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14話「天秤は不公平に傾く」

「っしゃー!」


 おっさんの一撃が当たったのを確認したパンク兄ちゃんが叫んだ。一番前で頑張ってるからね。そりゃテンションも上がるだろうさ。 

 んで、肝心のおっさんの攻撃は直前でヒュドラが回避に入ったせいで直撃とはいかなかった。それでも半分くらい切断しかかってるから大したもんだ。

 実際ヒュドラも俺たちを警戒せざるを得ない。無視できないダメージを受けたからな。千切れかかった首を高く持ち上げ俺たちから距離を置く。

 再生する気だな。でもさせねーよ。せっかくだからこのままケリを付ける。


「せーの、斬波!」


 俺は逆ハンドのスイングの要領でヒュドラ目がけて手刀を振り抜いた。もちろん手刀そのものは届かないけどそれは構わない。何せ俺の手刀からは斬撃属性の魔力波動が撃ち出されてるんだから。

 ヒュドラはたぶん避けようとはしたんだと思う。だけど千切れかかった頭じゃ俺の攻撃を正しく認識できなかったらしい。俺の放った斬波はおっさんが斬り損ねた残り半分の部分にナイスに直撃。支えを失ったヒュドラの頭が地面に落ちた。


「や、やるな。小僧。その威力、並みのスキルレベルじゃないな」


 おっさんに褒められた。でも俺の斬波のスキルレベルは……、秘密があるんだZE。

 別に嬉しかないけどここまではいい連携でセオリーを踏んでる。後は締めの一手だけ。俺はそれを担当すべき後衛の術士っ子を振り返って行動を促した。


「焼くのは頼むわ」


 そう言うと、大きく見開いた目で俺とヒュドラを交互に見比べていた術士っ子が慌てて魔法の準備に取り掛かる。

 イカンね。ボサっとしちゃ。仕留めきるまでが狩りなんだぜ。

 なんて思ってると術士っ子は即座に術式を組み上げて攻撃態勢に入った。やっぱりやれば出来る子なのね。

 その術士っ子が放ったのは、大玉転がし級にデカいファイヤーボールだった。ここまでデカいとボールって言っていいのかわからないけど、状況的にはナイスチョイスだ。

 ファイヤー大玉転がしは俺が斬ったヒュドラの首のに直撃して切断部分を燃え上がらせた。

 ヒュドラの対策法。それは有名な話しだけど、首を切ったらその切断面を焼くことだ。それで首が再生するのを防げる。

 でもそれを実際やるとなると一人じゃ辛い。全部の首を同時に相手しないといけないからな。今日は仲間が多いから全部が上手くいってる。特に俺たちのパーティーなんかは一番乗りで首を取った。それも最後に戦いに加わったのに、だ。

 俺たちの戦果に気付いた他のパーティーの奴らも歓声を上げて喜んでる。

 いや、鼻が高いね。

 つってもいつまでも優越感に浸ってはいられない。予定じゃ担当の首を倒したパーティーは解散して一人づつ他のパーティーの増援に加わるんだったな。

 さて、俺はどこに入るかな。

 加勢すべき次のパーティーを探して俺が視線を他所に向けたその時、ヒュドラの首を焼いていた術士っ子が叫んだ。


「炎が、効きません!」


 その声で俺はすぐにヒュドラの首を確認した。

 おい。ふざっけんなよ。マジで効いてねーぞ。

 ヒュドラは火炎攻撃を受けつつも、切断面から新しい首を2本生やそうとしてる。

 どうなってんだ。火で焼いても再生するとか反則だろ。火力不足か?

 とにかくこのままじゃまずい。

 俺は慌てて高速移動スキルの陣足で地を蹴ってヒュドラに接近する。


「うおッ。速ぇ!」


 パンク兄ちゃんが叫んだ。悪いね、おかぶを奪うようなマネして。でも今は緊急事態だ。

 俺は大ジャンプして切断面と同じ高さまで飛び上がってからファイヤーを放った。

 こいつは効くぞ。なにせ炎が青くなるほどの高熱のファイヤーだ。それが切断面を容赦なく包む。

 ダメだ。再生が止まらない。このヒュドラには火が全然効かない。どうなってんだよ。火耐性のヒュドラなんて聞いたことねーぞ。

 地面に着地した俺は次の手が思いつかず、ヒュドラが首を再生するのをただ見守るしかできなかった。いや、俺だけじゃない。他のやつらもどうしていいのか戸惑ってる。

 そんな俺たちをあざ笑うようにヒュドラは再生を完了した。

 このヒュドラの首は最初は5本だった。でも今は倒し損ねた一本が二本に枝分かれして全部で6本になった。

 まずいな。俺たちは5本の首に対処するために5つのパーティーに分かれてる。それなのに首が6本に増えたらパーティーの数が足りない。一本ノーマークになる。

 どうする。火がダメなら逆に凍らせてみるか?

 いや、最初に術士っ子が放った氷弾はほとんどダメージにならなかった。氷属性に対しても耐性を持ってるか術士っ子のスキルレベルじゃ足りてないかだ。

 スキルレベルか。それ自体を何とかする手段には心当たりがあるけど、それを使うにはとある条件を満たさないといけない。そしてそれはすぐには無理な話しだ。

 そして俺自身は氷属性のスキルを持ってない。

 八方手づまり。俺たちが完全に動きを止めた時、離れていたクシャナさんの叫び声が響いた。


「右です。かわしなさい!」


 右!?

 俺は反射的に振り向く。

 そこには水平に薙ぎ払われたヒュドラの尾。他のパーティーを弾き飛ばしつつこちらに迫ってくる。


「――ッ」


 俺は咄嗟に手刀を振り下ろして斬波を放つ。首よりも格段に太い尻尾だけど、俺の斬波はそれを両断、千切れた尻尾の先が明後日の方向に吹っ飛んでいく。

 今のはヤバかった。斬るのがギリギリ間に合ったから尻尾にぶん殴られずにすんだ。

 俺のパーティーは……、全員無事だ。尻尾が振られた時、俺が一番右に居たから運よく庇った形だな。マジラッキー。

 でもそんな俺のファインプレーにも仲間たちからの称賛はなかった。3人とも青い顔で右の方を見てる。

 それにつられて俺もそっちを見て、思わず舌打ちをした。

 壊滅だ。俺たち以外のパーティーは尻尾の直撃を受けて一人残らず地面に転がってる。

 これは、まずい。辛うじて動いてる奴もいるけど、ほとんどはピクリともせずに起き上がる気配がない。もしかしたら気絶じゃ済んでないのかもしれない。

 最悪だ。一撃でこれかよ。さっきまで余裕があるくらいだと思ってたのに一瞬で覆された。まともに生き残ってんのは俺たち4人だけだ。もうパーティーの数が1つ足りないなんて生ぬるい状況じゃない。1人が1本の首を相手にしても2本余る。しかも火で焼いて再生を防げないんじゃ攻撃することもできない。

 こっちの攻撃は無効で、逆に俺たちはあと一撃でとどめを刺される可能性もある。こっから逆転って言うのは普通にはさすがに無理か? 

 俺は周囲の様子をもう一度窺う。

 尻尾の一撃で街頭も街路樹もなぎ倒されて車だって吹っ飛ばされて燃えてる。一撃で辺り一帯廃墟状態だ。

 でもそんな中にもいいニュースはある。

 攻撃を食らって倒れてた冒険者の何人かが起き上がろうとしてる。フラフラだけどそれでも自分の足で立とうとしてる。それにまだ倒れてる連中もよく見りゃまだ生きてる。動けないだけで死んだわけじゃない。

 ――まだだな。まだ諦めるわけにはいかない。

 みんなまだ死んでないならこのまま死なせるなんてありえない。意地でも何とかしないと男じゃねーよ。

 そうして俺はここで踏みとどまる決意を固めた。

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