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5話「後始末は大事だよ」

 リザードマンが居ない。

 煙が消えて真っ先に気が付いたのがそれだった。ほんの数十秒の間に完全に居なくなってる。いや、正確にはクシャナさんの手に千切れた尻尾だけが残されてる。これは逃げたぞ、あいつ。出てきた時はドスドス走ってたのに逃げ足だけ速過ぎるだろ。マジで見える範囲にいねーんだけど。


「何なんだよ、いったい。俺の実力を見るんじゃなかったのかよ」


 途中までやたら上から目線できてたのに速攻逃げるとか恥ずかしくないのか。俺のこのやる気をどうしてくれるんだよ。


「鑑定の能力で見たのでしょう。パッシブな魔法を使っていましたし、あなたのスキルも正確に言い当てましたからたぶんそうです」

「ああ、なるほどね。俺の次にクシャナさんのスキルも見ちゃって、それでビビって逃げ出したのか。だっさ」


 ま、クシャナさんのすごさが分かったなら逃げて当然だけどな。むしろ遅いくらいだろ。

 でもそっか、野生が退化してる分はそっちが進化してたのか。鑑定なんてイカしたもんもってたのな、あのリザードマン。

 鑑定ってのは数あるスキルの中でもレアリティの高い部類だ。

 そもそもどんなスキルでも実際に取得するのは難しい。たいていの場合どうやったら取得できるのかが曖昧だからな。何か気付いたらいつの間にか取れてたりするしさ。剣術系のスキルなら実戦を繰り返しててたら急に技ができるようになって新しいスキルが増えたことが分ったりな。

 つまり基本的にスキルの取得はその分野への精通度が増していって、さらに運がいいと取れるってことだ。なんつーか、職人の感とか技が極まった先にスキルがある感じ。

 あとはあんまり多くはないけど取り方が確立されてる場合もある。でもめちゃくちゃ地味でうっとおしい訓練が必要だったりするんでこれはこれでキツい。武術流派の戦技スキルとか神職系の法力スキルとかはマジでつまらない修行の繰り返しだし。

 そんな中で、俺の知ってる限り、どこの世界でも鑑定の取得方法は確立されてない。だから持ってるやつ自体少ない。第一、一言で鑑定って言っても種類が多い。スキル鑑定だとか素材鑑定だとか名称鑑定だとか細かく分かれてて、基本的には鑑定の種類ごとに専門家が居る。んで、だいたいインテリ。スキルの取得はその分野への精通度の高さが必要だからな。鑑定のスキルが取れるってことは、その分野の知識が豊富で見る目があるってことだ。

 あれ? ってことはあのリザードマンってインテリだったのか? あの喋りで?

 ま、まぁ、エルフの長老とか魔女のババアとかも鑑定もってることあるし……。鑑定持ちのリザード。そういうこともあるか……。深く考えないでおこう。

 しっかしこうなってくるとどうしたもんかな。最初はちょっと人助けするだけのつもりだったけど、なんかこれ話しがややこしくなってきたんじゃないか? リザードマン逃げちゃったけど、これで助けたことになんのかな?


「なぁ、もう大丈夫か? さっきは何も知らないみたいなこと言ってたけど、それウソだったらまた襲われるかも、ってこっちも居ないし」


 喋りながら振り返ってびっくりしたよ、俺は。煙幕が張られる前はたしかに居たあのローブの女が今は影も形もない。まさかさらわれたとかじゃないだろうな。


「あの小娘なら煙に乗じて一人でどこかへ行ってしまったみたいですよ。私の気配察知ではリザードマンとは別の方向へ離れていきましたから、自分の意思で去ったのでしょう。まったく、これだから人間は恩知らずなんです」

「あ、そうなんだ。まぁ、感謝されたかったわけじゃないし別にいいよ。それよりあのリザードだよ。あいつはなんか色々知ってるみたいだし、捕まえた方がよくない?」

「なら私が行きましょう。本来の姿を晒していいのなら一瞬で追いつけます。近くには別の人間の気配はありませんし、大丈夫でしょう?」

「うーん、監視カメラはないと思うけど一応管理されてる公園っぽいし、どうなんだろ……」

「監視カメラ、ですか?」

「カメラって言うのは、遠くの景色を見れる道具、かな。魔力も使わないからクシャナさんでも見つけれないかも」

「なるほど。そんな厄介なものがあるなら迂闊なことはしない方がいいですね。幸い相手はまだ気配察知の圏内です。このまま歩いて尾行しましょう」


 6年ぶりに元の世界に帰ってきて最初のイベントがこれとか、ほんとどうしようもないな、俺の人生。クシャナさんの正体を万が一にも誰かに知られるわけにはいかないし、歩きなのは別にいいんだよ。でもまさかこっちの世界でもリザードマンなんか追いかけなきゃいけないなんて予想してなかったって。せっかくクシャナさんにいろいろ見せてあげようと思ってたのにまさかの展開だよ。いったい何でこんなことになってんだか。

 まぁ、それは今は置いといて、だ。


「クシャナさん、その尻尾どうするの。適当に捨てたらあとで騒ぎになると思うけど?」


 クシャナさんの手にはあのリザードマンがトカゲの尻尾切りで残していった立派なものが握られたままだった。

 こんなの転がしといたら見つけた人絶対通報するだろ。この世界の生き物だと、どう考えてもワニの尻尾にしか見えないからな。そりゃビビるって。だからちゃんと始末しておかないとまずい。


「そうですね。捨てるのはもったいないですから、ちょっと待ってください」


 クシャナさんはそういってリザードの尻尾を地面に置くと、おもむろに人の皮を脱ぎ始めた。文字通りの意味で。

 そっか、クシャナさんおなかがへってたのか。だったらちょうどよかったな。

 そういう訳で、俺はことが済むまで少し待つことにした。

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