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89話「亀裂」

――ファイヤー。

 突き出した腕から炎を噴出させる、単純な簡単な初級火属性魔法。

 一般的な評価は、『攻撃力は高くないけど、扱いやすくて格下を掃討するのには役に立つ』って感じ。

 俺はそれを、喋ってるあいだに回り込んできた1体の魔物に向かって放った。

 ハイパーバリーで強化された炎が、猛り狂ったように魔物を飲み込もうとする。

 でもあたらない。

 いくら強化されたところでただの火炎放射。

 空中を俊敏に動き回る魔物は俺の攻撃をあっさり回避した。

 予想通り。

 クシャナさんの同族相手にはかすりもしない。

 ただし、今のであいつの目はしっかりと俺に向いたらしい。

 オーケー。

 ひとまずターゲットは取れたからよし。


「修司。完全に狙われてるわよ。気を付けて」

「分かってる。それよりお前は後ろの方の警戒頼む」


 俺の指示に白夜は「任せて」って短く返事をくれた。

 数だけで言えば、むしろ白夜の方が大変だ。

 なんたってそっちが敵の本隊なわけだし。

 でもブラックアイズも居るし、イベントホライゾンの護りはそう簡単に突破されないだろう。

 だから任せておいてもきっと大丈夫。

 それより今は俺も俺の相手に集中しよう。


「さ、て、と、取り合えずお前は後ろに下がれっての!」


 みんなわざと少し距離を取って一対一の状況。

 俺は斬波を連続で撃って相手の足止めを狙う。

 側面から攻めて来る敵の存在はたとえ一匹でも厄介だ。

 ジュリエッタが相手出来ないなら、せめてほかの仲間といっしょに固まっておいてほしい。

 なぜならイベントホライゾンでも防御は一方向に限定したいからだ。


「チッ。やっぱだめか」


 俺の放った斬波は命中こそしたものの、相手にダメージを与えることもなく弾かれた。

 クシャナさんの種族って、外骨格が硬すぎるうえに丸みで滑るからよけいに斬撃が通らない。

 そうなると当然、こんどは向こうが反撃するターンなわけで――。


「うわッ。ヤバッ!」


 相手が炎の鞭を振り回すのを見て、俺はハイパーバリーで最大機動。

 縦横無尽にのたくる厄介な熱線を避けて跳ね回る。


「あッ。だめだめやめて許してかんべんして!」


 襲い来るウェーブと螺旋の複合攻撃。

 そこにあるのはクシャナさん以上に無機質な殺気だけど、当たれば即死なことに変わりはない。

 俺は波状攻撃の隙間を縫うように回避を続ける。

 上からの叩きつけは横に転がって躱すし、横薙ぎの攻撃は飛んだり伏せたりで、ぐるぐるウニョウニョはもう自分でもどうやって避けてるのかわかんない。

 とにかく直感に従って、ひねり込みジャンプで曲芸みたいになりながらなんとかやり過ごす。

 でもこんなのいつまでも続くわけがない。

 そのうちミスってあっさり終了するのが目に見えてる。

 だから必要なのは、そうなる前に状況を変えることだ。

 俺は敵の攻撃の波間を見計らって斬波で反撃に打って出る。


「くっそ。やっぱ攻撃が効かないってきつすぎッ」


 結果はさっきの焼き直し。

 やっぱり当たりこそしてもまるでダメージになってない。

 せめて相手の動きを鈍らせれたらいいのに、そのくらいの効果すら無い。


「一方的に卑怯だぞ、コノヤロー。お前なんか俺が本気になったら、ってちょまッ、うそうそ冗談落ち着いて!?」


 とたんに激しくなった波状攻撃に、俺はほんとに本気の連続回避を強いられる。

 だめだ。

 これマジに無理なやつだ。


「お兄さん。援護します!」


 うららの声と同時に吹き荒れるブリザード。

 それは冷気の範囲攻撃だけあってそう簡単に回避出来るものじゃない。

 事実、俺と戦ってる魔物も極寒の吹雪の中に飲み込まれた。

 とは言え範囲攻撃だから実際ダメージは少ない。

 あの魔物もそれを分かってて避けるまでもないと思っただけだったのかもしれない。

 でもうららの狙いは最初からダメージを与えることじゃない。

 スキルレベル的にそれがきびしいのは本人が一番分かってるはず。

 それでも氷属性の魔法には、ダメージ以外にも見逃せない状態異常効果がある。

 うららがあえてブリザードを放った理由はこれに違い無い。


「少しだけですけど氷結(かた)まりました。今のうちに早く!」


 うららのブリザードは魔物の体に一部を氷漬けにして固める。

 氷はすぐに砕けて無くなるけど、すぐにまた新しく着氷する。

 そのせいで間接の動きに悪影響が出て、ほんの少し攻撃の手が緩まる。

 俺はその隙に体勢を立て直して死に体から復活した。

 これこそがうららの狙い。

 氷結の状態異常で敵の動きを妨害、その隙に俺を逃がすって作戦だ。

 いい支援だ。

 自分の手札を最大限に生かして可能なかぎりの効果を出してる。

 でもこの場合、それが帰って危険だった。


「まじぃぜ。今ので魔女っ娘嬢ちゃんがヘイトを取っちまったらしい……」


 やっちゃった。

 こういうことにならないたの囮がおれだったのに、助けられたあげくに敵の矛先まで向けさせちゃった。

 どう考えても俺の失態。

 なんとしてでもうららたちを守らなきゃいけないけど、敵の方が速い――。

 ターゲットを切り替えた魔物がうららに突進するのを、俺は後ろから追いかけながら見守るしか出来なかった。

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