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36話「田中の怪」

「修司。大丈夫?」


 地面に大の字になった俺に駆け寄ってきた白夜の影が差した。

 差し出された手を借りて立ち上がる。

 取り合えずどこも痛くない感じ。


「ああ。全っ然なんともねーよ」

「そう。ならいいわ。あいつらみたいにならなくて良かったわね」


 見るとオークリーダーを含めて猪武者の全員が地面に転がってノビてた。

 体重が重い分、衝撃も大きかったろうしな。

 ご愁傷さまだ。


「しっかしこいつらどこから湧いて出てきたんだ。いくらなんでもタイミング良く後ろから来るとか反則だぞ」

「ていうか早い段階から私たちの方が尾行されてたんじゃない? こっちが追いかけてた二人の方も曲がり角で急に襲って来たし、あらかじめ挟み撃ちするつもりだったとしか思えないわよ」


 まぁ、そうだよな。

 あれは打ち合わせありきの連携だよな。

 つっても俺が速攻で片方の2人組を潰したから挟み撃ちとしては失敗なんだけど。

 それに後ろから来た5人は背中にフライングユニットまで背負ってたのも気になる。

 こっちの尾行に気が付いて応援に呼んだにしても、都合良くあんなもん背負ってるか?


「う、んん……」


 俺たちがあーだこーだって話してると、オークリーダーと一緒に墜落した一人がうめき声を上げた。

 最後までフライングユニットが生きてた奴だな。

 一番上に落ちたからダメージが少なかったらしく最初に目を覚ましたみたいだ。


 丁度いい。

 あいつらのことはあいつらに聞くのが一番だ。

 そう思って白夜を見ると、向こうも目線であのオークを指す。

 異存は無し、か。


 俺と白夜はオークのところまで移動した。

 肉団子状態から這い出そうとしてるそいつを二人で挟み込むように陣取る。

 こっちに気が付いたオークは動きを止めて俺を見上げた。


「ま、待ってくれ。もう戦う気は無いんだ」


 まぁ、そりゃそうだろ。

 この状況でまだ続けるならそりゃ単なるバカで勇敢でもなんでもない。


「許して欲しけりゃ今から俺がする質問に答えろ。いいか、正直にだぞ。ウソついたら、分かってんだろうな?」


 俺は出来るだけ凶悪そうな顔になるように表情を作る。

 眉を歪ませ下唇を突き出し、眼力全開で睨む感じだ。

 これでちょっとはビビッてくれねーかな?


「もう。やめなさいよ、修司。降参してるんだからそんなことしなくてもいいじゃない」


 いや。別に本気でやってるわけじゃねーよ?

 ちょっとだけ情報を素直に喋ってもらいたいだけで、そもそも喋らなくても何もしねーし。

 そのくらい察するか俺の人間性を信じて欲しかったよ。


 そんなわけでちょっとだけがっかりしてると、オークが俺の顔をじっと見つめてるのに気が付いた。

 なんだ?

 睨み返してきてるわけでもないし、ビビって許しを請うって感じでもない。

 どっちかって言うと、何かを必死に考えてるって顔だ。


「修司って……、もしかしてお前モロちんか?」


 オークは思い出したようにそう言った。

 一方、言われた俺と白夜は顔を見合わせる。

 見合わせて、白夜の目線がいったん下に下がって、また戻って来た。


「何見てんだよ。やらしー女だな」

「ち、違うわよ。だってあんなこと言われたら気になるじゃないッ」

「じゃあ違わねーじゃん。見てんじゃん、ばっちり見てんじゃん!」


 なに勘違いしてんのか知らねーけど、俺は先っぽすら出してないからな? 見ても何も面白くないからな?

 そんな俺たちのやりとりを見て、オークは一人でテンションを上げる。


「やっぱりそうだ。モロちんだ、モロちんだ」


 だから勘違いされるからそれやめろって。


「俺だよ、俺。小学校の時に同じだった田中。覚えてるだろ?」


 覚えてるも何も、俺の学校にはオークなんて居なかったつーの。

 困るだろ、お前。

 体育の時間とか絶望的に戦力差生まれるぜ?


「ほら、3年の時に一緒にカブトムシ取りに行って蜂に刺された田中だよ」


 あ、居たわ。そいつ。思い出した、思い出した。同級だった田中な。

 なるほどな。それで『モロちん』か。納得だわ。

 モロちんってのは当時の俺のあだ名だ。

 諸神だからモロちん。別にモロに出したとかそういうエピソードがあるわけじゃないぞ?


 しっかし田中か。へー、そうかそうか。


「あー、なんか、変わったな、お前」


 なんつーか、確かに田中は居たんだけどさ、もちろん人間だったよ?

 そりゃ太ってたけど、だからって絶対オークなんかじゃなかった。

 あまりの変わりっぷりに、逆に何も言えなくなるレベルだわ。


「昔に比べたらちょっと痩せたからな。イメージ違った?」


 痩せた?

 痩せたどころか倍率ドンでデカくなってるじゃねーか。

 それにそもそも種族が違うし、田中だって分かるわけねーじゃん。

 でもこれって「お前人間だったろ?」とは言えないよな。

 つかこれなに? どーなってんの?


「修司。……知り合いなの?」


 聞かれても色々な意味で答え難いよ。

 俺も混乱してる真っ最中だし、でもそういうことになるんだよな……。


「あ、ああ。小学校の時の同級、っぽい」

「そ、そう。珍しいことも、あるのね……」


 だよね。

 その反応はやっぱりおかしいと思ってるよね。

 白夜は田中に聞こえないように小声で詰め寄ってくる。


「ねぇ、あんたこの世界の元の状態を知ってるんじゃないの? オークの同級生ってどういうことよ?」

「さぁ、どういうことなんだろうな。人間だった奴がいつの間にかオークになってるってこともあるんだな」

「なに納得してるのよ。確かにこの世界は色々おかしくなっちゃってるけど、友達がオークになってるんだからもっと驚きなさいよ」

「驚いてるに決まってるだろ。こっちに帰って来て初めて会った知り合いがこれだぞ。ちょっとは気持ちの整理させろよ」

「そ、そう? そういうことなら悪かったわよ。私も親の仕事とか昔の思い出の出来事とかが変わってて混乱したから気持ちは分かるわ。……ウチはみんなちゃんと人間だったけど」


 そうか。こいつの周りでも色んなもんが変わっちゃってんだな。

 しかもそのことを誰にも信じて貰えず一人で半年も過ごしてたんだからこいつも苦労人だ。

 OK。分かったよ。

 こんなことで狼狽えてる場合じゃねーよな。

 俺はもう一度田中に向き直る。

 取り合えず色々話してみるのもいいかもしれない。

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