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72話「狂信の誤算」

「自分の仲間にあんなこと……。やっぱり正気じゃないんじゃないの、あいつ?」


 あんまりって言えばあんまりなゲオルギウスの行動に、白夜はどこか非難めいたようにつぶやいた。

 なんたって白ローブたちとゲオルギウスは直接の師弟関係のはずだ。

 それなのに、せっかく甦らせてくれた弟子をなにか言うでもなく攻撃したんだからとても正気とは思えない。

 そこだけはちょっとかわいそうだよ。

 気持ちの報われななさっぷりだけは、ね。


「あの見境の無さで正気なら大した悪党だぜ。このままじゃ連中だけじゃねぇ。俺らまで不味ぃぞ」


 ゲオルギウスの凶行は白ローブのリーダー格だけで終わらなかった。

 地面と水平になった魔法陣をいくつも空中に出現させたゲオルギウスは、それを自分を中心に不規則に旋回させ始めた。

 その光景は、まるでチャクラムかなにかを結界代わりにするみたいだ。

 もっともそんなのとは脅威度がまるで比べ物にならない。

 ゲオルギウスの魔法陣群は旋回しつつ接触したものを片っ端から黄金に変えてる。

 つまり周りの木や灯篭や白ローブたちを、だ。


「師よ。その御業はあなた様自身で封じておられた禁術のはず。それが何故このような――」


 辛うじて立ち上がった白ローブの最後の1人も、言葉を言い切ることなく黄金像に変わり果てる。

 それは狙ってやったって言うより、どんどん拡大していく無差別攻撃に巻き込まれたって感じ。

 もう無茶苦茶。


「こっちに来るわ!」

「つ、次は私たちが狙われてるんでしょうか!?」

「さぁねー。案外どこかに行きたいだけなのかもしれないけど、どっちみち行かせるわけにもいかないしね」


 そりゃあんなのに自由行動させちゃったら東京中が金ぴかになっちゃう。

 物だけならまだしも、人間にこれ以上の被害が出るのはさすがに見逃せない。


「ってことで第2ラウンド開始だよ、クシャナちゃん」

「構いませんが、今度は本気でやりますよ?」

「いいよ。あのゲオルギウスは、回復だか再生だかの能力を持ってるみたいだからね。すこしやり過ぎなくらいじゃないと止められそうにないよ」

「おいおい。やり過ぎちまったらそれこそ元も子もねぇじゃねぇか。姐さんの攻撃力で本気を出されちゃ都市区画まるまる廃墟になりかねねぇ。頼むから的を絞ってくれよ、的をよ」

「心配いりません。シュウジも居ることですし、周辺への被害は最小限に抑えます」

「ほんと? それで勝てるなんてさすがクシャナさん!」

「ええ。怖いのは私がやっつけてしまいますから、シュウジはここでいい子にしていてください」

「分かった。ちゃんと待ってるからがんばってね」


 そうしてクシャナさんは俺の頭を撫でてから戦うべき相手の居る前方に向かって歩き出した。

 一方のゲオルギウスは特別反応するでもなく、相変わらずの様子で手当たりしだいに黄金化しながら近づいてくる。

 2人はそのままゆっくりと対面して、先に仕掛けたのはクシャナさんだった。

 黄金化の旋回魔法陣群が自分に到達する直前、大跳躍で空中に舞い上がったクシャナさん。

 撃ち下ろすように得意の雷撃を放つと、その反動を利用した捻りの効いた二段ジャンプで右方向へ離脱。

 閃光と粉塵とで姿が確認できなくなった攻撃目標から安全な間合いを確保して様子を伺う。

 まぁ、普通なら今ので死んでる。

 だって俺、攻撃が直撃する瞬間ばっちり見ちゃったし。

 クシャナさんの雷撃は、最後まで動かなかったゲオルギウスにたしかに当たった。


「さすがの威力ね。土煙でなにも見えないわ」


 だね。

 普通は雷属性の攻撃ってあんまり派手に爆発したりはしない。

 音と光はともかく、爆風とかは無いし煙もちょっと出る程度。

 自然の雷が落ちたって地面がえぐれたりはしないでしょ。

 そういう意味じゃ殺傷力の高さに対して見た目が地味と言えばそうかもしれない。

 けどクシャナさんに限ってはその常識は通用しない。

 さっきクシャナさんが放った雷撃は、ゲオルギウスに命中した瞬間、放射状に拡散して雷の炸裂弾みたくなった。

 その効果で周囲の地表は穴だらけ。

 盛大に土煙をあげて、なおかつその中では積乱雲みたいな稲光がしばらく続いた。

 こうなると見てるこっちにもなにがなんだか分からない。

 とりあえず攻撃が当たったのは間違いないけど、こういう場合のお決まりとしては――


「ありゃあ、やったのか?」


 そう。

 そのセリフは言っちゃいけないやつ。

 そのルールをあっさり破っちゃうラーズにはもっと空気を読んでほしい。

 どう考えても踏んだよ、地雷。


「伏せて!」


 白夜の声で、俺はとっさに愛理とうららの体を抑え込みつつ地面に這いつくばった。

 次の瞬間、ゲオルギウスの魔法陣が俺たちの頭の上をかすめるように通り過ぎる。

 間一髪だ。

 白夜のおかげでなんとか2人とも守ることが出来た。

 その白夜もきっちり自分の身は自分で守ってるし、俺たちは危ういところをうまく潜り抜けた。

 ただ一人を除いては、だけど。


「ちょ、待て! 助けやがれ!」


 反応が遅れたのはやっぱりラーズだった。

 でっかい体をひねって次々に飛んでくる魔法陣群を必死にかわしてる。

 だから言わないことじゃない。

 こんな絵に描いたようなお約束、フラグを立てた方が悪いに決まってる。

 悪いけど助けれないよ。

 俺だってすでに2人もかばってるんだから。

 身を挺するにしても体は1つしかないからね。

 自分でなんとかするか、いっそ金ピカになれば人気出るかもよ。

 黄金オニクワガタ的なポジションで。


「白夜。頼む」


 とは言え、ほんとにやられちゃったらシャレにならない。

 そうなるとこういう状況でもっとも頼りになるのはやっぱりイベントホライゾンだ。


「任せて!」


 白夜はイベントホライゾンを出現させると、ラーズを守れる位置にそれを配置した。

 ゲオルギウスの魔法陣群は、相変わらず円を描くように旋回しつつ襲って来る。

 だから防御するべきなのは正面じゃなくて横方向だ。


「危ねぇ、危ねぇ。恩に着るぜ、嬢ちゃん」


 ラーズも自分の右側に絶対防御の壁が出来たことで落ち着きを取り戻したらしい。

 そりゃ一番安全だから分かるけどさ。

 だからっていつまでも独り占めは許さないよ。


「白夜。こっちにも早く早く。このままだとそのうち俺が黄金オニモロちんになっちゃう!」

「なによそれ。ちょっと見てみたいじゃない!」

「やめろって。そんないやらしい目で俺を見るなって!」

「バカ。いいから待ってなさい」


 バカとはなんだ。

 黄金でオニなモロちんだぞ。

 シャチホコなんて目じゃないくらいのおめでたい死に様なんだからな。


「ラーズ。イベントホライゾンを移動させるから合わせて動いて」

「お、おう」


 ラーズは若干ドキドキした感じで、それでも言われた通りイベントホライゾンと同調しながらこっちに移動して来た。

 そして俺たちは、ようやく絶対防御の安全地帯に集合。

 いや、ほんとこれ安心安心。


「それにしてもクシャーナの攻撃でも死なないなんて、あのゲオルギウスって言うのはいったいなんなのよ」

「んなもんどうだって構わねぇさ。むしろいつまでドンパチが続くのかが問題だぜ。手数が増せば、それだけ被害が広がるんだからな」


 俺たちの見守る視線の先。

 砂煙に包まれた決戦場では、クシャナさんとゲオルギウスの攻防が再開されてる。

 視界を半分さえぎる暗幕の向こうで、千差万別いろんな種類の魔法が飛び交ってるのが分かる。

 地面が突き上げるように隆起したり、炎が渦を巻いて空高く吹き上がったり、雷が縦横に走って一瞬2人のシルエットを浮かび上がらせたり。

 火山が噴火するとき雷が起こることがあるらしいけど、そんな感じかも。

 見た目すごい怖いけど、これは全部クシャナさんが攻撃した結果だから俺的には見慣れた光景だ。

 火も土も雷も、クシャナさんが得意でよく使ってる属性だからよく見る組み合わせなんだよね。

 一方で、目の前の光景にはクシャナさんが普段使わない属性の魔法も混ざってる。

 風属性魔法も入ってるみたいだけど、それより龍みたいにうねりまくってる水流は絶対ゲオルギウスの仕業だ。

 あんまり苦手のないクシャナさんだけど、強いて言うなら水属性は一番の不得手。

 特別弱点ってこともないけど、自分で使うことはほぼないかな。

 だからあれはゲオルギウスの魔法で間違いない。

 あと相変わらずの黄金化ね。

 ゲオルギウスはクシャナさんの攻撃を黄金に変えて動きを止めることで防御してるみたい。

 黄金化の魔法陣は触っただけでアウトだから厄介だ。

 しかもなんか炎とかまで黄金に変えられちゃってるし、いったい術式的にはどうなってんだか。

 そのへんのよくわからないところがゲオルギウスがクシャナさんと一応渡り合えちゃってる理由かも。

 じゃないととっくに勝負は決まってると思うんだよね。

 ほんと、予想外の強さだよ。


「クシャナちゃん、いったん集合!」


 思ったより面倒な展開だと思ったのか、愛理はバトってるクシャナさんに向かって叫んだ。

 そしたらクシャナさんはあっさりゲオルギウスと間合いを取って俺たちのところに跳躍して戻ってきた。

 こうしてみると全然余裕なのにね。

 それでもゲオルギウスを倒せないんだから、やっぱりなにか作戦が必要なのかもしれない。

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