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83話「彷徨える案内人」

「はぁ……。この迷宮回廊ってどこまで続いてるんだよ……」


 新しい床面に足場を移した俺は、その先に伸びてる回廊の長さと複雑さに目まいを感じた。

 愛理に付き合って立ち止まってからまだそんなにむちゃくちゃは進んでない。

 だから俺自身、体力的には十分余力がある。

 だけど、なんて言うか、こう……、先が見えないのってつらいよね。

 迷宮回廊がどこまで続いてるのか、せめてゴールまでのカウントダウンが欲しい。

 まさかまだ半分も越えてないとかないよな?


「なぁ、ブラックアイズ。あとどれくらいで目的地に着くんだ?」


 とりあえず俺たちを先導してる案内役に聞いてみる。

 こいつもこいつで平然とした顔で先頭を歩き続けてるから不思議だ。

 早々にへばった愛理とは違って、上品な顔のわりに意外と健脚。

 一向に疲れた素振りを見せない。

 その点ではジュリエッタも同じなんだけど、こいつらなんでこんなにヴィジュアル詐欺なんだよ。


「もう少しだよ。この迷宮回廊は正しく進まないと大変なことになるからね。面倒でも正規のルートを辿るしか無い」

「道を間違えたらゴールには辿り着けない、か。そういう意味じゃ他のダンジョンと同じだな」

「いや、迷宮回廊でのルートミスはそれ以上のリスクだよ」

「?」


 どういうことだ?

 こういう入り組んだダンジョンって、侵入者を迷わせて大事な最深部にたどり着かせないためにあるものだろ。

 さらに言うと、普通はそこにトラップとかが組み合わされて、より確実な防衛システムになる。

 でもこの迷宮回廊には1つも罠が無いみたいだから、単純に考えて、生きてるうちに迷路をクリア出来るかどうかの問題じゃん?


「……。そうだね。ちょうどそこからもと来た道が見渡せそうだから覗いてみるといい」


 そう言って、ブラックアイズは通路の右端を指差した。

 俺は後ろは振り返らない主義なんだけどな。

 まぁ、いいよ。

 見てみろって言うなら見てみるけど?

 俺はブラックアイズに指示された位置に立って、迷宮回廊を逆走するように視線で追ってみた。

 そこにあるのは重力を無視した縦横無尽な幾何学的立体構造。

 なんだけど……。


「あれ? こんなに短かったっけ?」


 おかしいな。

 俺たちが歩き始めてからそれなりに時間も経ってるし、その分、距離もある程度稼いだと思う。

 でも今、見るかぎり、俺たちの後ろには、ほんの何百メートルくらいしかの回廊しかない。


「それがこの迷宮回廊の最大の難点だよ」


 俺の隣に立ってそう言ったブラックアイズだけど、そもそもなにがどうなってんだか。 


「この迷宮回廊は、自動生成と順次消滅を永遠に続ける、ある種の結界なんだよ」

「それってつまり、あんまりのんびりしてたら回廊の消滅に追いつかれるってことか。でも休憩までする余裕あったし、そんなに問題か、それ?」

「問題だとも。ルートが順次消滅するということは、道を間違えても引き返せないという意味だからね。ほかのダンジョンでは、とりあえず進んでみてルートの正誤を確認出来るけれど、迷宮回廊では『探索』という行動自体命取りなんだよ」

「げ、マジかよ。じゃあ間違った道を進んじゃったらどうなるんだ。正解の道に戻れる可能性は無いのか?」

「あるにはあるけれどね。計算上では、おおよそ1000年に一度、正解のルートが生成されるはずだよ。だから、それまで行き止まりにぶつかることなく、それでいて消滅に追いつかれないように歩き続ければ、正解のルートに復帰するのも夢じゃないだろうね」

「夢だよ、それは! まぼろし以外のなにものでもない!」


 1000年なんて寿命が持つか。

 仮にめちゃくちゃ長生きな種族だったとしても無理だろ。

 だって、ルートの再生成まで消滅に追いつかれないように歩き続けるなんて不可能。

 ってことは、この迷宮回廊は事実上、一発勝負のワンチャンオンリーなわけで……。


「おい。聞いたかよ、愛理。これ道案内が居なきゃアウトだったらしいじゃねーか。こんなとこにうっかり俺たちを連れて来て、危うくエンドレスウォーキングだったぞ?」

「あはー。まぁ、結果よければすべてよし、だよ。案内がちゃんと居たんだからそれでいいじゃん」


 よくねーよ。

 こいつの性格は楽天家って言うよりただの無責任だな。

 分かってたことだけど、これからはもっと信用しないようにしよう。

 うんうん。


「そういうわけで、お前だけが頼りだ、ブラックアイズ。次はどう進めばいいんだ?」

「えーと、どうだったかな。いまいちはっきりしないけれど、たぶんこっちだと思うよ」


 そう言いつつあいまいな方向を指差すブラックアイズの指。

 これはまさか、あれか?


「おい、やめろよ。そういう冗談はいらないからな!?」


 むしろいらない冗談だけど冗談であってほしい。

 と言うか、本気だった場合の方がそれはそれで冗談じゃないっていうややこしい状況だ。


「困ったね。こう見えて僕は方向音痴なんだ。正しいルートがどうだったか、少し自信が無くなってきたよ」


 こう見えてどころか、言われてみれば納得だわ。

 そもそもどうして俺はブラックアイズに『しっかり』なんて期待しようと思ったんだか。

 過去のそこはかとなくすっとぼけた言動から十分予想できただろ。

 ……、でもまずいな。

 案内役のこいつがこんなんじゃ、今までのルートだって正しかったのか分かったもんじゃないぞ。


「ジュリエッタ。道はこっちで合ってたかい?」

「違う。そっちじゃなくて右。あなたにしては珍しく迷わずここまで来たけど、やっぱりただの偶然だった?」

「偶然と言うより運命、だろうね。彼らの道はどだい結末に至るのだから、前に進めばそこに未来があるはずだよ」

「私にはよくわからないけど、そういう言い方はあなたらしい」


 ジュリエッタはそう言って無表情にほほ笑んだ。

 いや。

 あなたらしいとか和んでる場合じゃないって。

 あとちょっとで、『道を間違えて死ぬまで迷宮回廊をさまよう未来』に片足突っこんでたとこじゃんか。

 危ない、危ない。

 ブラックアイズの性格は楽天家って言うよりただの能天気だな。

 薄々分かってたことだけど、これからはもっと信用しないようにしよう。

 うんうん。


「そういうわけで、ジュリエッタ。ここからはお前が道案内だ」

「なにがそういうわけで、なのか分からないけど、これ以上ブラックアイズに任せない方がいいのには同意」


 そんなとこで分かりあいたくはなかったけどね。

 俺たちはあくまで敵なんだから。

 なんとなくジュリエッタの性格が見えてきたし、なんか妙にやりやすい気もしてる。

 けど、それとこれとは別問題だ。


「じゃあさっそくゴールまで案内してくれよ。どっちみち、そこまで行かなきゃ話が始まらないんだろ?」


 こいつらまだなにも教えてくれないけど、さっきこの先でなにかが俺たちを待ってるとか言ってたからな。

 つまりそこまで行くことが、この事件に終止符を打つのに必要な大前提なわけだ。


「案内はするけど、でも遅かった。もう状況は動き出してしまった」


 え?

 うそ?

 一番奥でラスボス的なのが待ってるんじゃないの?

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