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56話「霧に紛れて」

「暑い……。思った以上に堪えるな、これ……」

「だったら少し温度を下げてよ。さすがにこれじゃまるでサウナだわ」


 今現在、俺と白夜はお互い揃って盛大に汗を流してる真っ最中だ。

 って言っても、なにも激しく動き回ってるから汗をかいてるわけじゃない。

 かく乱用の熱風が予定より温度が高くて、しかも霧のせいで湿度が高いからすっごく蒸し暑くなっちゃってるだけ。

 ぶっちゃけ立ってるだけで汗が噴き出てくるし、なんかもう頭もクラクラしてきた。


「俺だって温度下げれるなら下げたいけどさ、これが限界なんだよ。ファイヤーストームは元々攻撃用のスキルだからな。それをいくらマイオーシスで減衰したってこれが精いっぱいなんだよ」


 でも正直この暑さは予定外だ。

 言っちゃ悪いけど、作戦考えた緒方大尉がその辺の計算ミスったせいだと思う。

 だってその辺に関してはなんの説明も無かったもん。

 なのに緒方大尉本人は汗ひとつかかずに平気そうにしてる。

 片目を瞑って、ゴーレムとリンクさせた視界で天蝉を索敵中だ。

 暑さなんて全然堪えてないみたい。

 あれか? クールな性格だとこんな暑さの中でも心頭滅却できちゃうってやつなのか?


「二人とも、すまないが敵を発見するまでは耐えてほしい。温度を下げればそれだけかく乱効果が薄れる」

「分ってるよ。分かってるけど、まだ見つからないの?」


 俺たちが熱風かく乱大作戦を発動してからもう結構時間が経ってる。

 だけど緒方大尉は未だにゴーレムを操り続けてる。

 例の土から作ったやつね。

 そのゴーレムはさっきからずっと、俺の温風ファイヤーストームの外で囮として動き回ってる。

 こいつの操縦は念力的な方法らしくてコントローラーとかは無し。

 なんか素人には難しそうだし、口は挟めないな。

 それはまぁともかく、さっき立てた作戦だと、こいつに天蝉が反応してくれればそこからあっちの位置を探れるかもってことだった。

 でも肝心の天蝉はまだゴーレムの囮に引っかかってくれない。

 言ってみれば全然釣れない魚釣りみたいな状況だ。

 思った以上に食いつきが悪い。


「おかしい。敵がサーモを使っているなら、いい加減ゴーレムは見つけているはずだ。それなのにこうも反応が無いとは……」


 天蝉がゴーレムを見つけて、なおかつ俺たちの誰か一人だと思い込んでくれたら、当然、攻撃くらいしてくるはず。

 でも今のところそんな様子は無いし、つまり可能性としてはまだ見つけてないか、あるいは……。


「やっぱさ、釣り針デカいっていうか、疑似餌が見え見え過ぎたんじゃない? それか単にあっちが熱探知使ってなかったか」

「どうだろう。現にこうして魔物の襲撃が止まった以上それは無いと思う」


 そう言えばそうだ。

 温風ファイヤーストームを発動してから襲って来る魔物の数は確実に減った。

 ってことは、熱を使った妨害自体はちゃんと意味がある。

 つまりやっぱり天蝉は熱探知でこっちを見張ってたってこと自体は間違い無いんだろう。

 でもその割に肝心のゴーレムに反応しない。

 どうなってるんだよ、これ。


「どっちにしてもいやな感じよね。何も起こらないことがかえって不気味だわ」

「かもな。せっかくこっちが仕掛けてるんだから、この際なんでもいいからリアクション欲しいよな。完全スルーとか悲しくなっちゃう」

「そういう問題ではないと思うが、作戦に狂いが生じているかもしれないのは事実だ」


 参ったな。

 いい作戦だと思ったのに、案外上手くいかないもんだな。

 こうなったらもっと派手にアピールしてみるか?


「待って。近くになにか居るわ」


 ん?

 なにかって、敵か?


「あそこ。薄っすら影が見えるだけだけど、たぶんさっきのグリフォンみたいね」

「あ、ほんとだ。たしかにグリフォンっぽいな」


 俺は声のトーンを落として返事をした。

 白夜が見つけたのは、地上に降りて徘徊するグリフォンの影だった。

 距離的には10メートル……、20メートルくらいか?

 よくわからない。

 ぼんやりと見えるだけだけど、周囲を警戒するように歩き回ってるみたいだ。


「てっきりまだ空飛んでると思って頭の上も気にしてたのに、いつの間にか降りて来ちゃってるパターンだったか」

「上からではこちらを見つけられないと思ったんだろう。敵の司令官が自分たちを見失っている証拠だ」

「ってことはチャンスだよな。不意打ちであいつを仕留められれば儲けものじゃん?」

「たしかに仕留められれば大きな成果だろう。だがそう簡単にいくだろうか?」

「大丈夫だって。こっそり近づいてイベントホライゾンをぶちかませば一発じゃん。な、白夜?」

「まぁ、そのくらいなら出来ると思うけど、なんとなく不安だわ」


 そう言った白夜の顔は表情が少し固い。

 やりたくないからってわけじゃなくて、本当に心配してるように見える。


「なに弱気になってるんだよ。お前ならやれるって。自分を信じろ。ファイッ!」


 なんたってこれはチャンスだからな。

 天蝉はまだ見つからないけど、グリフォンを倒せば移動を再開出来る。

 色々予定が蛇行してるけど、結果的にはそれはそれで問題ない。


「分ったから静かにしてなさいよっ」


 俺の煽りが効いたらしく、白夜は渋々な感じでイベントホライゾンを出現させた。

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