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38話「向かうべき場所は」

「まぁ、いいか。それでお前らの本拠地ってどこだ? そこにあるんだろ、盗んだものが」


 俺はとりあえず田中から猫小判の在処を聞き出すことにした。

 こっちにしてみれば、猪武者の連中がどうして猫小判を盗んだかなんて関係ない。

 取り返して猫人のとこに戻してやりさえすれば、それでマーブルとの約束は果たせるんだからな。

 ここで田中から必要な情報を聞き出せれば問題は一気に解決だ。

 そういう意味じゃこのばつの悪い再会のし方も案外悪くなかったのかも。

 と思ったけど、田中の方はあんまり顔色がよくない。


「それは言えないって。俺にとっては仲間なんだから、裏切れないって分かるだろ」

「まぁ、そりゃ分かるけどさ、つるむ相手は考えた方がいいんじゃねーの?」


 猪武者ってチームが実際にはどんなもんなのか、具体的なことは俺は知らない。

 だけどラーズによれば荒くれ揃いのアウトローだってことだ。マーブルなんかは凶悪とまで言ってたっけ。

 完全に個人的な意見だけど、田中には向いてないんじゃねーかな。そういうとこ。


「モロちんが俺のこと思って言ってくれてるのは分かるよ。でも俺にとっては大事な居場所なんだ。だから悪いけどモロちんの知りたいことは教えられない」


 くそ。そんなこと言われると何も出来なくなるだろ。

 本人がそう思ってるなら、俺だって別に余計な口は出したくない。

 でもそうなると参った。田中がこれじゃ無理に聞き出すのも気が引ける。

 かと言って猪武者には俺たちの尾行はバレちゃった上に、返り討ちにもした。

 こうなって来ると、「じゃあ他当たるわ」で済ませるのも無理だろ。

 前に進むしかない状況で、進まないでくれって言われたらどうすりゃいいのか?

 結局のところ、話しは単純だ。

 俺は今まで進退窮まった時には無理やりにでも前に出て来た。

 それで失敗することも多かったけど、何も行動しなかったよりは良かったと思ってる。

 だから今回もそうする。

 田中には悪いけど、何か埋め合わせを考えるしかない。


 と、そう決意した俺が行動を起こす直前、ポケットに入れておいたスマホが震え出した。

 そう言えば尾行のためにバイブにしといたんだったな。

 俺はスマホを取り出して着信を確認する。

 相手はラーズだ。何か進展があったのかもしれない。

 俺は画面をスワイプして応答した。


『これは罠にゃん!』


 スマホを当てた俺の耳に飛び込んできたのは、ラーズじゃなくってマーブルの声だった。

 それも音割れするくらいの特大ボイス。

 思わず耳からスマホを遠ざけちゃったくらいだ。


「ちょっと落ち着けよ。ラーズはどうしたんだよ、ラーズは?」


 自動で切り替わったスピーカーの向こうで、マーブルがにゃんにゃん喚いてる。

 何があったのか知らないけど、今のこいつじゃ話しにならない。

 だいたいラーズのスマホなのになんでお前なんだよ。


『ラーズは捕まったにゃん! にゃんたちはハメられたにゃん。猪武者の本拠地は見つけたにゃが、作戦は最初からバレてたにゃん』


 おい、待てよ。最初からバレてたって、エリア5ってレストランでもう気付かれてたってことか?

 だから俺たちの尾行も不意打ちされたのか?


『よく聞くにゃん。この一件は猪武者が企んだんじゃないにゃ。連中も利用されてるだけの捨て駒にゃん。本当の黒幕はあのデイド、に゛ゃ!』


 マーブルが突然苦し気な悲鳴を上げたかと思うと、次の瞬間にはひどいノイズが襲って来た。

 多分落としたスマホが地面を転がったんだろう。


「マーブル。大丈夫か、マーブル!?」


 取り合えず呼んでみるけど返事は無い。

 代わりに誰かの足音がして、その後の一発デカいノイズを最後に通話が切れた。

 こりゃ間違いなくスマホ踏まれたわ。


「修司! 今の何よ!?」


 途中でスピーカーに切り替わってせいで今のは全部俺以外にも聞こえてる。

 だから白夜にだって状況には予想がついてるはずだ。


「決まってるだろ。喧嘩だ、喧嘩」


 実際のところ状況はよく分からない。

 それでもラーズとマーブルが良くない状況なのは確かだ。

 すぐにでも助けに行かないとまずい。


 俺は田中に向き直ってその顔を見た。

 こっちもこっちで訳が分からないって表情だ。


「お前らの本拠地ってのはどこだ。今すぐ場所教えろ」

「教えろって言っても……」


 こんどは困惑顔か。

 でも別に迷うことじゃないはずだ。

 マーブルの言ってたことがほんとなら猪武者だっていいことにはなってないはずなんだからな。


「さっきの聞いてたろ。お前らだって捨て駒として利用されてるんだよ。相手が誰だか知らねーけど、仲間が心配なら俺たちに任せろ」


 これはもう俺たち対猪武者って構図の単純な問題じゃない。

 猪武者の雇い主が連中を裏切った以上、ヤバい状況なのは俺たちと同じだ。

 もちろんだからって共通の敵を倒すために一致団結して、なんてお人よしなこと言うつもりもない。

 だけどラーズたちが雇い主に出くわしたのはたぶん猪武者の本拠地だ。

 だったらそこに俺たちを案内することは田中にとっても仲間を助けることにつながる。


「……分かった。モロちんのこと信じるから、みんなのこと頼む」


 田中はそう言って意を決した。

 ほんと、いい奴だよお前は。

 なんでギャングなんかやってんだか。

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