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26話「ローブの女、再び」

 原宿。

 そこは紛うこと無き獣人の街だった。


 一本遅れで何とか電車に乗ることに成功した俺とクシャナさんは、今日の目的地である原宿へと辿り着いた。

 来てみて納得。事前情報で知ってたけどすごいよ、ここは。

 なんたってケモノとのエンカウント率ならサバンナ以上だ。いや、そんなとこ行ったこともないけど、さすがに人の波ならぬ獣人の波で溢れかえる原宿の方が明らかに上だろ。

 種族だって色々居る。馬面男とか猿人類とかタイガースファンな服装のトラ人間とか人間のヤンキー相手に優勢にメンチきってる巨大ウサギのギャングスタとかもう動物園なんて要りません。コミュ力次第じゃ直接触れ合うことだって出来ちゃう。ケモノ臭もハンパないよ。


「ずいぶんと混雑していますが、あなたの国は本当に人が多いんですね」

「うん。ここら辺にはほとんど人族居ないけど、東京だけでも100万人くらい居るはずだから」


 なんてったって東京の人口過密っぷりは有名だ。たしか世界で初の100万人都市も江戸だったって話しだし、人が多いのは昔から変わらないんだろうな。

 あれ。でもこれだけ獣人だの他の種族だのがいっぱい居るなら人口はもっと増えてんのかな?

 人間だけでも100万だろ。代官山で見たとこ半分近くは他種族だったから、そいつらも50万人くらい居るって計算にならないか?

 いや、さすがにそうなってくると人口的なキャパシティーを越えると思うんだけど、その辺どうなんだろう。


「それにしても獣人街と言うのも不思議なものですね。今までは特定の種族の集落と言うものは何度も見てきましたが、こうして色々な種類の獣人が寄り集まって繁華街を作っているのはあまりありませんでしたから」

「そう言えばそうだね。違う種族同士の対立とか結構あったりするし、ここまでごっちゃませってのはちょっと面白いかも」

「ですがこの辺りは私たちにはあまり向かない場所のようです」

「そう? 下手にエルフに囲まれるよりいいと思うけど」

「それはそうかもしれませんが、並んでいる店を見てください。どこも獣人向きでシュウジや人間に化身している私には合いません」


 言われてクシャナさんの視線を追うと、そこには歩道に面したカウンターを持つファーストフードの店があった。

 いや、ファーストフードライクな店構えをしてるけど、はっきり言ってあれは八百屋だ。

 だって客が買ってるのはクレープに使うような包み紙に入った生野菜だからね。チョコレートソースさえかければスイーツを名乗ってもいいってことはねーよ?


「うーん。たしかにここはあんまり買い物するには向いてないかもね」


 他の店を見ても、食べ物系に限らず軒並み獣人向けショップだらけだ。獣人向け革ジャン専門店とか需要あんのか? 下手な皮ジャンなんかよりむしろ自前の皮の方がよっぽど上質な連中ばっかりじゃねーか?


「調べたかぎりじゃ表参道の方はまともな店が多いみたいだからそっちで、ってあれ?」


 喋りながら辺りを見回していた俺は、雑踏の中に見覚えのあるローブ姿を見つけた。

 そいつは身長160センチくらいで体格からして人間の女で間違いない。ローブを目深に被ってるけど気が強そうでいて人目を引くほど整った顔がちょっと見え隠れしてる。

 つか確実に中目黒公園でラーズに追いかけられてた女だった。


「おや、勝手にどこかに消えたかと思えばこんなところに居ましたか」


 クシャナさんもこう言ってるし、間違いなく同一人物だな。この人の気配察知は意識を集中すれば一度出会ってる個体を識別出来るから絶対だ。

 それにしても相変わらずローブなんか被ってこんなとこで何してんだろうな。

 この辺のショップは人族に用があるようなもんじゃないのはさっき言った通りだ。ましてや若い女が一人で来るようなとこじゃないと思うんだけど。

 その辺気になるっちゃ気になるけど、どうしようかな。今はクシャナさんとデート中だし、ほっとくか?


「シュウジ。あの小娘を捕まえますよ」

「え、マジで?」


 クシャナさんのこの反応は意外だ。

 そりゃ確かに恩を仇で返されたような気もするけど、あれくらいのことを根に持つようなクシャナさんじゃない。むしろあっさりクールに「無関係ですから放っておきましょう」くらいに言うのかと思った。


「忘れましたか? シシオはあの小娘を重要参考人として追っていたと言ってたじゃありませんか。偶然とは言えせっかく見つけたんですから、午後からの会議に連れて行くのも悪くないと思いませんか?」

「そっか。そう言えばそうだったね」


 思い出してもみれば確かに昨日そんなこと言ってた気がする。なんでもあいつが異世界人か異世界人の関係者って話しだった。

 俺からしたらどう見ても日本人にしか見えないんだけど、異世界人の知り合いが居るかどうかまではさすがに分かんない。

 そうなるとやっぱり見て見ぬフリも出来ないか。

「分かった。じゃあちょっと俺から話しかけてみるよ。一応助けたんだから無下にはされないと思うし」


 考えてもみてくれよ。言ってみりゃ俺はあいつの恩人だ。まぁ、何をしたって言われたら「特に何も」としか答えられないけどさ、それでも時間稼ぎをしたのは俺だと思うんだよ。

 ぶっちゃけラーズに捕まってても、獅子雄中佐は普通に話しするだけのつもりだったろうけど、それはまた別の話しだ。

 あいつが獅子雄中佐に会ってくれるにしろ拒否するにしろ、とりあえず誰かが一回話してみる必要がある。

 そうなってくるとたぶん俺が一番適任だよね。

 ってことでおもむろにローブの女に近づいて声をかけた。


「へい、彼女。一緒に生野菜でも食べない?」

「……? あ!」


 俺の紳士的かつフランクな声に振り向いた女は、こっちの顔を見るなりただでさえデカい目をギョッと見開いた。

 HAHAHA。

 運命的な再会だからってそんなに驚くことないんだぜ、って走って逃げ出しやがった、あの野郎。

 ローブの女は全速力で人ごみの中を去って行った。

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