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78話「境界線上の舞台」

 いつもながら突然現れたブラックアイズ。

 しかも今回はあのジュリエッタとかいうハルバード少女もいっしょだ。

 ジュリエッタとは前に一回会ったことがあるだけだけど、その時に受けた仕打ちは忘れてない。

 クシャナさんの敵は俺の敵。

 ガンガン報復狙ってくんから夜露死苦。


「そんなに怖い顔をしないでほしいな。僕らはなにも君たちと争うためにここに来たわけじゃない。それにジュリエッタには強いから、勝てないけんかはやめておいた方がいいと思うよ」


 好き勝手言ってくれるよ。

 今さらノコノコ出て来て、戦う気はない? 君じゃ勝てない?

 よくそんなすかしたことが言えたもんだ。

 なまじあののんきな声で言われると余計にしゃくに障る。

 ジュリエッタの強さは知ってるけど、だからって引き下がるわけにはいかない。


「勝てるとか勝てないとかはいいんだよ。お前らが泣いてクシャナさんに謝るまで、俺は絶対ゆるさないんだからな」

「それは困ったね。出来れば仲直りのために話し合いに応じてほしいものだけれど、残念ながら運命はすでに扉を開いた。今日ばかりはお互い余計なことをしている場合じゃないだろうね」

「は? そりゃどういう意味――」


 セリフの意味を問いただそうとした俺は、言い終わるより先に異変に気付いた。


「ちょっとなに。どういうこと!?」

「じ、地面が、消えます――?」


 ほぼ同時に白夜とうららが声をあげた。

 そりゃこんなの焦るって。

 なんたってうららが言った通り、俺たちの足元を含めた地面が透明になっていってるんだから。


「こりゃあいったいぜんたいどういうこった。まさかこのまま異空間にでも放り出されちまうんじゃねぇだろうな!?」


 考えたくもないね。

 仮にそうなった場合、十中八九おだやかな死に方じゃないだろうし。


「ともかく急いでここに上がった方がいい。そのままそこに居ると存在を失うよ?」

「ちょっ。それヤバすぎ!」


 ブラックアイズのやつ、言ってることと声のトーンが一致してなさすぎ!

 なんて今はそんなことどうでもいい。

 とりあえずひとまず忠告にしたがってダッシュだ。


「愛理、うらら、急げ。あとちょっとだぞ!」


 俺は2人と並走しながら発破をかける。

 腕を引っ張るって手もあるにはあるけど、3人でそれをやるとコケそうで怖い。

 だからそれはあくまで最終手段。

 俺も付き合いつつ出来るだけ自分で走ってもらう。

 それともう1人、って言うか一匹、がんばってもらわないといけないリザードマンが居る。


「ちきしょう。ほんとに今日はなんつー日だ。帰ったら中佐にしこたま危険手当をせびってやらなけりゃ気が済まねぇ!」

「いいからもっと早く走んないとマジやばいって。口よりも足を動かさないとシャレになんないってば!」

「トロくて悪かったな。でもいざとなったあれだ、俺にかまって置いていくなよ!」

「うわ、最悪。そこはかっこいいこと言うとこじゃないの!?」


 なんて言い合いつつ、俺はポジションを最後尾のラーズにを合わせなおして走る。


「みんな早く。もう時間がなさそうよ!」


 早々に一番乗りで祭壇にたどり着いた白夜が叫んだ。

 さすがに素の足の速さじゃ俺たちの中で最速なだけはある。

 でも愛理もうららもかなりがんばっててあとちょっとのところだ。

 間に合うかどうか怪しいのはむしろ俺とラーズ。

 って言うかリザードマン遅すぎ!


「ヤバい。足の裏に地面の感覚無くなってきた。っていうかほんとなにこれッ。なにがどうなってんの!?」


 地下洞窟の地面はもうほとんど完全に見えなくなった。

 今や俺たちは何もない空中を走ってるような状態だ。

 いや、ほんとになにもなかったら走れないんだけど、実際見えないし地面を蹴った反動もほとんど感じない。

 代わりに視界に広がってるのは、まるで関連性の無い風景のゆがんだ映像。

 文化も、時代も、人種も、そしてたぶん世界も違う、ありとあらゆるどこかの景色。

 それが流れるように、波打つように、渦巻くように、浮かんでは消え、消えては浮かぶ。

 それはもう地面だけじゃなくて、壁も天井も消え去ったこの空間の360度どこを見てもそんな感じ。

 これは本気でまずいことになってきてるのかも!


「間に合った。ギリギリだったけどセーフはせーふだよね、これ」

「ぜぇぜぇ。間に合ったはいいが、ここの上は安全なんだろうな? そもそもこいつは浮いてやがるのか?」


 マジでどうなんだろうね。

 俺たちが避難したこの祭壇は消えずに残ったけど、どうして無くならなかったんだろう。

 だいたい地面が消えても落ちてる感じもしないし、ほんと不思議。


「あの、これって下の方が大きくなっていってませんか?」

「え!? べべ、べつに大きくなんてしてないけど?」

「??」


 不思議そうな目で俺を見るうらら。

 いやいや、いくらあだ名がモロちんだからって、こんな時に興奮しちゃうような人間じゃない。

 俺の下の弟は極めて平常心だ。


「なんであんたがうろたえてるのよ。うららちゃんが理解出来てないからいいようなものの、変な話してるんじゃないわよ」


 うららの代わりに反応したのは、俺の予想通り白夜だった。


「違うって。うららがって言うより、お前が好きかと思って」

「だから誤解だってば。いい加減、私のキャラを曲解しないでよ」


 とか言いつつ話しに乗っかってくるあたり、こういうところを含めて白夜はわりと体育会系。


「いいから祭壇の下をのぞき込んでみなさいってば。ちょっとおかしなことになってるわよ」

「祭壇の下?」


 下って言うと裏側って意味だよな?

 そんなとこになにがって、えぇー!?


「あれこれなにかおっきくなってない!?」

「わ、私それ最初言いました」


 これか。

 これのことか。

 急になに言い出すんだろうと思ってつい茶化しちゃったけど、これはたしかにただ事じゃない。

 だって段付きピラミッド型の祭壇の裏側では、通路や橋でつながった幾何学的な構造物が増殖してたんだから。

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