15話「作戦と役割」
さて、踏みとどまるとは言え、ちょっとばかしマズイこの状況。いったい何をどうしたもんかな。
まず問題のヒュドラだけど、こいつは今現在俺がぶった切った尻尾の再生中だ。
全長の3分の1近くを失ったってのに見る見るうちに元通りになっていってる。このスピードはパッシプスキルの自然治癒だけじゃなくて回復系のアクティブスキルも使ってる。たぶんあと1分か2分もしたら完全復活して動き出す。
そしたらどうするかが問題だ。
このヒュドラには普通なら弱点になるはずの火属性が効かない。だからそれをどうにかする方法を探す必要がある。
それから壊滅した他のパーティーのメンバー約16人の負傷者。その運命が生き残った俺たち4人にかかってる。ヒュドラをどうにかして倒すにしても、負傷者を後ろに下げないと戦闘に巻き込まれて今度こそ死なせることになりかねないってことだ。
ヒュドラの不死対策と負傷者の後送。
この二つを同時にするには正直4人じゃキツイ。
俺は不死対策に考えがあるからそっちに走りたいんだけど、他の三人を残して行くってのも問題だ。
負傷者を全員この場所から逃がそうと思ったらそれなりに時間がかかる。そうなってくると避難が終わるまで誰かがヒュドラを引き付けておかないとダメだ。でも正直残りの3人の中には1人でヒュドラを抑えられるやつは居ない。
最初にクシャナさんと約束した、目立たないように能力を抑えるってのを無しにしていいなら俺はヒュドラを抑えられるけど、そうなってくると不死対策を準備できるやつが居なくなる。
くそ。役割分担ができねーじゃねーか。
「シュウジ。私がヒュドラを仕留めます。あなたは下っていなさい」
げ。クシャナさんが来ちゃった。どうやら俺が下手打ったのを見かねたらしい。これはこれでマズイぞ。
「仕留めるって、あのヒュドラは火が効かないけどどうするつもり?」
「問題ありません。ヒュドラは一見不死の怪物に見えますが、実際には再生能力が凄まじいだけです。つまり再生力を圧倒的に上回る攻撃を与えれば必ず倒れます」
「いや、尻尾とか周りの首はそうだけど、真ん中の首は勇者クラスでも殺しきれないじゃん?」
「それは彼らの攻撃力が足りていないだけです。私が本来の姿にさえ戻れば別に不可能でも何でもありません」
だよねー。クシャナさんの攻撃力ならそういう力押しも全然いけるよね。実際、今まで勇者も魔王も余裕で返り討ちにしてるし。こと攻撃力に関して言えば、クシャナさんより強いやつなんてそうそう居ない。つか居たらマジで怖すぎる。
ってことで確かに本人の言う通り、クシャナさんなら攻撃力のごり押しだけでヒュドラの不死性を突破できるとは思う。
思うことは思うけど、ただそれをやったらやったで別の問題が起きる。
「その場合さ、この世界でもクシャナさんが敵視されることになるよね」
「そうですね。今までの経験から言えば、おそらくそういうことになるでしょう」
そうなんだよな。そこまでの力を見せつけると、助けた奴にまで危険視されるんだよ。言って見りゃ一個人が核ミサイルのボタン持ってるようなもんだからな。そりゃ怖いだろうさ。少なくとも今までどこの世界でもクシャナさんは核爆弾扱いだった。
だからこそ、この世界ではクシャナさんには戦いには関わらずのんびり平和に過ごして欲しいと思ってる。
実家に帰るつもりがない俺がわざわざこの世界に戻ってきたのはそのためだって言っても過言じゃない。俺の知ってる日本は戦いとは無縁だったからな。
それが何でこんなことになってんだよ。何かフラグでも立ってんのか?
「じゃあやっぱり俺がやるよ。力を使うにしても、俺の方が誤魔化しようがあるからさ」
「ですがこの状況を覆すには一人では……」
「分かってる。だからクシャナさんにはあいつを倒すのに使えそうなものを探して来て欲しいんだ」
「何をどうするつもりです?」
「あのヒュドラは火が効かないから手こずってるわけじゃん。だから火が効くようにしようと思ってさ」
「ああ、なるほど」
俺の言葉にクシャナさんが無表情で納得する。
俺にはクシャナさんみたいにヒュドラの再生力を上回るような攻撃力はない。けど別の方法で何できる。いわゆる秘密の能力ってのがあるわけよ。でもそれにはちょっとした準備が必要だ。命がかかってるだけに、能力を秘密にしたまま準備を他人に任せるのは難しい。その点クシャナさんなら安心だ。俺のことは全部知ってるからな。
ってことで不死対策の準備とヒュドラの引き付け役って二つの仕事の分担は簡単に答えが出る。
俺の秘密を知ってて、そのうえで戦うのは避けたいクシャナさん。
一方、不死に対抗できるけど、この場ではクシャナさん以外で唯一ヒュドラ相手に時間稼ぎができそうな俺。
俺がヒュドラで彼女が準備。オールOK。問題無し!
「ってことでお願いね!」
「あ、ちょっと待ちなさい。私はまだ……。もう、本当にあなたときたら――」
俺はクシャナさんにヨロシクちゃんしてパーティーの生き残りの3人のところへ向かった。