60話「御霊祭り」
「うわー、すっごい人。これじゃうっかりするとすぐに迷子になっちゃうな。こんなでっかい祭りでクエストなんてやって、ほんとに大丈夫なのか?」
俺は、集まった人の多さに思わずそう言った。
だって見渡す限りの人、人、人。
それもそのはず、今日はクエストの仲間とお祭りに来てる。
と言っても遊びに来たわけじゃない。
この祭り自体がクエストに関係あるらしい。
でもこんなんじゃ身動きとるのだって大変だ。
発案者のアルトレイアは何を考えてるのか。
それを聞きたくて俺は本人を見たんだけど、
「うん。大丈夫だ。問題ない」
反って来たのは、ちょっとだけくぐもった声。
何故かと言うと、何故かは知らないけど今のアルトレイアが夜店で買ったお面を被ってるからだった。
「って言うか、ほんとにこれ付けてないとダメなの?」
実はそう聞いた俺も、やっぱりお面を被らされてる。
って言うか、クエストの参加者全員が、だ。
「もちろんだ。私の顔はクラルヴァインによく知られているし、君たちも天蝉とやらに覚えられているのだろう? なら気づかれずにことを運ぶには変装は必須ではないか。それに君もよく似合っているから大丈夫だぞ」
いったいなにが大丈夫なんだか。
むしろお面のせいで普通より余計に目立っちゃってるだろ。
「だいたいお面のチョイスもちょっと悪いと思うんだよね。もっとこう、色々あったんじゃない?」
俺たちの被ってるお面は色違いのシリーズものだ。
ほら。
五人組の特撮ヒーロー的なやつ。
アルトレイアが赤でクシャナさんが青。
それからうららがピンク。
それは分かるよ。
でも俺が黄色でパンク兄ちゃんが緑ってどうなの?
似合ってるの?
「なんだ、もしかして修司は赤がよかったのか? ダメだぞ。赤はリーダーの色だからな。これは譲れないな」
「いや、そうじゃなくって。5人お揃いだと逆に目立ってない? ってこと」
そもそもこのお面、顔は隠せてるけど変装効果はびみょーっぽい。
実際、俺から見てもレッドさんのアルトレイア感は隠しきれてない。
エルフ耳だし、いつものカウガールファッションだし、背中には野太刀だし。
むしろお面を被った分だけキャラが強調されてないか?
「ふむ。つまり修司は我が戦隊を脱退したいのだな? これからはソロとして世間に飛び出していきたい、と」
「なんでそうなるんだよ。俺は問題を起こしたアイドルグループの一員か!?」
って言うか、戦隊は存続するつもりかよ。
アルトレイアはダメだ。
やっぱり話しが通じない。
そう思ってると、
「なんだったら俺と換わるか?」
俺たちのやり取りを黙って聞いてた十蔵のおっさんが話しに入ってきた。
その頭には戦隊モノのお面じゃなくて馬のマスクがズッポリ被さってる。
そう。
お面じゃなくて、ゴム製のマスクだ。
「これはこれで息苦しいが、換わりたいなら俺は別に構わんぞ?」
「いやいや、それはそれで問題あるし。おっさんもなに普通に被ってんの!?」
お面もどうかと思うけど、馬マスクは一段とシュールだ。
お祭りだからって、いい歳した大人が悪乗りし過ぎだろ。
「それは仕方なかったではないか。このシリーズの戦隊にはまだ6色目が登場していないし、夜店にも代わりになる戦隊ヒーローモノが売ってなかったのだからな」
「だったらメガトラマンでもマスク・ド・ライダーでもピンのヒーローでよかったじゃん。おっさんだけマスクとか……」
「それはあれだ。お茶目な私の出来心と言うか、どうせお揃いでないならもうなんでもいいか的な」
「どっちにしろ無茶苦茶だな!」
「まぁ、アルトレイア殿の変装が必要と言う意見はもっともだ。俺は別にこれでも問題ないと思っているさ。激しく動いてもマスクならズレにくいしな」
「そりゃそんだけパッツンパッツンになってればね。おっさん骨格いいからさ、マスクに顔の輪郭出ちゃってるんだよね。喋るたびに馬の首のとこがモゴモゴしてて気持ち悪いって」
そんなわけで、祭りにしたって悪目立ちしかねないのが今の俺たちだ。
こんなのでこの先大丈夫なのか?
「で、でもあえて目立つ方が敵の目をごまかせるかもしれませんし、とりあえずアルトレイアさんの作戦でがんばってみませんか?」
「うんうん。ピンクもこう言っていることだ。イエローもわがままばかり言っていないで、もう少しリーダーを立ててくれてもいいと思うのだ」
「あーもう、分かったから。とにかくこのままクエスト続行すればいいんだろ。でもせめてその呼び方はやめてくれよ」
まったく、なんでみんな普通に順応してるんだか。
なんかもうどうでもよくなってきた。
「で? これからどーすりゃいいだ? 俺たちゃまだ詳しい作戦っての聞いてねーよな?」
「そうそう。俺もそれが聞きたかったんだって」
グリーンなパンク兄ちゃんの言う通り、アルトレイアからは詳しいクエストの説明はまだ無かった。
こんな祭り会場で何をどうするつもりなんだ?
「うん。簡単に説明するとだな、この祭りにディートハルトが来る。そこでうまく近づいて盗聴器を仕掛けられれば、あの男の悪事を暴けるというわけなのだ」
「来るの? クラルヴァインが? でもなんで?」
「それはこの祭りがディートハルトが管轄する千代田区最大祭りだからだ。もちろんみんな知っているだろう。この祭りがどういうものかを」
「たしかに有名ですよね。この『みたま祭り』。私も今まで何回も来てます」
「ああ。俺も来てるぜ。つーかよ、誰でも知ってるレベルだろ。祭り自体は」
そっか。
やっぱりデカい祭りだけあって二人とも来たことあるのか。
「シュウジはどうですか? 異世界に渡る前に来たことがありますか?」
「ううん。無いよ。こんなおっきい祭り、連れてってくれたのはクシャナさんだけだよ」
もちろん異世界での話しだ。
他の色んな異世界にはその世界なりの変なお祭りが色々あった。
そしてそういうのに俺が行きたいって言えば、クシャナさんがダメって言ったことはなかった。
そりゃ楽しかったよ。
だって元々の親にはちゃんとした祭りなんて連れてってもらったことなかったから。
そんなわけで、俺はほかの世界の祭りは知ってても、この世界の祭りは全然知らない。
みたま祭り?
名前は知ってるけど、普通の祭りっぽい?
「んだよ。知らねーのかよ。てめーはどこの田舎モンだってんだよ。いいか、みたま祭りってのは――」
とかなんとか、なんだかんだ言いつつ説明してくれるパンク兄ちゃん。
もういっそのこと最初からデレちゃってもいいんだぞ?
「つーわけで、みたま祭りってのは、年に一度だけ死んだ人間に会える大規模降霊祭ってこった」
「え?」
なにそれ。
パンク兄ちゃん、最終的になんかすごいこと言った気がする。
「だからよ、出るんだよ。この祭りは。ほれ、そこにも……」
「うわっ。ほんとだ。よく見たら幽霊っぽいのがあちこち混ざってる!」
言われてビックリ。
注意深く周りを見てみたら祭り客に混ざって幽霊的な人たちが歩いてる。
見た目は和服を来た昔っぽい人から割と現代人っぽい人まで色々だ。
でもみんな青白い顔した明らかに普通じゃない方々だからすぐわかる。
それなのに今まで気づかなかったとか、祭りの雰囲気のせいか?
とにかく、俺たちはなんかすごい祭りに来ちゃったみたいだった。