表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/173

94話「収束する因果」

「さぁ、ここが君の運命が導く先、始まりにして終わりの待つ場所だよ」


 黄金宮殿の扉が開くのに合わせて、ブラックアイズは俺に向かってそう言った。

 運命。

 運命、ね。

 こいつはよくその言葉を口にするけど、いったいなんの運命なんだか。

 いやまぁ、俺だってそれくらいわかってるよ。

 結局、ゲオルギウスに関わっちゃった人間の運命、ってことでしょ。

 もっと言えば、レトリックと融合してる俺に課せられた果たすべき責任ってやつだろう。

 だってレトリックの原型であるところのレトリケーは、ゲオルギウスっていう天才錬金術師が思い描いた夢の集大成だ。

 いくらその試みが失敗に終わったあとだからって、これを拝借してる身としては色々と責任がついて回るのは仕方ないことだ。

 ただその仕事をするにあたって、ほかの横やりは勘弁してほしい。


「まぁ、始まりでも終わりでもなんでも付き合うけどさ、それより追手の魔物はどこ行った?」

「あれなら女王陛下が上手く排除してくれたよ。ほかの個体も順調に撃破しているようだし、もうじき決着がつくだろうね」


 マジか。

 クシャナさんが強いのはいつものことだけど、やっと見つけた同族相手でも敵とあれば容赦無しだ。

 普通、この状況みたいな板挟みな立場に立たされるともっと迷うよね。

 自分の仲間と本来の種族のどっちとも敵対なんて出来ない、みたいな。

 ところがクシャナさんの場合、家族にとって危険な相手は完全に敵って見なす。

 そのこと自体は最初から分かってたけど、そっか、やっぱ同族でも関係ないんだ。


「ほら。もう片付いたみたいだ。あれだけの数をこの短時間でなんて、やっぱり女王陛下は格が違うね」


 扉の開いた黄金宮殿の前で立ち止まったままの俺たちに、狭間を通り抜けたクシャナさんが追いついてきた。

 その足取りは周りへの警戒を解いた、淡々としたものだ。

 実際、あれだけたくさん居た魔物の気配も無くなったし、ほんとに全部やっつけちゃったらしい。


「シュウジ。大丈夫ですか。ケガはありませんね?」


 クシャナさんはそう言って俺の体をあちこちさわって確かめる。

 さっきのはかなりヤバい状況だったけど、結果としてほとんど無傷で切り抜けられた。


「だいじょうぶ。メインで戦ってたのは俺じゃないし」


 ぶっちゃけクシャナさんの同族にあれだけ一斉に襲われて助かったのは、完全にジュリエッタのおかげだ。

 もし俺が真正面を受け持ってたら、とてもじゃないけどみんな無事じゃすまなかった。

 それどころか自分の体ひとつ満足に守り切れなかったはず。

 そして、そのかわり矢面に立って戦ったのがジュリエッタだ。

 あのきびしい状況を切り抜けるのに、ジュリエッタは最大限努力してくれた。

 

「そうですか。それはなによりです」


 おっきいケガがないのを確認して安心したのか、クシャナさんは俺の髪の毛に半分、顔をうずめるようにして吐息をもらした。

 俺がこんな状況に巻き込まれるなんて、クシャナさんにとっても予想外だったろうし、変に心配かけちゃったな。


「さてと、女王陛下も合流して役者がそろったね。これで僕らは最低限の役目を果たした。ここから先も協力するけれど、あとのことは正直君たち次第だ。運命の奔流に流されないように健闘を祈っているよ」


 仮に俺たちが流された場合、たぶんこいつも道連れだろうにほんとどこまでものん気なやつ。

 なんかもう敵なんだか味方なんだかさえわからなくなってきた。


「あなたたちとはいずれ再び対峙すると思っていましたが、ずいぶんと奇妙な再会ですね」


 俺にぴったりくっついたまま、クシャナさんはブラックアイズとジュリエッタを視界に捉えた。

 それに対してジュリエッタは無反応。

 ブラックアイズがいつも通りの涼しげな顔で返事をする。


「そうかな。そもそも僕たちのあいだにあるのは奇縁だからね。言ってみればこれも運命の範疇だよ」

 

 運命っていうか因縁じゃない?

 もともとあっちがよけいなちょっかい出してきたんだし。

 そのうえで根っからの悪党って感じでもないから相手にし難いんだよね。


「どちらにせよ、うちのシュウジの面倒を見てくれたことには感謝します。どうもこの子は私の見ていないところで危ないことに巻き込まれる癖があるみたいですから」

「それはさぞかし目の離せないことだね。でもまぁ、今回はジュリエッタが貴方の代役を果たしてくれたのだから、お礼なら彼女に言ってあげてもらえるかな?」


 その言葉でクシャナさんの目が改めてジュリエッタに移る。

 今度はジュリエッタの方も目を動かして、二人の視線が静かに交差した。


「あなた、血は赤いのですね」


 2人がお互いどういう態度に出るかちょっとドキドキしてた俺をよそに、クシャナさんは第一声としてそんなことを口にした。

 たしかにジュリエッタの白いドレスは本人の血で真っ赤だ。

 それはつまり、受けた傷がどれくらい深いかを物語ってる。

 だけど、なんだろう。

 クシャナさんが気にしてるのはそのことじゃないように思えた。


「あなたが気づいた通り、私の血は半分だけが人間。でもその半分の方が色濃く出た。それだけ」

「半分……。そうですか。交配可能とはいいことを聞きました。シュウジにもいずれお嫁さんが必要だと思っていましたが、なるほど、それは朗報です」

「朗報? 私の母親もあなたみたいなはぐれ個体だったけど、父がどうして結婚したのかわからない。こんな呪われた混血、生み出すべきじゃなかった」

「……。どうやら事情があるようですが、血に呪いなどありませんし、あなたの父親も愛ゆえに決めたことでしょう。それをあまり否定的に捉えることはありません」

「……」


 なんか2人のあいだには独特な空気が流れてる。

 って言うか、落ち着いて喋ってるかぎり、どこか似てるんだよな……。


「それにしても、母親の方が、ですか。たまたまとは言え、親近感の湧く話です。あなたとは仲良く出来そうな気がしてきました」

「悪い冗談。たとえ停戦していても味方になったことにはならない。あなたとなれ合うつもりなんて、無い」


 あ、珍しい。

 クシャナさんがすっごい友好的だ。

 今までの因縁もあるのに、よっぽどジュリエッタから聞き出した内容がうれしかったんだろう。

 ジュリエッタはジュリエッタで相変わらずだから、すっごい対照的。


「へー。こんなにうかれてるクシャナちゃんなんてめずらしいね」

「え。そうなの。私には全然普通に見えるわよ?」


 やっぱり付き合いの短い白夜にはまだわからないらしい。


「二人に友情が芽生えたところで先に進もうか。続きは全部終わったあとでゆっくりと、ね」

「だから友情も続きも……。聞いてない……」


 ジュリエッタの反論を無視して、ブラックアイズは先頭をきって黄金宮殿の奥へと足を進めた。

 こいつはこいつでほんとマイペースだな。

 ともかくあとはケリをつけるだけだ。

 俺たちはブラックアイズのあとに続いて終着へとたどり着いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ