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66話「諸悪に至る道」

 俺たちが神社の敷地に戻ると、そこは異様な雰囲気だった。

 太陽が完全に沈んだ夜の参道。

 それを壁一面の提灯の明かりが照らしてる。

 ほんの少し前、たくさんの人に紛れて祭りを楽しんでた時、それは日本的で風流なものだった。

 でも今は違う。

 今はもうここには祭りの賑わいは無い。

 突然の危険に襲われた人たちは、追い立てられるようにもうみんな避難した。

 そして残されたのはそれが出来なかった人のからだ。

 ゴーストに捕まってなにかをされた人たちが、石畳の上で無造作に倒れてる。


「まさか死んで、ないわよね?」


 この惨状を見るなり、白夜は固唾を呑んでそう言った。

 無理もない。

 本殿に向かって続く参道は、まるで殺人鬼が暴れまわったみたいな有様だ。

 血こそ流れてないけど、この思った以上の被害者の多さには言葉を失う。


「私の、判断ミスだ。やはりあの時、留まって戦っていれば……」

「アルトレイア殿。あまり自分を責めない方がいい。仮に俺たちが残っていても、パニックを起こした群衆の中では身動きさえ取れなくなっていた。こうしていち早く態勢を整えて戻ってこれたんだ。あの場は引いて正解だった」


 たぶんおっさんは正しい。

 あの状況だと剣も抜けないし魔法も撃てなかった。

 なにも出来ずに混乱に巻き込まれるくらいなら、白夜や愛理たちと合流を急いだのは間違いじゃなかったはずだ。

 でも。

 実際この光景を前にして、犠牲は付き物だとか、被害は最小限だとか簡単に思えるわけないんだよ。

 俺たちはあの時ここに居て、この人たちを守れなかった。

 それは事実だから、どうしても後悔するのは仕方ない。


「ま、あん時なんも出来なかったのは俺ら全員同じだったわけだし、1人で責任感じる必要はねーんじゃねーの?」

「そうですよ。アルトレイアさんだけの問題じゃないですよ」

「アルトレイア。俺もパンク兄ちゃんとうららの言う通りだと思うよ。俺たちはパーティーなんだし、そういうのももっと頼ってくれてもいいと思う」


 俺なんかたいして役には立たないかもしれないけど、これでも一応仲間のつもりだ。

 少なくとも自分たちの関わったことの責任を一人に押し付けるようなことはしたくない。


「うん。ありがとう。君たちが居てくれて、私は幸せ者だな」


 そう言って笑ったアルトレイアの表情は、それでもやっぱりぎこちなかった。

 でもそれでいいんだと思う。

 アルトレイアの性格を考えれば、今はそれで充分だ。


「では自分からも気休めを1つ。ざっと調べた限り、被害者は全員生きている。昏睡状態ではあるが、呼吸も脈拍も一応は安定している。なにをされたのか分かれば治療も可能かもしれない」


 倒れてる人たちを調べてた緒方大尉は、俺たちのところに戻って来てそう言った。


「ほんと? それじゃあ病院に連れていけばみんな助かる?」

「そこまではなんとも言えない。例えばこの症状が呪いを受けたものだとすると、科学療法では効果が期待出来ない。必要なのは呪術療法だ。だからこそ原因をはっきりさせるのが重要だ」


 原因か。

 俺が見たのは、ゴーストがみんなを襲ってたとこだ。

 ゴーストは物理さんじゃないから、少なくとも病院で治せるようなものじゃないっぽい。

 見た感じ倒れてる人たちは、みんな怪我とかはしてないみたいだしね。


「原因を調べると言っても、具体的にはどうすればよいのだ? 医術にせよ呪術にせよ、私たちの中に専門家は居ないはずなのだが」

「その点に関しては我が隊のラーズにお任せを。彼は他人のスキルを読み取れるので、加害者を見つければおおよそのことは見当がつくかと思います」

「つまり市民を襲ったゴーストを、と言うことだな。それならばさほど難しいことではなさそうだ。なにしろこの先で無数に待ち構えているだろうからな」

「はい。ただし、ラーズの能力にも有効距離があります。加えてスキャン中は無防備となるので護衛も必要です。あまりにも乱戦がひどいと必要な情報が読み取れないかもしれない。それを考慮したバックアップをお願いします」

「承知した。要は敵を近づけ過ぎなければよいのだな」


 アルトレイアは緒方大尉の説明をごくごく単純に解釈した。

 細かいことは抜きで、とにかくやるべきことだけを抜き出した感じ。


「なんか守ってくれるっぽいよ。よかったね」

「別によくはねーけどな」


 俺が話しかけると、ラーズはちょっとうんざりしたような顔をした。


「俺は戦闘要員じゃねぇんだぜ。いくら護りがあるからつったって矢面に引っ張り出されんのはかんべんしてもらいてぇもんなんだよ」

「そうなの? 獅子雄中佐たちといっしょに居るくらいだから、今までも色んな敵と戦って来たのかと思ってたけど?」

「生憎、裏方には裏方なりの戦いっつーのがあるんだよ。ドンパチのど真ん中で情報収集なんざ、生きた心地がしねぇ」


 戦闘員じゃないとすれば、そもそもラーズはいったいどういう立場なのか俺には詳しいことは分からない。

 でもやっぱり、自分で戦えないのにわざわざ敵の正面に出ていくっていうのも辛いと思う。


「ねぇ、緒方大尉。ラーズはこう言ってるけど大丈夫なの?」


 俺は一応確認する。

 もしかしたら他にいい作戦があるかもしれないしね。


「獅子雄中佐に判断を仰ぐ。少し待ってほしい」


 そう言って緒方大尉は耳に付けた小型の通信機を操作する。

 相手はここにはいっしょに来なかった獅子雄中佐だ。

 中佐は、色んな情報を集めて指示を出すために一人で残ってる。


「問題無いそうだ。作戦は続行。中佐はラーズの活躍に大いに期待している」

「くそ。マジでリザード使いが荒ぇ……」


 ほんと、軍隊って厳しいよね。

 獅子雄中佐もいい人そうに見えて、意外と容赦無い。

 ラーズもいっそ冒険者にでも転職すればいいのに。


「ラーズ殿。無理を頼んで申し訳ない。しかし今は貴殿の力がどうしても必要なのだ」

「へいへい。分かってますよ、代官様。こうなりゃ干物になるまで使い潰してくれってんだ」


 ラーズはヤレヤレって感じで諦めのポーズだ。

 でもほんとにいやだった最初から来てないだろうし、みんなツンデレなんだから。


「ならせめて各人のポジションと役割を決めておくか? 戦えない者も居れば、初顔合わせも多い。うまく連携を取るには必要だろう」


 そう提案したのは十蔵のおっさん。

 言われてみれば、けっこう人数多いから下手すると混乱するかも。

 だからそれはそれでベテランらしい気配りだったのかもだけど。


「残念ですが、敵はそこまでの猶予は与えてくれないようです」


 気配察知を持つクシャナさんが、誰よりも早く反応した。

 その視線の先、参道の向こうから確かに何かが向かってくるのが見える。

 ここはアドリブで連携するしかないみたいらしい。

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