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77話「セカイのカラクリ」

「『世界そのもの』……?」


 祭壇を背にした愛理に、俺は思わず聞き返した。


「どういうこだよ。世界なんてどこにでもあるって言うか、俺たち自体が世界の中に住んでるんだろ。それともお前は俺たちが知ってる世界は本物じゃないって言いたいのか?」

「むむー。なんでそうなっちゃうかな。そもそも世界って言う現象に本物も偽物もないよ。たとえどんなに異化しててもここはボクたちにとっての元の世界。その事実に疑いはないからね」

「そ、そうなのか?」


 いや、俺だってべつにそんな心配してたわけじゃない。

 でもだったら愛理はいったいなにが言いたいっていうんだよ。


「ボクはなにもこの世界についての真贋にケチをつけてるわけじゃなくて、ここがこの世界の現象界と世界基体との接点、現実と可能性の臨界点だって言ってるんだよ」

「言われても分かんないって。だいたい世界基体だかがどうとか、現実と可能性の臨界点とか、2つの話をいっぺんにされてもな」

「べつに2つもいっぺんに喋ってないでしょ。前にも言ったと思うけど、1つの独立した世界は、その構造の中に人間には知覚出来ない要素を色々を含んでるわけ。つまり『可能性』とか『法則』とかそうそういった類のね」


 そういえば言ってたような気がするな。

 この世界は人間の目に見えるものだけで出来てるわけじゃない、って。


「で、その、世界構造の中で観測不能な部分を『世界基体』って呼んで、僕らが知覚してる世界の姿、『現象界』と区別をつけてるんだ」


 区別をつけてるって誰がつけてるんだ?

 いや、それを聞くと余計にややこしくなりそうだから黙っとこう。


「それと、これも前に似た話をしたと思うけど、世界基体はゲームで言うところのシステムファイルでありデータフォルダーだと思えばいいよ。世界基体って言うシステム領域に含まれる各種要素を元に、バックグラウンドで行われた計算の結果としてのゲーム、それが現象界、ボクたちの認識する『世界』だよ」

「計算された、って言われるとなんか怪しく感じるな。俺たちの世界が誰かの思惑の上に乗っかってるみたいでさ」

「まぁ、今のはものの例えだよ。世界基体がなんらかの意思をもってたり、あるいはだれかの意図で計画されたものじゃないからね。世界基体はあくまでも自然発生したものだし、それがあるからこそ現象界も生じ得るってだけさ」

「そうは言ってもやっぱり向こうの方が主体なわけだろ。やっぱり世界基体が本当の世界ってことにはならないのか?」

「ならないよ」


 俺の問いに、愛理はきっぱり言い切って答えた。


「たしかに世界基体って言うくらいだから基礎構造としての役割は重要なんだけどね。それでも現象界がともなってないと世界とは呼べないし、ぶっちゃけ世界基体と現象界の両方がそろって初めて世界として成立するからね。やっぱりそこにどっちが本物とか大事とかはないんだよ」


 そっか。

 そういうことなら少し安心だ。

 本物の世界が別あるとか気持ち悪いからね。


「それに現象界での出来事やその結果が世界基体に影響を与えてるのも事実なんだよね。だから現象界が世界基体に一方的に縛られてるわけじゃないんだ。同格だよ、同格」

「こっちが向こうに影響?」

「仮にボクらが現象界でなにか意思を持って行動すれば、当然その結果が出るでしょ。それが成功だったにせよ失敗だったにせよ、周囲にはなにか影響を与えるはずだよね。その事実は世界基体の構造に還元されるから、それが現象界から世界基体への影響力にもなるんだ。だらかこっちと向こうは円環構造とも言えなくもない」


 分かるような分からないような、なんとも言えない話だな。

 俺にはそれがどういう意味を持ってるのかまだ分からない。

 ただ愛理がそういう話をする以上、今の俺たちに無関係じゃないはず。


「それで、ここが世界基体との臨界点、だっけ。だとしたらあのウヨウヨしてるヒトダマはなんだ。白ローブの連中もここでなにかしようとしてたんだろうし、お前なにか気づいたんだろ?」


 普通に考えたら天国とか霊界の入り口だけどそれは違うって話だ。

 それでも、こんなとこまで俺たちを引っ張ってきてあんな説明したんだ。

 愛理としては想像した通りだったんだろう。


「あそこに浮いてるのは個の存在性だよ。ここは現象界と世界基体の臨界点だって言ったでしょ。臨界って言葉の意味は物事の状態が変化すること、つまり相転移のことなんだよ。とくに今この場所の場合、世界基体における『事実構造としての有り様』と、現象界における『事象としての表れ』、その中間の状態が生じてるんだ」

「それがなんでこんなとこで起こってんだよ。神社の地下だぞ、ここ」

「分かんないかな? そんな場所だからこそこの上に神社を建てたんじゃないか。今日だって地上には亡くなったはずの人が戻って来てるでしょ。あの人たちがいったいどこから戻って来たと思ってるのさ」


 天国。

 もしくは霊界。

 なんとなくそんなところを想像してたけど、そうか、それはぜんぜん間違ってたわけだ。


「世界基体は、、死んだ人間が行きつく先なのか? それじゃあ天国となにが違うんだよ。いや、たしか神さまは居ないって言ってたな。じゃあやっぱり天国じゃないのか? あれ、なにがなんだか分かんなくなってきた……」

「落ち着きなよ。世界基体は天国じゃないし、べつ死んだ人間が行きつく先ってことでもないよ。ただ事実構造として、その人の存在性は保存されてるけどね」

「だからそれが死んだらそこに行くってことだろ?」

「違うってば。死んだから保存されるんじゃなくて、最初からずっと保存され続けてるんだよ。言ってみれば常時録画かな。世界基体はいつだって現象界から事実を取得してるんだよ」


 録画か。

 そういうことなら分からなくもない。


「でもそうなると地上に居た幽霊はただ記録を再生しただけか。それにしては普通に祭りに参加してた気がするぞ?」

「と言うより『ある時期のその人の再現』かな。若いころのあの人が今会えたら、なんて現象が今日に限っては起きちゃってるんだ。しかもそれをお祭りにしちゃうなんて、気が利いてるって言うかロマンチックだよね」

「かもな。でも白ローブの連中はなんでこんな祭りの日を選んで行動起こしたんだろうな。あいつらには関係ない話だろ」


 まさか祭りが嫌いでじゃまするのが趣味なわけじゃないだろうし。

 なにかそれなりに理由があったはずだ。

 そんな俺の素朴な疑問に愛理が答えるより早く――、


「それはもちろん、彼らがゲオルギウスとその理想の復活を目論んだからだよ」


 前方の祭壇の上、そこに1人の少女と並んで立つ優男は、まるで詠うような声でそう言った。


「ブラック、アイズ……」


 思わず名前をつぶやく。

 するとそいつは閉じたままの目で俺を見すえてほほ笑んだ。

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