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35話「裏路地ギャングスタ」

「ハイパーバリー!」


 言葉と同時に放った俺のボディーブローがオークのボッテリした腹にめり込む。

 その一撃で浮き上がった巨体は地面に降りるなりそのまま崩れ落ちた。

 これで二人。

 一人目はあご。二人目は腹。

 俺は、最初に尾行してたコンビを増援が来る前にそれぞれ一発で沈めることに成功した。


「あんた、オーク相手にどんなパンチ力してるのよ?」


 褒めてんだが胡散臭がってんだか、白夜はちょっと怪訝な表情でそう言った。


「ま、男の拳は体格じゃないのよ。体格じゃ。言うなれば『魂』ってやつ?」


 なんつってな。

 まぁ、実際パンチ力なんて体格がほとんどだけどな。

 俺と一般的なオークじゃ体重で言えば4倍とか5倍くらいの差か。

 これだけの体格差なら普通は最初から勝負にならない。

 パンチの強い弱いってのは拳にどれだけ体重を乗せられるかが勝負だ。

 だからそもそも体重が重い奴が圧倒的に有利で、どれだけ技術を磨いてもウェイトが足りなきゃ威力の上限はたかが知れてる。

 そう言うわけで人族がオークに格闘で勝つのはかなり難しい。

 体重を四倍にするわけにはいかない。無理にやっても動きが鈍るからな。

 種族的なウェイト差はひっくり返すのは難しいてことだ。

 ま、俺の場合は最終的に拳が持つ運動エネルギーの方をチョメチョメしてるだけなんだけどな。


「よく分からないけど、残りの方もその調子で頼むわよ」

「オーライ、任せとけ。オークなんか何匹来ても、って飛んでる!?」


 見れば後ろから来てた5人のオークは、でっかい体の癖して何メートルも宙に浮いて空を飛びながら近づいて来てる。

 なんだ? なんなんだ?

 なんか背中に背負ってるみたいだけどアレのせいか?

 とにかく豚なのに空を飛んでるってことは、ただの豚じゃない!?


「ハーッハッハー。どうだ。驚いたか。我ら神州猪武者が自慢の高機動バックパック。科学のスピードに乗せたオークのパワー。とくと味わえぃ!」


 マジか。やっぱり背中のやつか。

 なんか光を噴射してるし、フライングユニット的な何かだろう。

 ギャングのくせにやたらとSFチックな装備持ってんじゃねーか。

 いや、そういや空飛ぶバイクも道路走ってたし、こういうのも出回ってても不思議じゃなかったな。

 でも一言言わせてくれ。


「それはお前らには似合わねぇよ!」

「シャラ―――プ! 侮辱には断固抗議! 断固攻撃! くらえ、『突撃! 猪突猛進!』」


 うお。全員突っ込んで来た!

 俺は白夜の手を引いて奴らとは反対側、曲がり角の先へと逃げる。

 オークたちは曲がり切れず真っすぐ突っ込んで行った。

 なんか色々ドンガラガッシャンやってる。

 あ、戻って来た。

 こっちに狙い定めて突進の準備してる。


「逃ぃーげぇーるぅーなぁー!」


 無理無理。

 常識的に考えて逃げる逃げる。

 またしても全力ダッシュしながら俺は白夜の手を放して先に行かせる。

 こいつは足速いし運動神経もいいだろうから傍に居なくても大丈夫だろ。

 そんなわけであえて白夜から遅れて殿に付いた俺に猪武者が追撃の牙を剥く。

 

「まずは貴様からペシャンコになれぃ! 一番! 『鉄砲玉のゴーダ』行けぃ!」

「応!」


 あ、なんか縦社会を感じさせるいい返事だ。

 リーダーの命令を受けたゴーダ氏が上空高く舞い上がったかと思うと、すぐさま俺に向かって急降下してくる。


「必殺! 落とし豚メガTON爆弾!」


 何が必殺だ。単に尻から墜落してるだけじゃねーか!

 とは言え下敷きになったらシャレにならない。

 あの体重のピッププレスを食らうとマジでペシャンコだ。

 俺は転がるように着地点から退避する。

 次の瞬間、地鳴りのような音と衝撃が奔る。

 見れば土煙の中、元居た場所の地面ににゴーダの巨体がめり込んでいた。

 

「あっぶね。ふざっけんなよ。死ぬだろそんなの!」

「ぬはは。見たか俺の肉弾攻撃のこの威力。しかし問題なのはこれをやると自力では地面から抜け出せないのだ!」

「ばっかじゃねーの? んなもん自爆と一緒だろうが!」


 俺は尻が地面に埋まったまま身動きが取れないゴーダの首筋に手刀を叩き込む。


「ぐふッ」


 反撃も回避も出来ないゴーダは無抵抗のまま気絶した。


「クソ。ゴーダがやられただと?」

「そりゃやられるに決まってるだろ、バカ」

「何を。豚に馬だの鹿だのとはこれ如何に?」

「だからそれがバカだっつーの!」


 俺は気絶したゴーダの体を踏み台にして跳躍。空中に居るリーダー格に殴りかかる。

 この路地は狭い。左右には逃げれないし後ろにも手下が居る。

 その状態で正面からの俺の攻撃だ。避けれるもんなら避けてみろ。


「なんのそれ式回機動!」


 あ、野郎。垂直上昇しやがった。

 あの重い体を一気に持ち上げるとかフライングユニットのパワーあり過ぎ!

 そして攻撃を空振った俺はそのまま慣性に従って放物線を描く。

 その先に居たのは突然のことで反応出来なかった手下Bだ。


「足場に、なれ!」


 あんまりにも丁度良かったんで俺はそいつの体を蹴って三角飛び。

 上に逃げたオークリーダーに向かって背後下から襲い掛かる。

 さすがに向こうも死角からの二段ジャンプまでは予想出来なかったらしい。

 今度は回避されることなく、俺は相手の後背に取り付くことに成功した。

 速攻で腕を回して首を絞める。


「ぐおぉ。ぎざま゛、ばな゛れ゛ろ゛ぉ」


 オークリーダーが暴れる。さらに上昇しながら俺を振り落とそうと激しく体を振り回す。

 俺はロデオ状態だ。

 それでも必死にしがみ付いて反撃のチャンスを計った。


「誰が離れるか。さっさと大人しく地面に降りろ!」


 俺はオークリーダーを黙らせるために背中に膝蹴りを入れた。

 ところがこれが最悪。蹴ったのは背中そのものじゃなくて、背負ってたバックパックの方だった。

 精密機械をぶっ叩いた嫌な音がして、バックパックの推力噴射が途切れ途切れになる。


「あ、ヤバい。落ちる落ちる!」


 バックパックは完全に不調だ。

 俺とオークリーダーは空中で不安定に上下にガクつく。

 どう考えても墜落5秒前って感じ。

 高度も周りのビルよりもかなり高いし、さすがにオークリーダーもマズイと思ったらしい。


「お、お前ら。ささ、支えろッ」


 こういう時、縦社会の反応は早い。

 手下の3人は文字通りすぐにこっちに飛んできてオークリーダーの体を掴む。

 そして上手く息を合わせてゆっくり高度を下げて行く。

 順調だ。このままいけば無事に地面に下りられる。

 だけどダメだな。だってそれは面白くない。

 そうだろ?


 俺は手下の一人のバックパックに向かって掠めるように斬波を放った。

 蹴っただけでもトラブった精密機械だ。

 斬波でザックリ斬られたバックパックはいとも簡単に機能停止した。

 手下Bのバックパックはもう役立たずだ。

 オークリーダーの体を持ち上げてたのが、こんどは逆にオークリーダーにぶら下がる形になる。

 その負荷は当然残りの2人の手下にかかる。


「おおおおおお!」


 オーク二人と俺の体重。それ全部を二つのバックパックで支えるのは無理だった。

 手下たちは必死に推力を噴かすけど結構な速さで地面が近づいてくる。

 だけどまだまだ。

 今のスピードじゃ落ちたって大した怪我にもなりゃしない。

 俺はもう一度斬波を使ってもう一つバックパックを破壊する。


「ば、バカ野郎ぉぉぉ!」


 今度こそ致命的だった。

 推力とウェイトのバランスは完全に傾いた。

 もうほとんど自然落下に近い形で俺たちは地面に真っ逆さまだ。

 最後にオークリーダーの体を蹴って離脱。

 一人身軽になった俺は着地と同時に地面を転がって慣性を殺す。

 一方オークたちはそのまま墜落して地球にキスをした。

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