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67話「阻む者、押し通る者」

「こいつらには物理が効く。全員落ち着いて対処しろ。それと、倒れてる人間には絶対に当てるなよ」


 敵のお出迎えが俺たちに殺到するなか、十蔵のおっさんの指示が飛ぶ。

 それに従いつつ俺たちは迎撃態勢を整える。

 本殿に続く参道の先から現れたのは、黒曜の角を生やした魔物の群れだった。

 それは間違いなく小笠原で戦った魔物たちと同じものだ。

 どうやらクラルヴァインは、改造した魔物を東京のなかに大量に持ち込んでたらしい。

 これを突破して先に進むのはちょっと大変かも。


「クシャナさん。俺が前に出るから愛理任せてもいい?」

「そうですね。私も病み上がりで魔力が心もとないですから、アイリを守りながら援護します」


 今のクシャナさんは解呪の腕輪を機能させる程度には魔力は回復してる。

 見た目だってちゃんと大人の姿だ。

 でもそこまで魔力が戻ったのは昨日の今日だから余裕が無い。

 だからある程度魔力を使えば、また子供に戻っちゃって力を失う。

 そう言うわけで雑魚の相手は俺がするべきだ。

 クシャナさんには後ろに下がっててもらって、極力魔力を温存しておいてもらおう。

 ついでに愛理の護衛も願い出来て一石二鳥だ。

 なんて、俺がそんな名案を閃いちゃったりしてると、


「じゃあボクはクシャナちゃんと応援してるから頑張ってね」


 俺たちのやり取りを聞きつけた愛理がトコトコ後ろに下がっていく。

 こっちが今からバトるって時にのんきなやつ。


「おい、愛理。あんまりクシャナさんにばっかり頼ってないで、少しくらい自分でも働けよ?」

「ははーん。その言葉はそっくりそのまま修司に返すよ。いつまでも甘やかされてないで、こういう時くらい男の子見せたら?」

「あ、言ったな。見てろよ。クシャナさんには一匹も近づけないぞ」


 愛理に言われるまでもない。

 今のクシャナさんを守るのは俺の仕事なんだから。


「ほら。ちょろい、ちょろい。こうやってクシャナちゃんももうちょっと修司をうまくコントロールしなよ」

「いえ。そのままのシュウジで十分かわいいから別にいいです」

「えー。クシャナちゃん、趣味わるーい。修司はもっとちゃんとさせたほうがかっこいいってボクは思うなー」


 二人のところを離れる間際、そんなやり取りが背中越しに聞こえた。

 愛理のやつ、あとでおぼえてろよ。

 言い返したいけどここは我慢だ。

 後ろに下がるラーズとすれ違うように、俺は前衛として前に出る。


「修司。行くわよ。ついて来て」

「あ、ちょっと待って置いてかないで」


 俺は走り出した白夜を慌てて追いかける。

 それに合わせて他のみんなも魔物の群れに突撃。

 敵と味方がぶつかり合って、まるで小さい合戦でも始まったみたい。

 一気に乱戦になった状況で、それでも白夜はイベントホライゾンを盾に突き進む。

 それを止められる魔物なんてそうそう居ない。

 襲い掛かってくるやつは片っ端からイベントホライゾンの餌食だ。

 やっぱり白夜には正面突破がよく似合う。

 あとは取りこぼしを処理して援護してやれば完璧。

 その連携をやったことがある緒方大尉もすぐに合流してきて、俺たち3人を先頭に全員で押し込む。

 地上戦は主に剣士系の3人。パンク兄ちゃんと十蔵のおっさん、それにアルトレイアだ。

 おっさんとアルトレイアが左右に広がって、それを足の速いパンク兄ちゃんが交互に加勢する感じ。

 一方で緒方大尉とうららは対空迎撃がメインだ。

 空を飛ぶ魔物には射撃系が有効だし、流れ弾が倒れてる人たちに当たるのも防げる。

 そんな中で、俺は白夜の護衛に徹する。

 俺は近距離でも遠距離でも戦えるから対応出来る幅が広い。

 その分、緒方大尉がうららの手伝いに回る余裕が多少生まれてる。

 いける。

 このメンバーのポテンシャルならこのくらいの雑魚の群れは押し切れる。

 俺たちは思ってた以上に魔物を圧倒しながら前に進んで行く。


「おい。なんか出て来やがったぜ?」


 それに最初に気づいたのはパンク兄ちゃんだった。

 参道の先、俺たちの行く手を阻むように立ちふさがる1つの影がある。

 パンク兄ちゃんも意外と視野が広い。

 広範囲のカバーを担当してるだけあって、次にどんな敵が待ち構えてるのかよく見てる。


「修司。あれって小笠原の時のあいつじゃない?」

「ああ。クラルヴァインの近くに居ると思ってたけど、思ったより早く出て来たな」


 あいつと今日、遭遇することはほとんど確定だった。

 クラルヴァインがこんなに堂々と行動を起こした以上、あいつが出てこないわけがない。


「天蝉――」


 十蔵のおっさんが感情を押し殺したように名前を呼ぶ。

 そしてその男の方もおっさんを見て答える。


「待っていたぞ、十蔵」


 予想通り現れた天蝉だったけど、その体は今までになくシンプルな形だった。

 今まではほんとに鎧武者って感じで豪華で派手な作りだった。

 頭にはクワガタみたいに角が生えてたし、鎧の肩にはすだれみたいな防御用(?)の板が付いてた。

 それに色だって全身朱色だったりして、わりと派手だったと思う。

 でも今日の天蝉は全然地味。

 兜は角が付いてなくて、ヘルメットみたいな丸っこいの。

 体も装飾無しのシンプルな鎧で色も黒っぽくて目立たない。

 この体の天蝉はなんて言うか、足軽っぽい雑魚感が出ちゃってる。

 今までさんざんロボットの体を自慢してたけど、もしかしてついにお金が無くなっちゃったのか?

 とにかくそんな妙に弱そうな天蝉に向かって、おっさんが啖呵を切る。


「天蝉。今日こそは落とし前をつけさせてもらう、と言いたいところだが、お前がどういうつもりでクラルヴァインに加担しているのか、まずはそいつを洗いざらい吐いてもらおう。このふざけたばか騒ぎの目的を、是が非でも教えてもらうぞ」

「出来るか、十蔵。今日の俺を軽装だと思って舐めてかかると痛い目をみるぞ?」


 お。

 なんか自信あり気。

 もしかしてあれはあれで超高機動型とか?


「関係ありません。あなたがなにかをする暇など、私が与えませんから」


 直後、後方からの閃光が俺たちの陣形を貫いた。

 その光は一直線に天蝉に直撃。

 鎧の体を半壊させながら、その男はあっさりとぶっ飛ばされた。


「おしおきです。私のシュウジをいじめた罪はちゃんと償ってもらいますよ?」


 あーあ。

 やっぱりこうなっちゃうよね。

 天蝉は一回クシャナさんを怒らせちゃってる。

 だから当然の結果と言えば当然の結果なんだけど、ちょっとかわいそうかも。


「ま、サカ一撃でハ壊サレr、とは、……」


 壊れてる壊れてる。

 地面に転がった天蝉はかろうじてまだ喋ってるけど、瀕死状態だ。

 片腕は取れかかってるし、下半身なんか完全にどこかに行っちゃった。

 でもこれでもクシャナさんは一応手加減はしてくれてると思う。

 天蝉には色々喋ってもらわないとだし、周りの被害も、ね。

 とにかくこれでクラルヴァインの情報を――。


「DAGA、残ねンだっt、な」


 そこまで言うと、天蝉は息を引き取るように動かなくなった。

 いや。

 もちろん死んだわけじゃない。

 これは機械の体ならではのやつだ。

 しかも今回はそれを逃げるために使ったんじゃない。

 クシャナさんに壊された体から天蝉の意識が抜けたと思った次の瞬間、轟音を立てて、空から新手が登場した。


「そう。たしかに残念だったとして言いようがない。どれほど圧倒的な攻撃力を持とうと、自由に体を変えられる俺にはまるで意味がない」


 降って来たのはさっきとまったく同じ形、まったく同じカラーリングの鎧武者。

 天蝉のやつ、ちゃんと予備の体を用意してあったんだな。


「だからどうしたと言うのです。その体も、もう一度同じように破壊すればいいだけのことです」


 だよね。

 スペックが上がってるならまだしも、見た感じさっきのと同じ体だし。

 今度はちゃんと戦ったとしても、天蝉がクシャナさんに勝てるとは思えない。


「もう一度か。それについても残念だと言っておこう。俺の体は1つや2つではないし、一度に使えるのも1体だけではないのだからな」


 と、その言葉の意味、俺はすぐに理解することになった。

 2体目の天蝉が降って来た時と同じように、次々に同じ形の鎧武者空から落ちてくる。

 それだけじゃない。

 参道の向こうから、周囲の物陰から、鎧武者が大量に姿を現す。


「さて、」

「俺はこの通り『俺たち』だ」

「果たしてお前たちは俺を超えて進めるのか」

「とくと試合うてみるとしよう」


 俺たちを取り囲んだ天蝉は、いや、天蝉たちは口々にそう言った。

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