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53話「魔物の狂乱」

 霧に包まれた母島に鳴り渡った天蝉の笛。

 それに反応して現れた魔獣の群れに、俺たちは次から次に襲われた。

 ゴブリン、ダイアウルフ、ハーピーetc,etc.

 倒しても倒してもキリが無い。

 まったく違う系統の魔物が連携して絶え間なく俺たちを狙って来る。

 天蝉たちに改造された魔物だろうけど、こいつらはデウスと違って割とコントロールされてるみたいだ。

 最初に出て来たオーガもそうだったし、これくらいの強さの魔物は上手く操れるのかも。

 だとしたらちょっとヤバいな。

 この母島に改造された魔物がどれくらい居るのか分かったもんじゃない。

 戦力差の分からない持久戦は出来るだけ避けないとだ。


「修司。まずいわよ。このままここに居たら数に飲み込まれるわ」

「分かってる。これはとりあえずなんとかしないとなッ!」


 白夜に返事をしながら、襲って来た魔物を俺は斬波で返り討ちにする。

 1匹1匹は大したことないんだよ。

 だけでいくらなんでも多勢に無勢が過ぎるってもんだ。

 しかも時間が経つにつれて、魔物の数は減るどころか逆に増えてる。

 この流れ、絶対そのうち完全に囲まれてどうしようも無くなるやつだ。

 しかも混乱に乗じて天蝉も姿を隠したし、これはちょっと面倒くさいぞ。


「諸神君。ここまで状況が悪化すると任務の遂行は難しい。態勢を立て直すため、一時後退を提言する」


 そう言いながら魔物に応戦する緒方大尉。

 右手の指で拳銃の形を作ってそこから魔力弾を撃ってる。

 地味にそこそこ威力があるみたいだけど、撃っても撃っても違う敵が襲ってくるから連射しっぱなしだ。


「マジで? あとちょっとでデウスを倒せるのに、やっぱ退(さが)らないとダメ?」

「仕方ないでしょ。私たちだけじゃこの数は捌けないわ。一度クシャーナと合流しないとほんとに死ぬわよ?」


 それはもう白夜の言う通りだろうな。

 俺や緒方大尉はスキルを使うごとに魔力を消費してる。

 当然そのうち魔力が底をつくのは目に見えてる話しだ。

 その点に関して言えば、白夜のイベントホライゾンだって違いは無い。

 こいつの場合、魔力の消費の仕方が俺たちとはちょっと違うだけ。

 俺たちはスキルを撃った時、イベントホライゾンは使用時間と消去したモノの大きさや量で魔力を取られる。

 だから最終的に魔力切れで戦えなくなるのは同じだ。


「うーん。どっちみちそれしかないか。ほんと、あとちょっとなんだけどな」


 デウスの倒すにしろ単純に身を守るにしろ、結局のところクシャナさん頼みだ。

 合流さえすればこっちのものだし、急いだ方がいいな。


「そう言うことなんだけど、クシャナさんあとどれくらい?」

『かなりそちらに近づいているはずですが、気配察知が上手く使えないせいで位置関係が正確に分かりません。それに私の方にも魔物が妨害に来ています。まとめて片付けたいのですが、あなたを巻き込みそうであまり派手にも出来ないのが面倒なところです』


 確かにそれは危ないな。

 クシャナさんの雷撃の光はこっちからも見えてるんだけど、肝心の距離感が曖昧だ。

 実際問題、クシャナさんの射程は巨大怪獣のデウスと撃ち合えるくらい長い。

 それどころか、本気になれば周囲一帯を焼き払うくらクシャナさんには簡単なことだ。

 でもそうなって来ると怖いのは味方への誤射。

 本当ならクシャナさんには気配察知があるからそういう心配はあんまり無い。

 でもこの母島は気配察知が効きにくいからな。

 だから今みたいなお互いの居場所がはっきりしない状況だと、広い攻撃範囲は逆に危険だ。

 つまり、雑魚をまとめて焼き払ってもらうのも合流してからじゃないと死ねる。


「とりあえず俺たちからも近づくよ。こっちからは大体の方向が分かるし、イベントホライゾンを盾にするから心配しないで」

『分かりました。私も極力効果範囲の狭いスキルを使うようにします』


 あとはとにかくコミュニケーションしだいだな。

 報連相の徹底で同士討ちを避けるしかない。


「ってことで、正面は白夜の仕事な。殿は俺がやるから、緒方大尉は左右担当で」

「了解。お互いのスキルを考えるとそのフォーメーションが最善だと思う」

「そうね。私はイベントホライゾンで道をこじ開けるから、他は二人に任せるわ」


 よし。

 俺のプランは問題無く2人に受け入れられた。

 あとは出来るだけ早くクシャナさんと合流けだ。

 って言うか、これ以上ここに止まっするだてるのも不利になるだけだ。

 俺たちは素早く移動を開始した。


「12時方向、敵オーガ、3」


 緒方大尉の警告は簡潔だ。

『に』とか『が』とか、接続詞無しの単語羅列で伝えてくる。

 現代の軍人ってほんと効率的。ってか機械的?

 戦闘マシーンだよ。戦闘マシーン。


 それはともかく、ちょっと驚いたのが大尉の索敵能力の地味な高さ。

 デウスに近づく時も上手く魔物を避けてたし、なんかコツでもあるのか?

 もちろん本調子のクシャナさんの気配察知ほどじゃないけど、今この状況だとありがたい。

 なんたっていち早く敵を見つけて教えてくれるんだから対処が楽。

 現に緒方大尉からの情報を受け取った白夜が速攻でオーガを潰しにかかった。


「いちいち立ち止まらずに突っ込むわよ。避けられても無視するからあとお願い」


 言葉の通り、白夜がイベントホライゾンを突進させる。

 対してオーガの取った対応は最悪。

 あろうことか、ありとあらゆるものを消去するイベントホライゾンに向かっての突進だ。

 なんて言うか、闘争本能が悪い方向に出ちゃってる。

 敵が来たらがむしゃらに突っ込むファイティングスピリットは、相手次第じゃ犬死もいいとこ。

 特にイベントホライゾンに対しては絶対やっちゃいけない行動だ。

 でもオーガだしな。

 いくら改造されてても、イベントホライゾンの特性を見抜くほど頭がよくなるわけじゃないらしい。

 だから結果は必然だった。

 3匹のオーガのうち、先頭の1匹はイベントホライゾンを受け止めようとしてそのまま消えた。

 それに驚いたのか、2匹は魔法で迎撃しようとしてまったく阻止出来ずに同じように飲み込まれた。

 3匹目はさすがに危険に気づいたらしい。

 横に逃げようとして、右腕一本を掠め取られて失ったけど回避そのものには成功。

 俺たちのサイドに回り込んだことでチャンスだと思ったのか、雄叫びを上げながら突っ込んで来た。

 でも俺たちのフォーメーションはそれを見越しての形だ。

 すかさず緒方大尉が魔力弾を撃ち込んで沈黙させた。


 うん。

 いい感じだ。

 即席の連携だけどちゃんと機能してる。

 え? 俺?

 俺はあれだよ。

 後ろに集まって来てる追ってを抑えるのが役割。

 殿だからね。

 そろそろ仕事するか。


 ところでどうして俺が一番後ろで殿なのか、それにはちゃんと理由がある。

 周りに敵がいっぱい居るこの状況で、俺たちが移動したら敵は当然追って来る。

 そうなると必然的に、後方に敵が集まるわけだ。

 そこで役に立つのが追手をまとめて倒せる範囲攻撃。

 白夜も緒方大尉もどっちかって言うと単体攻撃がメインだけど、俺にはちょうどいいスキルがある。

 ブレイズトルネードは全方位攻撃だからこう言う状況だと使いにくい。

 でもファイヤーストームは一方向に向かって炎の嵐を吹き付けるスキルだ。

 だから殿として追手に使うのにもってこい。

 それが俺が殿を買って出た理由だ。


 走りながら俺は後方を振り返って状況を確認した。

 集まってる集まってる。

 霧の向こうから穏やかじゃない感じの影がたくさん追って来てる。

 いい頃合いだ。


 俺はファイヤーストームをぶっ放すタイミングを計る。

 立ち止まるのはほんの一瞬でいい。

 追手全部を完全に仕留められなくても、クシャナさんと合流さえすれば残りはまとめて片付けてもらえる。

 だから今は追いつかれないように軽く牽制する程度で大丈夫。

 そう思って、俺は割と無警戒だった。

 自分の仕事に集中しようとして、後ろ以外に注意がおろそかになってた感は否めない。

 それを警告したのは緒方大尉の声だった。


「敵飛行タイプ、直上。緊急回避!」


 ファイヤーストームを準備して、さあやってやろうかってその瞬間の警告。

 俺はわけもわからず緒方大尉の回避行動を真似して横っ飛びに地面に転がった。

 そして空から落ちて来た巨体が、俺たちが居たはずの地面をえぐるように掠めていった。


「あれって、グリフォン!?」


 俺たちと同じように体を投げ出した白夜が、素早く体勢を立て直しながら言った。

 一瞬で霧の空に消えたその魔物は確かに間違いない。

 俺たちを襲ったのは、鳥の上半身にライオンの下半身を持つ狂暴な魔物。

 空でも陸でも手ごわいグリフォンだった。

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