表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/173

42話「確かにここにある白昼夢」

 召喚術士デイドリーム。

 原宿のどこかに拠点を持つ若いエルフ。

 性格は高飛車で高圧的。

 欺瞞魔術で自分の根城を徹底的に隠す謎めいた存在。

 そしてこの世界の置かれた状況について何かを知っているかもしれない貴重な手がかり。

 それが俺たちの知ってるデイドリームって奴だ。


 俺たちはそいつに接触するために、猫人たちと交換条件で協力関係を取り付けた。

 やることは簡単。オークに盗まれた宝物を取り戻すだけ。

 そうすれば裏原宿ってアンダーグラウンドなネットワークがデイドリームと会わせてくれる。

 そういう話しだった。


 ところが、いざオークの本拠地に乗り込んでみたらデイドリーム本人が居た。

 ビルの最上階の講堂をジャングルに変えてラーズたちを人質に取ってた。

 しかも助けに来た俺と白夜もラフレシアのお化けっぽい魔物の触手で逆さ宙吊りだ。

 デイドリームはラフレシアの影から出て来て、そんな俺たちをどこか見下した目で見上げてる。

 なんか器用な奴だな。


「ごきげんよう、まぬけで無様なお二人さん。仲良く吊るされる気分はどうかしら?」


 言ってる内容の割には透き通るような綺麗な声だ。

 悪役台詞じゃなきゃ褒めてやったんだけどな。


「デイドリーム。あんた、こんなことしてなんのつもりよ!?」


 白夜が逆さまのままデイドリーム食ってかかる。

 でもあっちは全然余裕って態度のまま。

 まぁ、俺たちは罠にかかった獲物状態だしな。


「お久しぶりね、白夜。私のところから勝手に出て行ったと思ったら、こういう形で戻ってくるとは思わなかったわ」

「お互いさまよ。まさかあんたがこんなところに居るなんてね」

「ええ、私としてもこんなところに寄り付きたくなかったけど、仕方なく、というところかしら」

「仕方なく? あんたでしょ。ここのオークを利用してキャットストリートの宝物を盗ませたのは」


 まぁ、普通に考えてそうなるよな。

 捕まる前にマーブルが電話で言ってたことを考えればほぼ確実だ。

 猪武者の連中は捨て駒として雇い主に裏切られたってことだったからな。

 この状況を見れば誰が雇い主なのか考えるまでもない。


「だったらどうなのかしら? あなたに何か関係があること?」

「あるわよ。だってそれを取り戻したら猫人たちがあんたに会わせてくれるって……。あれ?」


 そこまで言って白夜の言葉が止まる。

 取り戻す前にデイドリームに会っちゃったからな。ちょっと戸惑うよな。


「私に会いたかったのなら目的は果たせたわね。これでもう暴れる必要は無いということね?」

「おい、ふざっけなよ。俺たちを逆さ吊りにしといて仲間まで人質に取ってんだ。このまま大人しくしてると思うなよ?」


 俺が話に割り込むとデイドリームの視線がこっちに向いた。


「あなたはなんでここに居るのかしら。見覚えのある顔だけど、白夜とどういう関係だったのかしら?」


 向こうもこっちのこと覚えてたか。

 ちょっと意外だけどそれはまぁ、どうでもいい。


「別に。ただちょっと知り合っただけだっての。いいからさっさとここから下ろせよ」

「お断りよ。ここまでついて来たということは、白夜の素性も私との関係も知っているわね? それにあなた自身も普通ではなさそうだし、念のためにそこで大人しくしていてもらうわ」


 ちくしょう。やっぱりこいつ自己中だ。

 逆さにされてる方の気持ちにもなれよ。

 いい加減頭に血が上ってバカになるだろ。

 こうなりゃ実力行使だってありなんだからな。


「だったら勝手に下りさせてもらうぞ。こんなデカいだけの植物系なんかぶった斬ってやる」


 見たとこラフレシアは防御力は低そうだ。

 俺の足を捕まえてる触手なんか斬波で一発だろ。

 あとは着地さえミスらなきゃなんの問題もない。


「やめておいた方がいいわよ。どこか少しでも傷つけたら強酸の樹液が噴き出るもの」


 げ。マジかよ。

 逆さ吊りの状態で触手なんか斬ったら酸が全部俺にかかるじゃねーか。

 そうなると下手なこと出来ないな。

 あ、でも白夜のイベントホライゾンなら……、いや無理か。

 触手の一部分を消滅さるのは切るのと同じだ。

 それと一緒に酸を防ぐのは同時には出来ないだろうし。

 くそ。

 地味に厄介な魔物だな、こいつは。

 つかこんな奴他の異世界でも見たことねーんだけど。

 どこに生えてたの持ってきたんだよ。

 切ったら酸出るとか危な過ぎだろ。

 もし日本の山の中にこんなのが居るんだったら困る。

 安心して虫も取りに行けねーよ。


「これも異世界から召喚した魔物? もうちょっと違うの呼び出しなさいよ。趣味が悪いわよ」

「あら、そう? でも残念だけど私の趣味でもないの。何故なら、異世界召喚を成功させるには呼び水になるアイテムが必要になるわ。それ次第で何が召喚できるか決まってしまうから相手を選ぶ余地は少ないのよ」

「なんだかよく分からないけど、ろくに相手を選べなんじゃあんたの召喚も大したことないじゃない」


 いや、違う。

 白夜は世界間の移動がどれほど難しいか分かってない。

 異世界転移能力を持ってる俺には分かる。デイドリームは本物だ。

 

 別々の世界を繋げるには強い『縁』が要る。

 つまり向こう側の世界に関係深い何かが、だ。

 何故かは知らないけど、俺が知る限りどこの世界にもそういったものが何故か存在してた。

 異世界産のアイテムもそうだし、転移者自体もその一種って言えるかもしれない。

 俺の世界転移能力はそういったものを利用して行先を決める。

 必要なのは最初の一回だけだけど、『縁』が無いと行きたい世界にゲートを繋げることができない。

 異世界に飛ばされた俺がすぐに元の世界に帰れなかったのはそのせいだ。

 俺の場合、自分自身やその時の持ち物は『縁』としては使えなかったからな。

 それはたぶんだけど、転移能力持ち本人だからなんだと思う。

 そう言うわけで俺は、元の世界に帰るためにこの世界と関係あるものを探して色んな異世界をさまよった。

 でも見つかるのは別の世界との『縁』をもったアイテムばっかり。

 結局この世界に戻って来るのに6年かかった。


 たぶんデイドリームの異世界召喚術も似たような条件があるんだろう。

 仮に俺の世界転移と近いやり方の召喚術なら、世界間を繋ぐ技術としての信憑性は高いと思う。

 それに、この異世界要素たっぷりになっちゃったアナザー東京について何か知ってそうなのも納得だ。


「お前が『縁』を頼りに世界間のやり取りしてんのは分かったよ。でもまさかそれのやり過ぎでこの世界がおかしくなったとか言うなよ?」


 試しにそう言ってみたけどデイドリームの表情は変わらなかった。

 やっぱりこいつとこの世界の有様は直接関係ないっぽい?


「……。あなたはこの世界の有様を認識しているのね。でも勘違いしないで頂戴。世界をここまで狂わせるなんて、個人の力では到底無理よ」


 そりゃそうか。

 やっぱ誰か人間が何かしたってだけじゃこうはならないよな。


「じゃあお前は今のこの世界の状態とは関係ないんだな?」

「当たり前でしょう。異世界召喚はあくまでも物理的な転移。この世界で起こっているのはそれ以上のものよ」


 たしかに歴史が変わってたり、知り合いの人間がオークに変わってたりってのは召喚と関係無さそうだ。

 ちょっとだけデイドリームの仕業かと思ったけどやっぱり安易だったか。


「あなた、『縁』なんて言う割にはその辺りには疎いのね。今朝は面白そうなのを連れてたから異世界召喚術に長けてるのかと思ったけど、どうやらそうではないようね」


 朝ってことはクシャナさんのこと言ってんのか?

 この言い方だと、こいつクシャナさんが異世界から来たってことに気が付いてるな。

 それかクシャナさんが只者じゃなさそうって気付いて探りを入れてるかだ。

 どっちにしろその件は他人にはノーコメントってのが俺たちの基本姿勢。

 わざわざほんとのことを教えてやる義理は無い。


「さぁ、どうだろうな。どっちにしてもお前には関係ないだろ」

「それはどうかしら。あなたも猫人の秘宝が持つ『縁』を求めて来たのでしょう? だったら私たちは同じものを奪い合う敵同士ということになるのではなくて?」


 何?

 猫小判が『縁』を持ってるって?

 それってつまり異世界産のアイテムってことだろ?

 昔から猫に小判って言うくらいだから日本製だと思ってたけど、どういうことだ?

 俺はデイドリームの一言に思わぬ不意打ちを食らった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ