表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/173

92話「攪乱」

「……今、なんでか修司にムカついたんだけど、気のせい?」


 俺の内心を見透かしたように、愛理がジトっとした目で俺を睨んだ。

 やめろよ、読心術じゃあるまいし。

 愛理はたまにめちゃくちゃ勘が鋭いから困る。


「まぁ、いいや。その話はまたあとでするよ。とにかく走るよ。せーのッ」


 掛け声と同時に頭上に向かってばら撒かれたコイン。

 それは空中で大きく拡散して次々に回廊に落ちた。

 聞こえたのはポップコーンがはじける音×(かける)たくさん。

 本当なら小銭をばら撒いたときの音が盛大にしたはず。

 でも実際に奏でられたのはポップな音。

 どんな音?

 こんな音。


「ポンポンポンポンポンッ」


 って感じでついついいっしょに口ずさんじゃう軽快サウンド。

 その音と一緒に煙が上がって中から現れたのは……。


「俺ッ!?」


 一瞬、鏡かと思ったけどそれも違う。

 実体を持ったもう一人の俺がたしかに目の前に、居る。

 居てはる。

 居てもーたる。

 いや、違うか。

 とにかく俺が増えたことは事実だ。

 顔も服装も今の俺っぽさ100パーセント。

 俺自身でさえ違いを見つけれないくらいの完全コピー(かんコピ)だ。

 しかも俺だけじゃなくて、ほかのみんなのコピーも居るは居るはの大騒ぎ。

 一人につきコピーが何体も出現したからもうなにがなんだかわかんない。

 なんて器用で気持ち悪い錬成してるんだよ、愛理は。


「ほら、今のうちに行くよ。うららちゃん、悪いけどあのケガした子と代わってあげて?」

「は、はい。私は自分で走れますから、どうぞ」

「すまないね。ほら、ジュリエッタ。君はこっちに乗せてもらうんだ」


 ブラックアイズに支えられたジュリエッタが、うららと入れ替わりに魔法の絨毯へと上がる。

 とりあえずこれで移動すること自体は可能になった。


「さーて、ダミーが襲われるか本物が襲われるか、ここから先はほんとに賭けだからね。れっつごー!」


 その言葉をきっかけに、ダミー軍団が一斉に走り出した。

 大多数は廻廊の先へ。

 そのほか、後ろや回廊の側面に向かって行くやつがいたり、いかにも囮らしい散りっぷりだ。

 なるほど、これなら多少は敵の目が欺けるかも。

 俺たちも波に呑まれるようにダミーたちといっしょになって移動を再開する。


「ああッ。お兄さんが、お兄さんが食べられてます!」

「え、マジやめて俺かわいそう!」


 見れば俺のダミーが魔物に捕まって捕食されてる真っ最中。

 でも偽物だけに、血も出てなければ叫びもしない。

 わりと平気そうな顔で手足だけジタバタさせてるのが逆に怖ッ。


「あ。本物のお兄さんはこっちだったんですね」


 うららはハッと気づいたように俺を見た。


「て言うか、仲間にまで間違われてたんじゃ、本物が狙われたとき助けられないぞ?」

「だーかーらー、みんなもっと固まって固まって。真ん中に集まってないと、周りをダミーで囲んでる意味ないってば」


 そっか。

 襲われるにしても外側に居る方が確立高いもんな。

 人間相手ならすぐバレそうだけど、幸いあいつらはクシャナさんほど頭はよくなさそうだ。


「よし。うらら、行くぞ。こっちだ」


 俺は愛理のところに集合するためにうららの手を引く。

 するとうららは俺の腕に抱き着くようにして頬を寄せてきた。


「え? ちょ、こんなときにどした!?」


 突然、甘えるようにくっついてきたうららに、俺の足は思わずストップする。

 これは俺とはぐれないようにとかそういうレベルじゃない。

 これだとまるでめちゃくちゃ仲がいいカップルみたいだ。

 しかもクリスマス級の密着度。


「お兄さん、それ私じゃないです……」


 うららにベタベタにくっつかれてる俺を見て、別のうららが悲しそうにしてる。

 あっちか。

 あっちが本物のうららか。

 どうりでくっつかれてるわりには温かくないと思った。


「悪い。あんまりそっくりだから間違えた」

「い、いえ。お互いさまですし、気にしないでください」


 俺が謝ると、うららは気まずそうにそう言った。

 状況的には俺の方が気まずいけどね。

 本人の前で偽物といちゃつくとかどんないやがらせだよ。

 それに、女子的には見た目で間違えられるのはがっかりだろう。

 ぶっちゃけ、自分でも今の俺はけっこうダメなやつな気がする。


「……」


 そんな俺を白夜もジッと見てる。

 なにも言わないのは優しさか、呆れてるのか。

 表情からも考えを読み取れない。


「わかってる。俺だってバカじゃないんだから、次からは気を付けるって」


 これでまた間違えたら今度こそ怒られかねないからな。

 さすがに同じミスは繰り返せない。


「バカ。偽物相手になにやってるのよ。早くこっちに来なさいってば!」


 愛理の近くに居た別の白夜がちょい(おこ)で叫んだ。

 言ったそばからまた間違えた。

 本物とっくに向こうかよ!


「ああ、もうッ。お前ら先行くなよ。今度こそ行くぞ、うらら!」

「はい!」


 偽うららを振り切って本物うららといっしょに走る。

 もちろんこっちは抱き着いてきたりしない。

 けど、それでもちょっと近めの微妙な距離感だ。

 俺がうららに速度を合わせてるってのもあるけどね。

 そうは言ってもめちゃくちゃ遅いってわけじゃない。

 うららだって全力で走ってる。

 それに愛理たちの方でも速度を緩めてくれた。

 おかげでたいした苦労もなく追いついて横に並んだ。


「おい、ブラックアイズ。ゴールまであとどれくらいだ。ダミーだっていつまでももたないぞ?」


 愛理の錬成したダミーは動きこそしても、スキルを使ったりは出来ないみたいだ。

 そうなるとやっぱり目くらまし以上でも以下でもない。

 次々に魔物に狩られて数を減らしてる。


「もう見えているよ。出来れば二度と目にはしたくなかったあの呪われた黄金郷が、ね」

「なんだそれ? って言うか、なんだあれ?」


 なにかを押し殺したようなブラックアイズの言葉と、それに呼応したみたいに起こった変化。

 前方に向けた視線の先で、道幅の限られた迷宮廻廊が広く開けて行く。

 今まで立体的な通路として自動生成されてたのが、どこまでも広大なものへと変わる。

 それは虚無的な平面。

 ただ純粋にフラットで、見ているだけで果てしない気持ちになるような空虚。

 そしてその中に、なにかが存在する方が間違いのような空間の中に、それは亡霊のように姿を現した。


「黄金の、宮殿……?」


 どうやらそれが、俺たちのたどり着くべき場所らしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ