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53話「王都の混乱」

 俺とクシャナさんの知り合いの転移者錬金術師、天能寺愛理。

 そいつが最近住んでるのが、今来てるセルヴェール王国の首都ウィシュタルだ。

 つっても分かんないよな。異世界だし、ここ。


 まずこの世界は、分かりやすいくらい中世ヨーロッパ風ファンタジーな世界だ。

 どこに行っても森とか草原ばっか。

 村とかはところどころに小さいのがあるくらい。

 街って言えるくらいのはたまにしかない。

 そもそも俺たちの世界に比べて、人口がかなり少ないんだと思う。

 むしろ野生動物の方がよく会うくらいだし。

 鹿とかイノシシとか狼とか。

 あと魔物ね。

 多いのはゴブリンだな。

 こいつらはこいつらで村を作って動物なんかを狩って生活してる。

 でもたまに人間も襲うから注意が必要だ。

 他にもトロールとかね。


 そういうわけで、人間の街は全体が壁に守られてることが多い。

 村とかは木の柵がしてある程度だけど、王都ウィシュタルなんかは立派な城郭都市だ。

 何十メートルもある壁だから大抵の魔物は入って来れない。

 だから治安も生活も安定してる。

 さすが王都。

 実際、この王都は結構いいところなんだよ。

 街はきれいだし、食べ物だっておいしい。

 住んでる人たちだって割と親切だ。

 たぶん王様がいいんだろう。

 政治がいいから日々の暮らしに不安が無い。

 不安が無いから心に余裕が出来る。

 余裕があれば他人にも優しくなれる。

 この国はそういういい循環で回ってる。

 って前に愛理がそう言ってた。


 でも今日はちょっと様子が違う。

 戦争でも起こったみたいな雰囲気。

 ってか実際似たような状況だ。

 俺たちがこの王都に入って来た時に、街の上を飛んでる妖魔が見えた。

 まぁ、なんて言うかちゃんとした肉体を持ったガーゴイルみたいな奴らだ。

 全部でどれくらいの数が居るのか分からないけど、たまに何匹かが空に上がったり下りたりしてる。

 飛べる魔物は壁じゃ防げないからな。

 やっかいなことになってるっぽい。


「この有様は妖魔に襲撃されてるせいか。王都にしては脆いな。城壁は立派だったが、対空防御が考慮されてない」


 まぁ、王都って言っても弱小国家のだからね。

 壁くらいは地道に作れても対空兵器とか開発出来ないでしょ。

 がんばってもせいぜいでっかい弓矢的なやつとか?


「そもそもこの世界には空を飛べる魔物は多く居ませんからね。あの妖魔たちもここでは見慣れません」

「そういえばそうだね。たぶんどこか遠い場所から移動して来たんじゃない?」

「それって渡り鳥みたいにってこと? 魔物にもそういうことがあるのかしら?」


 別に普通にあるけどな。

 魔物だって理由があれば住んでる場所から移動する。

 そいつらが群れで暮らしてるなら、それこそ渡り鳥みたいに集団移動だ。

 白夜が居た異世界じゃどうだか知らないけど、あり得ない話じゃない。


「問題はどうして妖魔がこの街に来たのかですが、今はアイリを探すことを優先しましょう」


 そうだった。

 クシャナさんの言う通りだ。

 この国の問題は、基本的にこの国の人たちが考えることだからな。

 俺たちとしては、とりあえず愛理と合流出来ればそれでいい。


「それで、彼女はこの街のどこに居るのか見当はつくのか?」

「たぶん自分の館だと思うよ。あいつ基本的にそこで研究ばっかしてるし、きっとそうだよ」

「自分の館を持ってるのか。諸神君より年下なのにすごいな」

「アイリはこの国では要人扱いですからね。工房を兼ねた館も王室から与えられているものです」


 実際愛理はここでけっこうチヤホヤされながら錬金術を研究してる。

 何せこの世界では最高の錬金術師で通ってるからな。

 ここみたいな小さい国にしてみたら、我が村にスーパースターがやってきた状態だ。

 そりゃ全力で歓迎もするだろうさ。


「それじゃあそこに行けば会えるのね。それなら早く行きましょう」

「なんだよ、妙に張り切ってるな」


 なんて言うか、白夜が意外と乗り気なんだよな。

 こいつも、俺たちの世界の異常に気付いてる転移者ってことで一応連れて来てる。

 けど、本人的もにそんなにうれしいことなのか?


「張り切ってるってことはないと思うけど、その愛理って子も転移者でしょ。色々話してみたいわ」


 愛理と、ねぇ。

 悪い奴じゃないけど、ちょっと癖のある性格だけどな。

 まぁ、女同士なら上手くやるかもだ。


「とにかくアイリのところへ行きましょう。あの子の城まではそう遠くありません。しばらく歩けばじきに着きます」

「そうだな。なんにせよ、まずは行ってみるとしよう」


 獅子雄中佐はそう言って荷物の紐を肩にかけた。

 それはどこからどう見てもライフル銃を入れてるソフトケースだ。

 魔法とか使えないからあれで身をも守るらしい。

 でも銃なんてこの世界には無いからな。

 あんまり人前では使わないで欲しい。


 とにかく俺たちは愛理の館に向かって歩きだした。

 妖魔が壁の中に入って来てるだけあって、やっぱり街の人たちはいつもと違う感じだ。

 みんなあちこちで固まって話し込んでる。

 動いてる人もたいてい急いでて足早だ。

 もしかしたら街の外に逃げる準備でもしてるのかも。

 その証拠に、王都を取り囲んでる城壁の外に難民キャンプみたいにしてる連中も居たからな。

 妖魔は怖いけど、遠くに逃げる決心もつかない奴らだろ。

 空飛べる相手に壁の中も外もたいして変わらない気がするけどな。

 それでも、ちょっとでも安全なところに避難したいってのは仕方ないか。

 そういう意味じゃ愛理はどうしてるんだろう。

 もしかして館から避難してたりして?

 あいつの工房だから下手な場所よりは安全なはず。

 でも国の偉い人が連れ出してる可能性もあるな。

 まぁ、その時は王様の城に居るだろうからそっちに行くだけだ。

 さて、さっさと会って用事を済ませるか。

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