51話「召喚術士はかく語る」
「ところでお前はどうしてこの世界がおかしいって知ってるんだよ。もしかしてこんなことになってる原因に心当たりがあるのか?」
緒方大尉と話し終えた俺は、今度はデイドリームに向かってそう言った。
こいつらをどうするにしても、最低限それを聞いとかないと。
いや、まぁ、どうするつもりもないけどな。
「あるわけないでしょう、そんなもの。私はただ召喚術士として、異世界との『縁』のつながりが乱れていることを突き止めただけよ」
「どういうことだ?」
「そもそも異世界召喚には異世界との『縁』が必要なの。『縁』と言うのは異世界にまつわる人や物。つまり異世界人や異世界産のアイテムのことよ。この世界にはね、何故かそういったものが紛れ込んでいるわ」
それはまぁ、知ってるよ。
つかこの世界だけじゃなくて、他の異世界でも同じだ。
その世界にとっての異世界人とか異世界産のアイテムとかってのは、たしかに色んな異世界で見つけてきた。
俺自身そういったものを利用して世界転移能力を使ってる。
それにどこの世界に住んでようと、異世界召喚術士ってのはみんな俺と同じやり方だ。
「異世界召喚で『縁』が必要なのは、それを使って術式を繋げる『向こう側の世界』を見つけるから。でも気付いたのよ。明らかにこの世界で作られたものが、異世界との『縁』として使えることにね」
「は? おかしいだろ、そんなの。この世界で作られたなら、この世界の『縁』にしかならないはずだぞ」
「だからそれがきっかけで気付いたのよ。この世界は色々とおかしなことになっていることに」
どーなってんだ、ほんとに。
デイドリームの言うことがほんとなら問題だぞ。
『縁』ってのは言ってみれば異世界の手がかりだ。
その世界で生まれた『もの』はその世界との『縁』を持ってる。
それが普通だ。
それなのに、この世界で生まれたのに異世界の『縁』を持ってるってのは辻褄が合わない。
言ってみれば日本人の両親から生まれたのに、アメリカ人のDNAを持ってるみたいな話だ。
おかしいって言うか、ありえない。
「なぁ、それってほんとに――」
「待って。出来るなら、今日はここまでにして私たちを帰してちょうだい。レーヴェントーレを、休ませたいから」
言われてみればレーヴェントーレの顔色が悪い気がする。
つっても元々色が黒いからよく分からないんだよな。
それにしてもなんつーか健気だな、デイドリームの奴。
使い魔をこんなに心配するなんて、案外いい召喚主なのかも。
「まぁ、それは別にいいんだけど……」
「しかし今日はと言われても、修司に対する仕打ちの借りもあるうえに、次にちゃんんとまた会えるという保証もありませんしね。正直帰していいものかどうか……」
「だ、だったらこれを渡しておくわ。次に会った時に返してくれればいいわ」
デイドリームが投げて寄こしたのは、召喚士ギルド会員証って書かれた一枚のカードだった。
名前の欄は『陽之下夢路』ってなってる。
そう言えばさっきレーヴェントーレが夢路とかって呼んでたな。
デイドリームはエルフなのに思いっきり日本人の本名かよ。
まぁ、日本に住んでるくらいだから別におかしくないのか?
田中だって今はオークだしな。
とにかくこれでデイドリームは自分の個人情報を差し出したわけだ。
「分かったよ。信用すりゃいいんだろ。で、お前に会うにはどこに行けばいいんだよ?」
「白夜に案内させなさい。人払いの魔術を調整しておくから、私のところまで辿り着けるはずよ」
「ちょっと、デイドリーム。あんたなに勝手に――」
「話しはここまでよ。近いうちに必ず来なさい。いいわね」
そう言うとデイドリームは自分たちの真下に魔法陣を生み出した。
送還魔法で自分の隠れ家まで跳ぶ気だな。
ていうか、見逃してもらってるくせに偉そうな態度は曲げないんだな。
「それから白夜。これだけは今、教えておいてあげる。私があなたを召喚した時に使ったのは異世界の『縁』よ。転移者であるあなたを呼び戻そうとしたのではなく、単純に異世界召喚をしたらあなたが出て来たの。どうしてそんなことが起こったのか、今度会う時までに原因に思い当たる節を考えておいてちょうだい」
「え? それってどういう――」
そして目の眩むような光。
花が開くようにブワってなって、花火が燃え尽きるみたいに収束した。
それで光が消えた時には二人はもうこの場には居なくなってた。
送還魔法か。便利だな。
つかワープ代わりに使うとか頭いいな。
今までそんなことやってる召喚士に会ったことない。
なんでみんなやらないんだ?
もしかしてりデイドリームが器用なだけで普通は出来ないのかも。
俺は召喚術とか詳しくないから今度聞いてみるか。
教えてくれない気がするけど。
とにかくこれでデイドリームと知り合いになれた。
召喚術とかはともかく、この世界のことについてなら多少は情報のやり取りが出来るはず。
近いうちに来いって言ってたし、今度会いに行かないとな。
最後にめっちゃ気になること言ってたし。
「いったいなんだったのよ。もうッ」
白夜がちょっとプリってる。
まぁ、あんなこと言われたら仕方ない。
元々はオークから猫小判取り戻す、って話しが最後にはこれだからな。
世の中何がどうなるか分からないもんだな。
あ、つか猫小判!
たしかデイドリームは手に入れられなかったんだよな。
て言うことは盗んだ猪武者の連中がまだ持ってるってことだ。
「おい、お前ら猫小判どこやったんだよ。助けてやったんだからちゃんと返せよ?」
俺がそういうとオーク連中の視線が子供総長に集まった。
いや、そもそもなんで子供が総長なのかその辺の説明も聞いてみたいんだけど?
「えっと、猫小判はこの部屋に隠してあります。ギュスタフ、出してあげて」
あらまぁ、なんて礼儀正しい。
……。
なんでかなぁ。
色々間違ってる気がするんだよね、こいつら。
まぁ、それはともかく、ギュスタフは講堂の上手、一段高くなってる演台上に上がった。
それから後ろの壁に手を当ててグッと押す。
そしたら壁の一部がクルって回って隠し扉が開いた。
OH! ジャパニーズ ニンジャウォール。
デイドリームの奴、これに一杯食わされて見つけれなかったのか。
なんかもう逆に可哀そうになってくるな。
「それでは確かにお返しする」
隠し扉の向こうからギュスタフが猫小判を出して来た。
思ってたよりデカッ!
形はまんま小判だけど、縦にしたら1メートルくらいあるじゃねーか。
「にゃはー。これにゃこれ。間違いなく本物の猫小判にゃ。これで猫大明神さまの威厳が守られるにゃ」
マーブルはギュスタフから奪い取るように猫小判に飛びついた。
抱きしめたり頬ずりしたりすげー喜び様だ。
「威厳も何もどうせぐうたらな神さまじゃねーか」
「分かってにゃいにゃ。大昔から猫大明神さまと猫小判はワンセットと決まってるにゃ。伝統と格式の必須コンボにゃ」
その割には猫小判には異世界の『縁』があるってのが謎な。
その辺の話しもまた今度だ。
「取り合えずこの話しは片付いたけど、この後どうする? 緒方大尉さ、獅子雄中佐に電話してみてくれない?」
「分かった。少し待っててくれ」
緒方大尉はそう言うと俺たちから少し離れた。
スマホを取り出して電話をかけて獅子雄中佐と話しだした。
「そう言えばみんな大丈夫か? 怪我とか変なバッドステータスもらったとか無いよな?」
特に捕まってた3人はなんかあっても不思議じゃない。
でも全員異常無さそうって返事で一安心。
そうこうしてたら電話を終わらせた緒方大尉が戻ってきた。
「諸神君。今日の会合は中止だ。獅子雄中佐は雪代白夜さんに会いたいと言ってる」
まぁ、そうなるわな。
獅子雄中佐たちにとって、白夜は今も重要参考人のはずだ。
すぐにでも会いたいんだろう。
「だってさ。どうする? 俺も一緒に行くか?」
「一人で大丈夫よ。 あんたたちが信用してる相手なら私も信じるわ」
「そっか。ならマーブルは? 猫小判運ぶの手伝うか?」
「必要ないにゃ。これはにゃんが責任をもって運ぶにゃ」
「なんだよ。そしたら俺たちが暇じゃねーか」
元々今日は獅子雄中佐と会う予定しかなかったしな。
それが無くなった以上、今日はもうやることがない。
「でしたらホテルに戻りましょう。いつまでもそんなベタベタではいけません」
そう言われてみればそうだ。
こんな恰好じゃデートの続きも出来ないしな。
仕方ない。
今日は大人しくホテルに戻るか。
「帰ったらお風呂に入れてあげます」
クシャナさんはそう言って無表情に微笑んだ。




