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95話「決戦へ」

「なんだよ、この怪物は……?」


 黄金宮殿の奥へと進んで大広間にたどり着いた俺たちは、そこで今まで見たことのないような奇妙なものと対峙した。

 それは一見すると生き物じゃなくって、モヤモヤっとした黒い塊だ。

 いまいち実体感が無くって、言ってみれば黒い霧が局所的に発生してるみたいなものだった。


「これって、前に異世界に愛理を迎えに行ったときに襲ってきてたやつじゃない?」

「だな。でも――」


 たしかに白夜の言う通り、異世界にある愛理の館で見たやつに似てる。

 って言うかほとんどそのままって言っても過言じゃない。

 ただあの時、愛理を襲ってたやつはもっとこう……、はっきりしなかった。

 霧みたいなモヤみたいな不定形の本体から腕を伸ばしてきたり、生き物っぽさはほとんど無し。

 それが今は大まかにだけどちゃんと形を持ってる。

 しかも妙に見慣れた特徴が気になる感じ。


「うーん。なんだかクシャナちゃんたちに似てるね」


 真っ黒だし、シルエットだけだけどな。

 それでもどう見てもその形はクシャナさんの種族にそっくりだ。


「脚が12本ですし、そう考えるのが普通ですよね……」

「だとすると厄介そうね。やっぱり強いのかしら。できれば戦いたくないわね」


 問題はそこな。

 変身能力で勝手に形をマネしてるだけか、それともスキルなんかもひっくるめてコピーしちゃった系なのか。

 場合によっては結構ややこしい話になるかも。


「おい。ブラックアイズ。あれはいったいなんなんだ。最後の門番的なやつか?」

「いや、あれが君を待ち受けていたものだよ。ただ、今のあれがどうなっているのか詳しいことは僕にも分からないけれど」

「ここまで連れてきたわりには無責任だな。それじゃいったいなにをどうすればいいんだよ?」

「もちろんあれを止めるんだよ。あっちもあっちで僕たちを敵と見なしたようだし、応戦しながら対応を探るしかない、ねー―」


 戦いの火ぶたを突然切ったのは、あの謎の魔物だった。

 こっちに敵意があるとか無いとかは関係無いのか、問答無用で魔力弾を撃ってきた。

 ブラックアイズはきっちりとそれに反応して、ちょっと遅れた俺はクシャナさんに引っ張られて強制退避。

 同時に、魔物は空中に飛び上がってそのまま空間疾走を開始した。


「私が対処します。そのあいだに作戦を考えてください。あれは……、上に現れたのとよく似ています」


 それだけ言い残してクシャナさんは魔物を追って空中に跳躍する。


「上のって、あの偽ゲオルギウスか。あいつも変身するときにおかしなことになってたけど、なにか関係あるのか?」

「君たちの見たのはクラルヴァインの成れの果てだね? だとすればそれは信徒たちの呪法によるものだよ。彼らは半精霊を素体にゲオルギウスの完全再現を企んだ。もっとも結果は知っての通りだけれどね」

「それはなんとなくわかってたんだけど、あれと似てるってどういうことだ?」

「それはね、クラルヴァインに施された呪法は、女王陛下と戦っているあれを基にしているものだからだよ」

「基に?」

「見ての通り、あれは普通の魔物でもなければ、そもそも生き物ですらない。本質的に言うと、あれはあれ自体がゲオルギウスの残した最後の秘術なんだ」

「あれ自体が秘術って、じゃああの形はやっぱりコピーか」


 元々、ここにはちゃんとしたクシャナさんの同族も居た。

 それを考えると、もしかしたら亜種的なやつって線もあった。

 けど、ブラックアイズの言う通りならその可能性は無くなったわけだ。


「形だけではないよ。あれは、あらゆるものの存在性を取り込んで進化していく、『完全を創造するもの』を生み出すための秘術だ。形を模している以上、その能力も取り込んだと考えるべきだろうね」

「げ。やっぱりそっちか。どう考えても厄介なやつがさらに厄介になった感じだな。なぁ、愛理?」


 片やクシャナさんの種族は最強だし、あの黒い霧も前に戦った感じだと手ごわそうだった。

 それが合体しちゃったなら、こっちとしてはすごくやな感じ。

 足手まといでも一応クシャナさんを援護した方がいいかな?


「今、『完全なものに進化する』じゃなくて、『完全を創造するもの』を生み出すって言った?」


 愛理は俺に答えることなく、逆にブラックアイズに質問を投げた。


「そうだよ。あれは自己進化すると同時に、外界を改変する能力を持っている。一つの意志を出発点として、『自己=世界』という関係性に至ることで完全なる理想の実現を目指す。その秘術の名は――」

「ディアレクティケー。レトリケーの、後継型……」


 その名詞を口にした愛理は、自分で言って自分で信じられないような、そんな懐疑的な顔だった。


「後継型って、レトリックにそんなのがあったのか?」

「一応あったんだよ。構想だけで、ほとんど記録も残ってないけど」


 それで愛理は今までその話をしたことがなかったのか。

 実際には形になってないなら、存在しないのと同じ。

 少なくとも俺が気にしないといけないようなものじゃないしな。


「って、え?」


 俺は、一瞬納得しかけて、明らかに矛盾してる事実に気が付いた。


「じゃああれはなんだよ。作られてもないものが、どうしてここにあるんだよ。あれはほんとにゲオルギウスが作ったのか?」


 クシャナさんと戦うあのまるで生きてるみたいな呪法。

 その正体は、はたしていったいなんだって言うんだ?

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