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56話「愛理の危機」

「お、いいぞ。距離感ばっちり。完全に館の中だわ、ここ」


 地中から地上開けた穴から顔を覗かせた俺は、そこが愛理の館の中だと確信した。

 イベントホライゾンで地中をモグラみたいに進んで来た俺たち。

 この辺だろうってタイミングで上に穴を開けたら見事的中。

 出口の先は館の中のどこか一室。

 見た感じ客間だっけ?

 俺も入ったことない部屋だから分からないや。


「誰も居ない。みんな出ていいぞ」


 とりあえず一番最初に部屋に上がった俺は、他の三人に手を貸して地中トンネルの中から引き上げた。

 床に穴開けちゃったけど愛理も許してくれるだろ。


「静かだな。戦ってる気配はしないみたいだが」

「本当。もしかして誰も居ないんじゃない?」

「いやでも衛兵隊長はここに愛理が居るって言ってたし、罠だって動いてたからな。俺たちと入れ違いで脱出したとかはないと思うけど」

「建物の周りは敵だらけだし、逃げ出すのは難しいだろうな。となると、館の中に隠れてるのか、あるいはさっきの得体の知れない奴にもうすでに……」

「中佐。そういうこと言うのは無しだって。一応俺の知り合いだよ?」

「――悪かった。すぐに捜索して保護しよう。諸神君。彼女が居そうな部屋に案内してくれ」


 ほんと、この状況で不吉なこと言うのは勘弁してほしいよ。

 愛理になんかあったらどうするんだっての。

 ぶっちゃけ今はマジできわどいかもしれないのにさ。


 俺はこの部屋にある唯一のドアをゆっくりと開いた。

 当然だけど外は廊下だ。

 左右に一直線に伸びてる真っすぐな長い廊下。

 片方の壁には外が見える窓、もう片方には俺たちのとこみたいなドアが並んでる。

 なるほどな。やっぱりほとんど使ってない客間の一つだわ、ここ。


「OK。ここが館のどこだかだいたいの見当はついたよ。愛理が居るとすれば二階の自分の部屋か地下の研究室が怪しいから、まずはそこからね」

「分かった。それでここからだと左右のどっちに進めばいい?」

「右。二階と地下のどっちに行くにしても、一回正面のロビーに戻らないとダメなんだ。俺が先に行くからついて来てよ」


 俺がそう言うと全員がいっしょになって首を縦に振る。

 水族館のアシカショーみたいでなんか変なの。

 ともあれ、俺はそんなアシカちゃんたちを引き連れて廊下に出た。

 片方は窓になってるから外から丸見えだ。

 妖魔に見つかったらどうしよう。

 いや、愛理の罠があるからまさか入っては来ないだろ。

 でもあんまり刺激するのもよくないよね。

 俺は低く腰を落として窓の下に身を隠しながら進む。

 そしたら他の3人だって右に倣えだ。


 そんな訳で、俺たちはアヒルの行進みたいになって廊下の端まで移動した。

 それから行き止まりにあるドアを開ける。

 そこから先は窓の無い廊下だけど、そこにもやっぱりひと気は無し。

 普段なら召使の人が何人か居るはずなんだけど、愛理と一緒に居るのか?

 それとも、上手いこと外に逃がされてるのかも。

 愛理ならそうしてる可能性は十分にある。


 俺たちは音を立てないように黙って進む。

 それからまた一枚のドア。

 俺はその前でいったん止まって後ろを振り返った。


「たぶんこれの向こうがロビーだと思う。さっきの奴が居るかもしれないから要注意な」

「分かったわ。もし居たら私と修司と緒方大尉でなんとかしましょう」

「了解した。自分は獅子雄中佐を守りながら支援する」


 まぁ、中佐は後ろに居てくれた方がいいだろうな。

 この人ごっつい割にはエリート指揮官らしい。

 つまり現場で戦うのは普段ほとんどしないってさ。

 だから今みたいな時には戦力として当てにならない。

 とりあえず出来るだけ自分の安全を守っててもらうのがベストだ。


 ドアを開けロビーへ。

 俺たちが開けたドアは館の奥側、二階に上る大階段の脇だ。

 ロビーはそのバカでかい階段を回り込むようにUの字になってる。

 その形に添って、俺たちは玄関ホールの真ん中に向かう。


「居ないか……」


 このホールも無人らしい。

 開けられたままになった玄関のドアから外が見える。

 例の妙な黒い霧がぶち破ったドアだ。

 あいつがあそこから中に入ったのは間違いない。

 ここに居ないとすれば建物のもっと中に行ったはず。

 でもってあいつが狙ってんのは間違いなく――


「修司! 階段の上!」


 白夜の叫び声で俺は反射的に振り向いた。


 幅の広い大階段の踊り場。

 そこにさっき見た黒い霧が居た。

 中から伸びた黒い手が、ちっこい体の少女の首を掴んで持ち上げてる。

 それは間違いなくこの館の主、俺とクシャナさんの知り合いの錬金術師だ。


「愛理!」


 俺は陣足で飛び出す。

 数段飛ばしで階段を駆け上がって最後に跳躍。

 空中からほぼ縦一文字の斬波を放って黒い腕の部分を狙った。

 ところが斬波が当たる直前、腕が霧になって本体に引っ込んだ。

 斬波が空振ると同時に愛理の体が床に落ちた。

 床に崩れ落ちる愛理と、同じ踊り場に着地した俺。

 そして警戒するように漂う黒い霧。


「お前、ふざっけんなよ!」


 俺は叫んだ。

 こいつがいったいなんなのかは分からない。

 どこから来て、何を目的にしてるのか。

 それでも間違いないことが一つある。

 こいつは敵だ。

 俺の仲間の愛理を襲った、疑いようもない敵だ。

 俺はその敵に対して、攻撃をためらわなかった。

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