。

 歴史の古い、西洋の図書館みたいなところだ。

 わけが分かんないぞ。

 こいつらいったいなんなんだ?

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