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63話「集結」

「少し待たせたか? だが怒らないでくれよ。こいつ一機をタクシーにするのにだって色々と手続きがいるんだ」


 広場に着陸した軍用のヘリコプターから降りた獅子雄中佐は、俺を見るなりそう言った。

 中佐が乗り付けて来たのは、正確には近未来的なヘリコプターっぽいなにかだ。

 照明に照らされたその姿を一見すると、ちょい幅広なシャチっぽいシルエットなのが分かる。

 丸っこいけど、機体そのものの形的にはヘリコプターの仲間って言ってもいいと思う。

 ただ問題なのは、その背中に空を飛ぶためのでっかいプロペラがついてないってこと。

 代わりに飛行機みたいに主翼があるんだけど、これが羽の無い扇風機みたいな形をしてるからまた妙だ。

 うーん。

 あそこから空気を出してるのか、それともイオンクラフト的ななにかなのか。

 とにかくその輪っかの向きを変えて浮いたり前に進んだりする乗り物らしい。

 形は変だし、でも着陸の仕方はまさにヘリコプターだったし、変な乗り物だ。


「どうだ。こいつはすごいだろう。垂直に離着陸出来て最高速も亜音速まで出る。元々は強襲作戦用に開発されたガンシップなんだが――」

「いいって、いいって。とにかくそのすごいやつまで使ってあいつらを連れてきてくれてありがとね」


 長くなりそうなうんちくを遮って、俺は獅子雄中佐の後ろに居るメンツを見た。

 連れてこられたのは4人。

 そのうち2人が俺の指名だ。


「あんたね、急に呼び出すくらいなら最初から手伝わせなさいよ。あんなので急に迎えに来られてびっくりしたじゃない」

「言っても無駄だよ、白夜ちゃん。修司はいっつも行き当たりばったりだもんね。どうせ今回も予想外にピンチになって、慌てて泣きついて来たに決まってるんだから。ボクはもうとっくの昔に慣れちゃったよ、この展開」


 中佐に頼んで超特急で連れてきてもらった二人、つまり白夜と愛理はなんだかちょっとご機嫌斜めっぽい。

 そう言えば白夜はアルトレイアのクエストに参加したいから紹介してくれって言ってたっけ。

 うっかり忘れてた挙句にいきなり手伝えじゃ怒るのも仕方ない。

 だからなるほどそこは俺が反省するところだ。

 でも愛理の言い分はあれだぞ。

 たしかに俺は勢いに任せてピンチになったりもするけど、それでどうしようもなく愛理に泣きついたことなんて……。

 うん。

 いっぱいあったね。

 ごめん。


「アイリ。今回のことは本当に不可抗力です。シュウジのせいではありません」


 と、俺の代わりに弁解してくれるクシャナさん。

 やっぱりいつでも俺の味方でいてくれるのはこの人だけだ。


「もう。クシャナちゃんってば、まーた甘やかして。せめて言い訳くらい自分でさせないと、本格的にダメな大人になっちゃうよ?」

「いや、待て待て。ほんとだって。今日は俺どころか他の誰もなにもしてないって」

「それにしてはずいぶん大騒ぎになってるじゃない。獅子雄中佐たちだけかと思ったのに、こんなに大々的に軍が動いてるなんていったいなにがあったのよ?」

「それについては私から話そう」

「え? だ、誰なの?」


 いきなり出て来たアルトレイアに白夜は驚きを隠せないみたいだ。

 ついでに言うと、愛理も愛理で不審者を見る目つきだ。

 でもそれも仕方ないよな。

 アルトレイアはただでさえカウガールファッション、プラス背負い野太刀っていう妙なスタイルだ。

 そのうえしかも、今は顔にレッドさんのお面まで付けてるんだから、これで不振がるなって方が無理。


「って言うか、そろそろそのお面取ったら?」

「むぅ。せっかくお揃いで買ったのに、どうしてみんな外してしまっているのだ。一人で被ってるとまるで私がバカみたいではないか」

「いや。だって今は顔隠す必要なんてないし」


 むしろなんで1人だけ外してないんだよ、って感じ。

 とは言え、渋々とは言えアルトレイアもお面を外して素顔を晒した。


「と言うわけで、私が渋谷区代官アルトレイア・バントラインだ。急な協力要請に応えてくれて君たちには感謝している」

「ああ、代官のアルトレイアちゃんね。修司から話は聞いてるよ。ボクは天能寺愛理。修司の面倒を見てあげてるやさしい錬金術師、かな」

「うん。こちらも話は聞いているぞ。君には以前から修司を通して協力してもらっているみたいで恐縮だ」


 アルトレイアが言ってるのはあれのことだな。

 魔結晶エーテル。

 東京近辺で突然出現するようになった魔物の中から出て来た黒い塊。

 その正体を鑑定してもらったのが愛理だ。

 アルトレイアにはその結果を、俺たちの素性をぼかしたうえでおおまかに伝えてある。

 だから愛理っていう錬金術師の存在も当然知ってたわけだけど、実際に会うのは今日が初めてだ。


「それでそっちのもう1人は誰なのだ? ずいぶん可愛らしいところを見ると修司の彼女ではないようだが」

「どーいう意味だよ、それは」


 それじゃまるで俺が美形にはモテないみたいじゃないか。

 言っとくけど、俺にはクシャナさんが居るからな?


「初めまして、バントライン伯爵。私は雪代白夜と言います。お察しの通り、修司とは、た、だ、の、協力者です」

「協力者。そうか、つまり冒険者仲間として助太刀に来てくれたのだな。頼りにしているぞ」

「はい。任せてください。私が来たからには修司にはもう失敗させません」

「はっはっは。それは期待せずにはいられないな」

「おい。なんで俺がダメなやつみたいになってるんだよ」


 せっかく呼んだのにひどい言われようだ。

 まぁ、さっそく打ち解けてくれてるみたいだから別にいいけどさ。


「あ、あの、お久しぶりです。覚えていただけてる、でしょうか?」

「あら。あなたはたしか冒険者ギルドの時の。えっと、うららちゃん、だったかしら。元気だった?」

「はい。おかげさまで。白夜さんもお元気そうですね」

「そう? これでも誰かさんに付き合って怪獣と戦ったばっかりだから、病み上がりみたいなものよ?」

「怪獣との戦いって、白夜さんもいっしょだったんですか。すごい厳しかったって聞きましたけど、ご無事でなによりです」

「私はただ壁になってただけで、倒したのはクシャーナよ。正直たいして役に立てなかったわ」


 そう言って白夜は小さくため息をついた。

 本気で言ってるのか?

 だとしたらそれは大間違いだ。


「いや。あのレベルの化け物とガチでやり合うとかって時点で生身の人間のやることじゃないって。それをお互い大けがせずに帰ってこれたのは間違いなくお前のおかげだよ」

「な、なによ。別にいまさらほめてくれなくったっていいんだから」

「そう言うなって。これでもちゃんと感謝してるんだぞ。お前が居てくれてほんとによかったよ」

「もう。分かったわよ。そこまで言うなら今回も守ってあげるから、背中は任せなさい」


 お。

 まんざらでもなさそうな顔でずいぶん男らしいこと言うね。

 なんだか白夜の機嫌はすっかりよくなったみたいで一安心。

 不機嫌な表情をさせとくにはもったいない顔だからな。

 よかったよかった。


「やっぱり、白夜さんはお兄さんに頼りにされてるんですね……」

「白夜のユニークスキルはマジですごいからな。隣にいてくれるとほんとに安心するぞ」

「ユニークスキル……。やっぱりそれくらいのものを持ってないと、お兄さんの隣には居られませんよね……」


 あ、ヤバい。

 今度はうららの表情が曇ってる。

 俺があんまり白夜をほめたから劣等感感じちゃった?


「別にそう言うわけじゃないって。うららにも最初会った時なんかすごい助けられたし、出来ればいっしょに居てくれると助かるなー、なんて……」

「ほ、ほんとですか? だったら私、精いっぱいがんばらせてもらいます!」


 よし。

 うららの機嫌も元通りになったみたいだし、これで話しを進められるな。


「あっれー。そっちの二人には居て欲しいなんて言うのに、ボクにはなにも言ってくれないんだー? そっかそっか。要らない子だって言うならもう帰っちゃおっかなー」

「愛理、お前もかー、ってめちゃめちゃニヤニヤしてるんじゃねーか。絶対面白がってるだろ!」

「えー? 修司は乙女心が分かってないなー。他の子がほめられてるのをじっと聞かされるなんて、美少女天才錬金術師であるところのボクには耐えがたい苦痛なんだけどなー。ぶーぶー」

「だったらせめてもうちょっと面白がってるのを隠そうとしろよ。単に煽ってるのがバレバレだっての」

「ふふーん。だって面白いんだもん。それよりいいの? 修司の大好きなクシャナちゃんが寂しそうだよ?

「はッ――!?」


 慌てて俺が見ると、クシャナさんがほんとにちょっと寂しそうな無表情でこっちを見てた。


「クシャナさん! 大丈夫。俺たちは家族なんだからいつでもいっしょだよ!」


 俺はクシャナさんの子供バージョンな体を抱きしめて持ち上げた。


「でも今は魔力が回復してなくて体もこの状態ですから、役には立てそうにありません」

「大丈夫。クシャナさんが隣に居てくれるだけで俺は何倍も頑張れるから」


 そう言うと、クシャナさんはたしかに微笑んで俺を抱きしめ返して来た。

 よし。

 クシャナさんパワーを証明するためにも今日は頑張るか。


「さて、相変わらず仲がいいところ悪いが、そろそろ僕たちのことも紹介してくれるか?」

「ああ、ごめん。忘れてたよ」


 もう少しクシャナさんを抱きしめてたかったけど、仕方ない。

 獅子雄中佐の抗議で、俺はクシャナさんを地面に下して中佐の方を見た。

 そこに居るのは3人。

 手伝ってもらうために直接電話した獅子雄中佐と、お供としてついて来たらしい、見覚えある2人だった。

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