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12話「代官山パニック」

 代官山の町は突然出現したヒュドラに今やパニック状態だ。

 我先に逃げ出した歩行者が人間の波みたいになって道路を飲み込んでいってる。そんな状況じゃ車だって身動き取れない。中の連中も車を乗り捨てちゃってるけど、その車の上だって人間が通っていく。もう高級車だろうとお構いなしでボンネットも屋根もベッコベコ。

 さすがに街中にヒュドラが出たらこうなるのはしかたない。なにせかなり強い部類だからな、あれ。

 ヒュドラって魔物の厄介なところは、異常なまでの生命力の高さだ。どんなに攻撃してもバカみたいな再生力で速攻で回復して向かってくる。首を切っても今度は二つの頭が生えてくるし、半端な攻撃は自分の首を絞めるだけだ。一撃で倒せないなら下手に手を出さない方がいい。

 そう思うと、立ち向かって言った二人の兵隊さんは攻撃力が低くて逆に助かってる。銃を撃っても目に見えるダメージは無い。ちゃんと当たってるのか疑いたくなるレベルだ。さすがに威力が低すぎる。


「シュウジ。今のうちにここを離れましょう」

「いや。ちょっと待って」


 小走りに近寄ってきたクシャナさんは俺の手を取ると騒ぎとは逆の方に引っ張って行こうとする。基本的に慎重派だから騒ぎは避けたいんだろう。

 でも俺はここを動きたくなかった。と言うよりは動いちゃいけないと思った。

 あの兵士二人は俺を逮捕しようとしたけど、それは仕事に忠実だっただけだ。別に高圧的だったわけでもないし、悪い人たちには見えなかった。

 それに二人は今、あんな豆鉄砲でヒュドラと戦ってる。確かにそれも仕事なのかもしれないけど、市民のための勇敢な行動だろ。ならせめて増援が来るまで見守っておくべきだ。あんまり目立ちたくないから積極的には手助けできないけど。あのおっさん家族が居るって言ってたからな。見殺しにはできない。

 だからいつでも援護できる距離まで近寄りたいんだけど、クシャナさんが手を放してくれない。俺が何をするつもりか理解して、それを良しとはしてくれてない。


「ダメですよ。ヒュドラは面倒な相手です。アレと戦うには中途半端なことはできませんし、嫌でも注目を浴びるでしょう。今の私たちはこの奇妙な世界について調べることの方が大切です。迂闊な行動をすれば益々厄介なことになるかもしれませんよ」


 クシャナさんの言うことはもっともだろう。俺たちは俺たちで問題を抱えてて、隠さなきゃいけない秘密もある。そんな時に他人の問題に首を突っ込んでる場合じゃないだろってのは当然の意見だ。

 でもそんなのは関係ないんだ。

 ここにはヤバい状況があって、みんなのために体を張ってるヤツがいる。仕事だろうが義務だろうが関係ない。誰かのために命がけで踏ん張ってる男の背中を見て何も思わないならそいつは男じゃないんだよ。少なくとも俺ならそんなカッコいい男を放ってはおかない。クシャナさんは女だから(雌だけど)それが分からないんだよ。


「と言うわけでやっぱり俺は行こうと思うんだ」

「何が、と言うわけで、なんですか? いえ、あなたの考えていることはだいたい分かります。長い付き合いですから」

「それって行ってもいいってこと?」

「何でそうなるんですか。知っての通り、私は化身のままでは全力を出せません。かと言って本来の姿を晒すわけにもいきません。ですから戦うとなればあなた一人でアレの相手をしないといけないんですよ?」

「うん。だからそのつもりだって。大丈夫。ヒュドラなら弱点的に言って俺とは相性いいんだし。ねぇ、いいでしょ。クシャナさん?」


 俺がそう言ってねだると、クシャナさんは無言で何かを考えつつ目線を周囲に走らせた。

 視線の先では一般の冒険者らしき連中が集まって戦闘態勢を整えつつある。どうやら正義感の強いやつがまとめ役になって臨時のパーティーを編成して立ち向かうつもりらしい。

 それを見たクシャナさんはため息を一つしてまた口を開いた。


「分かりました。そこまで言うならいいでしょう。ですが一つだけ条件があります」

「条件?」

「一人ではだめです。あの臨時パーティーに参加して一緒に戦いなさい。いつもは私と二人ですから、たまには集団での狩りの仕方を学ぶのも今後のためになるでしょう。目立たないように能力を抑えて彼らに合わせると約束できるなら行ってもかまいません」

「ほんと? やった。それじゃちょっと行ってくるね」

「あ。話しはまだ――」


 クシャナさんの許可を得た俺は、言われた通り冒険者たちの臨時パーティーへと紛れ込む。

 結構集まってるな。20人くらいか? 金にもならないのにこれだけ集まるなんて日本も捨てたもんじゃない。

 集まった冒険者連中は4人一組くらいで5つのパーティーを作ろうとしているらしい。たぶんヒュドラの首が5つだからだろうな。いい判断だと思う。 


「いいか、お前ら。決して無理はするんじゃないぞ」

「おい。俺たちのとこは近接系ばっかりだ。誰か一人くらい術者も来てくれ」

「一か所に集まらないようにして敵の注意を分散させるんだ。それからあんまりくっつきすぎるとお互いに邪魔になるから――」

「私は範囲魔法をメインに使いますので、みなさん合図したら距離を取ってください」

「時間だ。とにかく時間さえ稼げば代官所から援軍が来るに違いない」

「俺、この戦いが終わったらエロ本買に行くんだ……」


 おお。なんかいいな、こういうの。今からみんなで強敵に立ち向かう的な。

 一部不安になるようなこと言ってるヤツらも居るけど、ヒュドラ用の対処法さえ間違えなけりゃ大丈夫だろ。

 とにかく俺は5つの小パーティーの中の1つに入れてもらうことに成功した。

 さぁ、この世界で初めての戦いといこうか。

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