65話「志向」
「ガンシップとは言え、空中からのこれ以上の接近はリスクが高い。ここからは全員徒歩で目標に向かってくれ」
俺たちを乗せたヘリ、じゃなくてガンシップが着陸すると、獅子雄中佐は後ろのハッチを開きながら言った。
「んだよ。映画みてーに機関銃とミサイルぶっ放しながら敵の鼻っ面に突っ込むんじゃねーのかよ。強襲作戦用なんだろ、これ?」
祭り会場の近くに舞い戻って来た俺たちだったけど、パンク兄ちゃんは物足りなさそうだ。
「無茶言わないでくれ。あそこは日本の英霊が祭られてるところだぞ。それに周辺には実弾の効果が薄いゴーストが飛び交ってる。パイロットがやられたらそこで一巻の終わりじゃないか」
そんなわけで、降ろされたのが日本武道館の横。
祭り会場のすぐ近くだから、実質的に直接現場に戻ったのと大差ない。
でもパンク兄ちゃんの言う通り、敵の本陣を空中から強襲して制圧とかやってみたかったよね。
「とにかく、この先なにが待ってるか分からない。これがクラルヴァインが意図して引き起こしたことだとしたら、よっぽどの準備と覚悟をしてあるはずだ。くれぐれも油断しないでくれよ」
「うん。たしかに自分の管轄区内で、しかもこんな大事な祭りのさなかに起こした行動だ。はっきり言って、ディートハルトがあとのことを考えているとは思えない」
「いやはや実際、正気じゃねぇぜ。自分の管轄区でこんな事件が起こりゃ、どう転んでも責任問題だ。代官なんて地位に居るやつがなんでこんな自爆テロみたいなマネしやがる?」
そうそう。
問題はそこなんだよね。
仮に、この騒ぎが収まった時に、俺たちがクラルヴァインの犯罪を証明出来なかったとする。
でもたとえそうなったとしても、クラルヴァインはみたま祭りの責任者だ。
どっちにしろ責任を取らなくちゃいけない。
そうなってくるとほんとに謎だよ、この状況は。
ペナルティー確定のトラブルなんて自分で起こして、クラルヴァインはなにがしたいんだろう?
「なぁ、愛理。あいつらなに企んでるんだと思う? お前ならなにか分からないか?」
「あのねぇ、今来たばっかりのボクにいきなりそんなこと言われても無理に決まってるでしょ。お祭りに誘ってくれなかったくせに、修司は調子よすぎだよ。そしてボクはぷんぷんだよ」
「そんなこと言ったって、遊びに来たんじゃないんだからそれは仕方ないだろ」
「どうだかねー。どうせ修司のことだからクシャナちゃんと、そっちのうららちゃんだっけ? 二人並べて両手に花でおいしいものでも食べてたんじゃないの?」
「おまっ。そんなことは名推理しないでいいから!」
そもそもなんでそんなこと具体的に言い当てられるんだよ。
直接見てもないのにおかしいだろ!
しかもあんな言い方されたらまるで俺がサボってたみたいだし。
……、愛理は危険だ。
あんまり下手に突っつくとこっちが怪我する危険性がある。
なんでこんな心配しなくちゃいけないのか分からないけど、とにかくこの流れはマズい。
誰かほかに話しを振れる人は居ないの?
「ジュウゾーはなにか心当たりありませんか? テンゼンがどうしてクラルヴァインの下についているのか。そこからなにか推理出来ればいいのですが」
俺がキョドってると、クシャナさんが十蔵のおっさんに声をかけた。
まるで俺の気持ちを読み取ったみたいなこのアシスト。
やっぱりクシャナさんはイカしてる。
「いや。すまないがクラルヴァインどころか、天蝉がなにを狙ってるのかも分からん。せめて連中の動きがもう少し分かればなにか思いつくかもしれんが」
うーん、残念。
おっさんの返事の方はあんまりイカしてない。
そうなると俺たちがこんなところで考えてもだめかも。
「ま、仕方ねーんじゃねーの。無茶苦茶やる奴らの考えることなんかどうせまともじゃねーよ」
「そ、それに情報も少ないですし、十蔵さんに分からなくてもしかたないですよ」
「やっぱりまずは今なにが起こってるのか調べるのがいいんじゃない? それが分かれば向こうの目的だって分かると思うわよ?」
「普通に考えてそうだよな。結局クラルヴァインの居る神社の本殿まで乗り込んでみるしかないか」
そう言えばアルトレイアたちは一回すぐ近くまで行ってたんだっけ。
でも護衛が多すぎて手が出せなかったんだよな。
だとすれば、そこまで行くとかなりの激戦になりそうだ。
「獅子雄殿。軍の部隊はどのように展開しているのだ? もし包囲網を狭めていけるのなら、私たちもそれに乗じるのが得策ではないだろうか?」
「いえ。包囲網と呼べるほどには機能していないようです。元々即応で出動して来た部隊です。数に限りがある上に、敵は実弾の効かないゴースト。現状では各隊は避難誘導をするので精いっぱいと言うところかと」
そっか。
こんな異化した世界の軍隊って言っても、色んな敵と戦えるように武器を揃えてるわけじゃないのね。
銃だとただの物理さんだし、ゴーストは倒せないよね。
「あれ? でも緒方大尉は普通に魔法使ってるし、他の人も戦えるんじゃないの?」
「緒方大尉は特別だ。と言うか軍にも魔法戦部隊くらい居るが、都合よく近くで暇を持て余していてくれたりはしない。実際、今、周辺に展開してるのだって非戦闘部隊の方が多いくらいだ」
「あ、そうなんだ。無理してがんばってくれてるならあんまりわがまま言えないね」
やっぱり軍人さんは大変だ。
戦闘部隊でもないのに、武器の効かない敵からみんなを守らないといけないんだから。
「そ言うわけで直接援護は期待出来ない。事態の収束は君たちにかかってるからよろしくたのむぞ」
そうして俺たちは獅子雄中佐に送り出されて武道館をあとにした。