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81話「道ばたに華やぐ(前)」

 ブラックアイズの先導で歩き始めてどれくらいの時間が経ったか。

 立体的な幾何学構造の迷宮回廊を、俺たちはひたすら歩き続けてる。

 ここまでの道のりにアクシデントは無かった。

 先だか奥だかを目指してただ純粋に歩いてるだけ。

 罠が仕掛けてあるわけでもないし、モンスターが徘徊してるわけでもない。

 おまけに道案内が居るから迷宮ですらなくなってるし、客観的に見ても順調だと思う。

 だけど、だからってそれが楽な道のりだったかって言われるとそれも違う。

 ただ歩くだけって言っても、実はそれ自体がけっこうなハードワークだった。

 この迷宮回廊は足を付けた面が下になる。

 つまり上り坂とか下り坂が無い。

 そう聞くと平地だけしか無いみたいに聞こえるけど、それが罠だ。

 実は、迷宮回廊には、坂が無い代わりにやたらと階段が多い、って言う難点があった。

 遠くから見たら滑らかな斜面でも、近づいてみたら鬼のような超多段ピラミッドだったりする。

 単なる1つの面なら踏んだら床に出来る。

 だけど階段状なら一段一段普通に上って行くしか方法は無い。

 だからここまでの道中で、俺たち個人個人の体力差が露骨に表れ始めてた。


「ねぇ。ちょっと休憩した方がいいんじゃない?」


 後ろを振り返りつつそう提案した白夜の声で、俺はもう一度、最後尾の2人の様子を確認する。

 遅れてるのはうららと愛理。

 とくに愛理の方はかなりきびしそうだ。

 そもそも錬金術師ってのは肉体派からは程遠い。

 まして愛理はその中でもとりわけ研究者肌、バリバリの工房(インドア)派。

 普段から引きこもって研究ばっかりしてる分、体力面はからっきしだ。


「おい、愛理。なにもうへばってるんだよ。お前がここに俺たちを引っ張って来たんだからもうちょっとがんばれよ」


 俺が立ち止まってそう声を掛けたけどやる気を出す気配も言い返して来る気配も無し。

 こいつ、割とマジで疲れてるな。


「修司ー。ボクもう限界。やっぱりおんぶしてよ?」

「やっぱりってなんだよ、やっぱりって。さすがにお前背負って延々歩けるわけないだろ。みんな待ってくれてるんだから、とりあえずここまで来いって」


 全員で2人を待つことしばらく。

 ようやく追いついて来たと思ったら、愛理は手近な段差にへたり込む。


「んもうっ。道長すぎ! 階段多過ぎ! 修司優しくなさ過ぎー!」


 階段にもたれ掛かりながら両手のこぶしを振り上げる愛理。

 こんな時でもわがままさを失わないのはさすがっていいのかどうか。


「俺のせいにしてないでうららにちゃんとお礼言っとけよ。お前に合わせて歩いてくれてたの分かってるか?」

「分かってるってば。うららちゃんは修司と違って優しいもんねー。ね、うららちゃん?」

「い、いえ。私も疲れちゃいましたし、そんな……」


 とか言いつつうららは座り込むことなくちゃんと立ってる。

 そりゃほかのメンツに比べたら体力は劣るだろうけど、そこまがりなりにも冒険者の1人。

 愛理と違って、この程度でへばるほどヤワじゃないってことだ。


「うららはともかく、お前は体力無さ過ぎなんだよ。これに懲りたら今度から少しは体力づくりしとけよ?」

「むむー。そんなこと言ったって、美少女天才錬金術師であるところのボクは存在自体がか弱いんだよ。昔から美人薄命って言うくらいだから、これはもう確定事項だよ。それに比べてみんなちょっとたくまし過ぎるんじゃない?」

「言ってることむちゃくちゃだぞ、お前。いったいどういう理屈でそういうことになるんだよ。だいたい冒険者なんだからこれくらい当然だろ」

「ええー。つい最近ギルドに登録した人がなに言ってるんだか」

「その前はクシャナさんとあちこち旅してただろ。なんだったらそっちの方が大変だったくらいだっての」

「修司はそうかもしれないけど、ほかの人はどうだかね。考えてもみれば、ここに居るのってよく分かんない経歴の人ばっかりだし」

「経歴、ね……」


 言われてみればそうかもな。

 当然だけど、みんなだって俺と出会う前に色々あったに違いない。

 けど未だに俺はそういう過去話についてあんまり詳しいことは知らないんだよな。

 強いて言うなら白夜くらいだな。

 転移者としてほかの異世界で物騒な二つ名で呼ばれるようなことしてたんだっけ?

 あれ?

 やっぱりよく分かってないかも。


「あれだな。今度みんなの話も聞きたいよな。せっかく仲良くなったんだから、お互いもっとよく知ればあとあと連携プレーとかにつながってくるかもだし?」


 やっぱりいいパーティーの仲間って言うのは、スキルとか戦法とかそういうところの理解だけじゃないと思うんだよ。

 昔になにを経験をしたとか、どう生きてきたかとか、そういうところを知ってないと、ってね。

 相手の考えを先読み出来てこそ初めてつながる連携ってのもあるしさ。


「別にいいけど、あんたのことも教えなさいよ。好きなものとか好きなタイプとか、全然言わないからなにも予定立てられないじゃない」

「好きなタイプって、白夜さん、大胆……」

「え? ち、違うわよ。誤解しないで、うららちゃん。チームワーク! そう、チームワークのために聞いただけなんだから!」

「2人だけのチームワークなんて、ずるいです。私も、私もお兄さんの好みのタイプ、目指します!」

「ええ!? ちょっと待って。早まらないで。まだ若いんだから、もうちょっとよく考えてからにした方がいいんじゃない?」

「だって白夜さん美人ですし、スタートが違う人相手にのんびりなんてしてられません。なまけ者の亀さんだと、しっかり者のうさぎさんには勝てないんです」


 とかなんとか。

 どうも話がへんな方向に行ってるような気がする。

 亀とかうさぎとか、いったいどこから出て来たんだよ。


「2人ともあんなに必死になっちゃって、修司ってば人気者だねー。どう? あんなに可愛い子たちにちやほやされてうれしいでしょ。それともやっぱりクシャナちゃんの方がいい?」

「いや、今はそれどころじゃないだろ。そのクシャナさんだってがんばってるのに、とりあえず先にやることやらないと、な?」

「はっはーん。さっすがクシャナちゃんに愛されてると余裕だねー。普通の男の子だったら泣いて喜ぶようなポジションなのに、これだから修司はとーへんぼくなんだよ。ほんと、ボクは時々のれんに腕押ししてる気分になってくるよ、まったく」


 愛理はそう言って得意のやれやれのポーズからわざとらしくため息をついて見せる。

 こいつもこいつで結構絡んでくるタイプだから大変だ。


「なんか俺が悪いみたいに言うけどさ、それじゃどうだったらよかったって言うんだよ。言っとくけど、あの2人が勝手に脱線したんだからな。俺がどうだろうと、さすがに責任は取れないぞ」

「なに言ってるのさ。あの2人は修司次第でコロッと行くにきまってるんだから、サクッと片付けちゃいなよ」

「はぁ? コロッとかサクッとか、そりゃいったいどういう意味だよ?」

「まぁ、見てなよ」


 やな予感。

 こいつがこの手の話題に絡むと、たいがい、いいことにならない経験則が俺にはある。


「白夜ちゃん、うららちゃん! 修司が『この先はなにがあるか分からないから、俺のことを理解してくれる相手とフォーメーション組みたい』ってさー!」


 誰だよ、そのキザなやつ。

 少なくとも俺より面白い誰かだよ。


「あ、私やるわ。今までだってあんたの盾、言ってみれば女房役みたいなものだったんだから。仕方ないから最後まで面倒みてあげるわ」

「私もです! 病める時も健やかなる時もお兄さんの力になることを誓います!」


 なに言ってんだ、こいつら。

 変な方向にテンション振り切れちゃってるじゃねーか。


「ともかくの進行方向が定まってよかったじゃん。ほっといたらしばらくここから動かなかったと思うよ?」

「そりゃそうかも知れないけどさ。それよりお前の方はどうなんだよ。元はと言えばお前がバテたから待ってたのに、もう歩けそうか?」

「まっさかー。ボクの体力の無さを見くびらないでよね。修司がおんぶしてくれないと一歩も動けないんだから」

「なんでそんなに偉そうなんだよ。お前が歩けないんじゃ、あの2人だけやる気にしても仕方ないだろ」


 自分をたなに置いて他人をけし掛けるだけけし掛けるのはこいつの悪いくせだ。

 なまじ頭がよく回って口が上手いからタチが悪いんだよな。

 ただ、だからって今回ばっかりは甘やかしてもいられない。

 なんたって状況は押してるんだからな。


「いいから行くぞ。歩けなくってもおぶわないからな。引きずられたくなかったら自分で歩けよ」


 そう急かすと愛理は溜息をついてしぶしぶ立ち上がった。

 珍しく素直だけど、大丈夫かな?

 最悪、ほんとに俺が背中を貸さないといけないかもだけど?


「まったく、修司はもうちょっとボクにやさしくしてくれてもいいと思うんだけどなー」


 そんなことを言いつつ、愛理はどこからか小銭を取り出して床にばらまいた。

 おいおい、やめろよ。

 そんなもの『拾え』とか言われても、俺はお前の召使にはならいぞ。

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