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55話「天蝉が、見てる?」

「最近魔物と戦ってると、どこからか視線を感じる時があるんです。気になってハッて振り返るんですけど誰も居なくって……。これってもしかして噂の天蝉でしょうか?」

「あんた、急になに言ってんの?」


 出来るだけ神妙そうな空気をかもし出しながら言った俺。

 白夜から帰って来たのは、取りつくしまも無いピッチャー返しだった。


「いや、だからさ、笛の音で魔物を操ってるんだったら、天蝉は俺たちが見えるところに居るってことだろ、って」

「私が聞きたかったのは、なんで小芝居始めようとしたのかってことだったんだけど、まぁ、いいわ。天蝉が魔物に指示を出してるなら、探し出して倒せば魔物の攻撃が弱まるはずよね」

「そうそう。でも問題なのはあいつがどこからこっちを見てるのかってことだよ。近いとは思うんだけど、この霧のなかで見つけられるかな?」


 少なくともこっちからは天蝉の姿は見えない。

 せめてだいたいの方向だけでも分かればいいんだけど。


「少し待ってほしい。敵の司令塔を攻撃するのには賛成だが、やみくもに行動してもリスクが大きい。恐らく向こうは受動的(パッシブ)な方法でこちらを捕捉している。だからそれをまずどうにかしなければ」

「それってまずは敵のレーダーを叩け的な?」

「その通りだ。一方的に動きを監視されている状況では、向こうの姿を捉える前に距離を取られるだけだろう」

「それはそうだけど、緒方大尉にはなにか秘策でもあるの?」

「秘策と言うほどではないが、対抗策が無いわけではない」


 おお。

 頼もしいこと言ってくれるね。

 ほんと緒方大尉はなにかと器用で助かるよ。


「で、その対抗策っていうのは?」

「作戦は単純だ。向こうの索敵手段に合わせた偽装工作を行いサーチを無効化、そのうえで(デコイ)による陽動で敵を誘い出す」

「いかにもそれっぽいね。でも向こうの索敵手段なんてどうやって調べるつもり?」

「いや。それについてはもう見当がついている。霧のような視界不良状況下での索敵に有効な手段は主に3つ。振動、音感、熱源探知だ。そして数多くの魔物が行動している今のような状況だと、振動と音感では個体の特定が難しい。逆に高感度のサーモカメラなら熱源のシルエットが確認できるから魔物と人間の区別くらいはつけられる」

「そっか。そうなんだ……。やっぱ緒方大尉はそういうのにも詳しいんだね」

「陸軍人としての基礎知識だ。たとえば攻撃ヘリは人間狩りをする時にサーモを使う。対抗策を知らなければ簡単に見つけ出されてハチの巣にされるのはよくあることだ」


 怖いよ、現代戦。

 俺だってクシャナさんとずっと一緒に居たからめちゃくちゃ強い敵をいっぱい見てきた。

 でもそういう奴らってけっこう正々堂々としてる。

 っていうか、自慢の攻撃力を生かすために正面攻撃をしたがってたように思う。

 まぁ、たまたまかもしれないけど、どっちにしろ剣と魔法の世界の戦いはわりとスポーツマンシップを感じるところがあったのは事実だ。

 でもこっちの世界はやっぱり世知辛い。

 今の緒方大尉の話しなんか、できるだけ一方的に攻撃しちゃおうっていう殺った者勝ち感がハンパ無いもん。


「とにかく、緒方大尉の読み通り天蝉が熱探知でこっちを見つけてるなら、それを逆手に取って熱で妨害すればいいわけか」

「その通りだ。単純にかく乱するだけなら人間の体温と同等の熱を広範囲に発生させれば、それだけでサーモは役に立たなくなる。そのうえで、限られた方向からだけ見つけられるように囮を放てば、どの方向に囮を露出させた時に敵が反応したかで司令官の位置を割り出せる」

「囮ね、囮。それってやっぱり誰かが担当するんだよね?」

「その必要は無い。こういう時のために自分はドローンゴーレムのコアユニットを携行している。熱を持たせた土を素材に人型を作れば、十分役割を果たしてくれると思う」

「ゴーレムでドローン? それって囮として言うこと無しじゃん」


 ドローンって言うくらいだから、当然、緒方大尉が操縦するんだろう。

 コントロール出来るなら囮としてもばっちり。

 自立行動のゴーレムだと、敵との腹の探り合いみたいな細かい駆け引きには向かないと思うしね。

 つまり囮担当はは緒方大尉に任せっきりでも大丈夫そうだ。


「ってことは、俺が熱でかく乱するのを担当すればいいわけか」

「そうしてもらえると助かる。自分も火属性は使えるが、ゴーレムの温度を人肌程度に調節しなければいけない。それに加えて熱かく乱も同時にとなると手が回らない」

「おっけー。そこは任せてくれていいよ。ファイヤーストームをうまく調整すればかく乱用に使えると思うし。でも天蝉を見つけるまで魔物の撃退は白夜一人に頼ることになるけど、大丈夫か?」

「たぶん、ね。かく乱がうまくいけば向こうだって魔物に指示を出せなくなるんだし、一人でも対処出来ると思うわ」


 まぁ、元々そのために天蝉を先に叩こうっていうんだし、白夜のイベントホライゾンならしばらく任せても大丈夫か。


「それじゃ、さっそくそういう感じで天蝉狩りといきますか」


 作戦がまとまったところで、俺はウィンドを発動してかく乱の準備に取り掛かった。

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