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85話「意思不通」

「どうやらずいぶんと集まって来たみたいだね」


 完全に周りを囲まれた中で、ブラックアイズはいつも通り飄々としてそう言った。

 その態度は、すでに武器を構えて臨戦態勢に入ったジュリエッタとは対照的。

 そして、ブラックアイズのこういうのん気さがなんの安心材料にもならないのも理解済み。

 なのによく2人でやってけるよな。

 こいつらもうちょっとテンション揃えられないのか?


「ちょっと! まずいんじゃないの、これ!?」

「あわわ。こんなにいっぱい……。ど、どうするんですか?」

「とりあえず話し合いとボディーランゲージでなんとかするしかないだろ!」

「なんとかって、下手に刺激したらどうなるか分からないわよ。あんた、クシャーナの時はどうしたのよ?」

「む、虫取り網で捕まえたけど?」

「あんたバカなんじゃない。よくそんなことして無事だったわね!?」

「まぁ、クシャナちゃんって基本的に自分のことじゃ怒らないからね。ただそれをほかの同族にも期待して大丈夫なのか、なんの保証も無いのがつらいところだよね」


 どうだろ。

 ジュリエッタにはああ言ったけど、クシャナさんがやさしいのはクシャナさんだからだと思う。

 正直ほかのやつのことなんて予想もつかない。


「おい。一匹こっちに来やがるぜ?」

「うわ。ほんとだ」


 俺たちが右往左往してる間に、魔物の一匹がかなり近くまで寄って来てた。

 距離で言ったら20メートルくらい。

 回廊の死角になってて気づかなかった。

 こうなるともうなにも対処しないってわけにはいかない。


「ジュリエッタ。手は出すなよ。一回俺に任せろ」


 静かに殺気を膨らませる怖い幼女を手で制して、俺はみんなより数メートルほど前に出る。


「……」

「……」


 視線を送るジュリエッタと、微笑でうなずき返すブラックアイズ。

 なに通じ合ってるのか分からないけど、特別動く気配は無い。

 一応、俺の言うことを聞いてくれるつもりらしい。


「いい? 無理しなくていいから、気を付けなさいよ?」

「お兄さん。どうかご無事で……」

「んふふー。がんばれ、がんばれー」


 3人それぞれの心配(一部焚きつけ)を受けつつ、俺はクシャナさんの同族と対峙した。


「は、はろー。まいねーむいず、しゅうじもろがみ。あい、らいく、クシャナさんべりーうぇる」

「ばか。なんで英語なのよ。それだったらべつに日本語でもいいじゃない」

「逆に! 逆に、ですね、お兄さん!」


 そうそう。

 逆、逆。

 よく分からないけど、うららの解釈はいい解釈だ。

 とにかくこっちには敵意が無い感じをアピール出来さえすればいいんだ。

 そういう意味だと何語かなんか関係無い。

 大事なのはクシャナさんの時みたくナチュラルフレンドリーに。

 前に伸ばした両手で『お馬さん、どうどう』のポーズをして様子を見つつ、俺は一歩ずつゆっくり距離を詰める。


「うわっはー!」


 事態は急転直下。

 あとちょっとまで近づいたところで相手の魔物が急に飛び掛かって来た。

 俺はとっさに反転ダッシュ。

 全力でみんなのところに逃げ帰る。


「伏せて」


 飛んできたジュリエッタの言葉に、俺は否応なく従って身を伏せる。

 って言うか、単にズッコケヘッドスライディングをかましただけだ。

 でも不幸中の幸い。

 その頭上をかすめるように爆風が通り過ぎて、直後に鋼鉄の金切り声が上がった。

 ぶつかり合ったのはジュリエッタの渾身の横薙ぎの一撃と俺に飛び掛かって来た魔物。

 大型のハルバードが、魔物の強固な外骨格を叩き割る。

 その強烈な迎撃がさすがに効いたのか、魔物は弾かれるようにもう一度距離を取りなおした。


「だから言った。この種族は個体によって知能の差が大きい。今ここに集まってるのは一番下等な労働階級の部類。他種族とコミュニケーションを取れるだけのはっきりとした自我なんて無い」


 ジュリエッタは、紫色の血を滴らせたハルバードを手負いの獲物に向かって水平に構えなおした。

 不釣り合いに巨大なハルバードの切っ先を突きつけるこの幼女は、いったい今までこの種族を何体狩ってきたんだろう。

 少なくてもこの状況でまったく動じてないところを見ると、それこそ相当に場慣れしてるんだろうな。


「お、おいおい。冗談じゃねぇぞ。結局手ぇ出しちまったから連中いよいよ戦る気になっちまいやがったぜ。このギチギチ言ってんのは、どう考えてもあれだろ。威嚇とかそういうやつだろ、おい」


 状況はいよいよ最悪だ。

 俺たちを取り囲んだ魔物たちは、削岩機みたいなその顎を鳴らしながら包囲網を狭めて来てる。

 しかもクシャナさんと同じように、こいつらも空間そのものを、つまり空中を歩ける。

 つまり上も下も含めた360度、俺たちに逃げ場は無いってことだ。


「姐さんの同輩みてぇなのにこれだけ囲まれてどうしろってんだ。全員仲良く踊食晩餐になれってか?」

「たしかによくない状況だね。ジュリエッタ。みんなを守って最果てまでたどり着けそうかい?」

「難しい。これだけ敵が多いと多面的な戦いになる。それに移動中はどうしても隊列が伸びるから、私一人だと全体をカバー出来ない」

「じゃあ俺たちも戦うか。全員で協力すればきっとなんとかなるって」

「ならない。あなたたちの攻撃力だとあれには傷を負わせられない。そっちの子のユニークスキルだけはべつだけど、数と身体的なポテンシャルの差で負ける」


 やっぱり白夜だけか。

 まぁ、俺だって自分がクシャナさんレベルに通用するとは思ってない。

 まいった。

 多少の強敵は予想してたけど、まさかこんなところでこんな相手に出くわすとは。

 やっぱり人生には時々とんでもない罠が待ってるよね。


「どっちでもいいけど、来るわよ! とにかくやれるだけやるしかないわ!」


 まったくその通りだ。

 こんな時に口を動かしてたってしかたない。

 生き残るには行動あるのみ!

 急接近してくる魔物たち相手に、俺たちはそれぞれ身構えた。

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