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46話「慧眼の魔族」

「さて、存分にとは言うが、私が本気を出すに足り得る強敵などこの場に居るようには見えないが?」


 召喚されて出て来たレーヴェントーレとかいう魔族は、俺たちを一瞥するなりそう言った。

 くそ。見下してくれるじゃんか。

 そりゃ上位魔族からしたら人間もオークも雑魚だ。

 正直俺も互角に戦える自信は無い。

 下手に動いたら瞬殺されかねないし、向こうの初動に反応し損ねたらやっぱり瞬殺されるだろう。

 とにかく今は最大警戒で出方を覗うしかない相手だ。


「あら、それならそれで構わないでしょう。敵が強くていいことなんて何もないわ。倒せるものはさっさと倒してしまってちょうだい」

「ふむ。たしかに私は君と契約したが、雑用を押し付けられるいわれは無いな。このような者たち、他にいくらでも任せられるだろう?」

「そうとは限らないわ。少なくとも、そこの男はどこか普通ではないみたいよ?」


 デイドリームに釣られてレーヴェントーレの視線がこっちに向く。

 おい。なに余計なことしてくれてんだよ。

 完全に俺のことロックオンしてるじゃねーか。

 

「ほう。普通ではない、か。たしかに彼の気配は面白い。まるで人間とは思えんな」


 近づいてくるレーヴェントーレに対して俺は一歩前に出る。

 本当なら田中たちからもっと距離を取りたいんだけどな。

 あんまりうかつに離れるとそれはそれで守れなくなる。

 状況的にギリギリなんだよ、これ。


「それで、君はいったい何者だね。純粋な人間ではないようだが、かといって魔物の類いでもあるまい? それどころか『存在』というレベルにおいては非生物にさえ見える」


 げ。こいつなんて洞察力してんだよ。

 鑑定スキルは持ってないみたいだけど、それにしても鋭すぎ。

 俺が持ってる秘密の能力の正体に戦う前から感づくとかなんなんだよ。


「どういうことかしら。それはつまりホムンクルスということ?」

「いや。そんな生まれながらのまがい物ではない。元は歴とした生き物だったろうさ。ただどういうわけか『存在』として、別の何かと混ざり合っている。恐らくは魔導器。霊的サイボーグと言ったところか」


 ちょっと待ってちょっと待って、こいつほんとなんなの?

 完全に種も仕掛けもバレバレじゃん。

 ああ、そうさ。

 俺は自分って『存在』に『レトリック』って言う古代錬金術の遺物を融合させられてんだよ。

 つっても別に好きでこんな状態になってるわけじゃない。

 やったのは知り合いの錬金術師な。

 でもそのおかげで俺は現象や物体やスキルを割と自在に改変出来る。

 それが秘密の能力の正体だ。

 まぁ、それも万能ってわけでもない。

 というか色々諸刃の剣過ぎて、わざと機能的に制限つけてセーフティーにしてる感じ。

 下手に改変し過ぎるとと自爆するからだってさ。

 とか言いつつそんなもんと融合させるとか鬼畜だろ、俺の知り合い。

 いや、しかしでも驚いた。

 まさか一目見ただけでここまで見破られるなんてな。

 そりゃ魔族が魔術や錬金術に長けてることは多いよ。

 それでもここまで知的なのも珍しい。

 さすが上位魔族。

 こりゃ戦っても勝ち目なさそうだぞ。


「それにしても面白い。そうまでして力を欲するとは、まるで人間のどこまでも際限の無い欲望を具現化したような『存在』だな。いいだろう。一つ私が手合わせしてやろう。君の執念の成果、見せてみるがいい」


 違う違う! 勘違いしてる!

 これは知り合いが勝手にやったの。

 そういうとこまでちゃんと見抜いて!


 ところが残念。

 そんな俺の願いも空しくレーヴェントーレが動いた。

 まるで空中を滑るような突進。

 そのあまりの速さにビビりつつ、それでも俺は前に出る。

 陣足で地面を蹴っての踏み込み。

 五指を槍みたいに突いてくるレーヴェントーレにカウンターで拳を返す。

 瞬間、その姿が消えて俺の攻撃は空を裂く。

 完全に敵を見失った俺は、天井に何かが当たった音で辛うじてその位置を捉えなおした。

 頭上。

 攻撃を真上に回避したレーヴェントーレは天井に着地(・・)して第二撃の体勢を整えてた。


「チッ」


 空ぶった拳を手刀に変えて斬波を撃つ。

 レーヴェントーレは斜めに飛んで回避。

 一度距離を取りつつもピンボールみたく壁や天井を移動する。

 くそ。完全に遊んでやがる。

 一気に押し切る自信はあるだろうに、俺の手の内を見るためにわざと手を抜いてるな。


「さぁ、どうする少年よ。私が飽きたらそれまでだぞ。もっと私を楽しませてくれたまえ」


 いい気なもんだな。

 こっちは動きを追うのだけでも精一杯だっての。

 とりあえず斬波を撃ちまくってみるけど全然当たらない。

 そもそも撃った瞬間にはレーヴェントーレは移動してるからな。

 ぶっちゃけ射撃系の攻撃は無意味だと思った方がいいのかも。

 とは言え接近戦なら勝ち目があるってわけでもない。

 とりあえず向こうが引き下がってくれるまで粘るしかないんだけど。


「修司。援護するわ。二人で追い詰めましょう」


 そいつは賭けだな。

 たしかにイベントホライゾンの攻撃力は魅力的だ。

 防御は不能だし、いくら上位魔族でも致命傷は避けられないだろう。

 ただし当たれば、だ。

 イベントホライゾン自体ははそんなに早くない。

 斬波を余裕で避けるレーヴェントーレに当たるかはかなり疑問だ。

 しかも逆に白夜が狙われたらまずい。

 俺でさえギリギリだし、白夜が自力で対抗できるかどうか。

 いや、白夜に限らず人間が上位魔族相手に戦うとか厳しすぎ。

 最低でももっと人数揃えなきゃ無理だ。

 だって言うのに――


「よかろう。2対1なら少しギアを上げるとしよう」


 ほんと最悪。

 余計にやる気を出したレーヴェントーレに、俺はさらに危機感を募らせるのだった。

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