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52話「霧中の甲冑」

 左天蝉。

 元薩鹿児島摩藩の侍で、十蔵のおっさんの親友兼仇敵なロボット剣士。

 なんだか知らないけど作り物の体をいっぱい持ってて、白ローブたちやクラルヴァインと都内の魔物事件を起こしてるっぽい悪党。

 現状、俺が天蝉について知ってるのはこれくらいだ。

 普段どこを拠点に活動してて、なんでそんなことしてるのかとかまったく謎。

 どうやらこの小笠原でも何かしてたっぽいけど、その事実を掴んだのは100パーセント偶然だった。

 そんな影が見え隠れするだけの未確認生物(UMA)っぽいこの男は、前振り無しのサプライズで再び俺の前に現れた。


「ほう。十蔵と一緒に居た小僧だな。やはりお前だったか」


 霧の中から現れた鎧武者は、俺を見るなりそう言った。

 その声と言い草はやっぱり間違いなく天蝉だ。


「まぁね。こんなとこで会うなんて奇遇だね」

「奇遇、か。俺はてっきり十蔵が嗅ぎつけてきたものと思うたが、あの男はどうした?」

「悪いけど居ないよ。おっさんも色々忙しいからさ、今日は俺だけでがまんしてよ」


 天蝉の質問に俺はあえてとぼけて答えた。

 向こうがどれだけ俺たちの情報を集めてるか分からない。

 とりあえず今は何も教えないに限る。


「そうか。十蔵はまだここに気づいていないか。ならば重畳。引き払いの算段も遅きに失すると言うことも無かったか」


 あれ?

 なんか心読まれてる?

 たしかに十蔵のおっさんはここのことなんて何も知らない。

 元々俺が小笠原に連れて来られたのは怪獣退治のためだった。

 それがまさか天蝉と絡んでるなんて思ってなかったから、当然来ること自体言ってない。

 だって言うのに、天蝉は俺の嘘を見透かしたような反応をした。

 ロボットだから嘘発見器みたいな機能あるとかじゃないよな?


「そんな変な顔で驚かなくてもよいだろう。彼奴とは古い馴染みだ。俺の居場所を見つけたのなら、乗り込んで来ないはずがないことくらい考えずとも分かる」


 あ、そういう理由?

 なんかもっと技術とかテクニックとか絡んでくるのかと思った。

 あれだね。

 まともじゃない連中と付き合い増えると変な風に疑り深くなっちゃうよね。

 その点、天蝉は人間らしい。

 旧知の仲だから勝手知ったるあいつの心。

 十蔵のおっさんも剣の腕を磨き合った仲って言ってたしね。

 うわ。

 知り合いの友達とか敵に回すと超やり難い。

 まぁ、殴って来たら殴り返すけど。


「然るに小僧、お前は何ゆえここまで来た? 十蔵を抜きにして、お前が我らに仇なすに如何な理由がある?」


 ん?

 こいつ、俺のこと白ローブから聞いてないのか?

 俺とあいつらの関係、ってそれもびみょーだけど、少なくとも俺は連中に襲われてる。

 十蔵のおっさん抜きで考えても、手出しして来たのはそっちじゃん?


「……」


 もしかして、天蝉と白ローブってあんまり仲よくないとか?

 誰が敵で誰と戦うべきかなんて、仲間なら確認し合ってて当然だし。

 それが出来てないなら、あんまり密には連携してないのかもしれない。

 所謂、連中も一枚岩じゃない、ってやつだ。


「どうした。答えられんような理由か?」

「いや。まぁ、ただの仕事だよ。ここにはただ単に連れて来られただけだし、この間のも受けたクエストの途中で十蔵のおさんとかち合っただけ。仇なすとか、別に特別に敵意持ってるわけじゃないんだけど?」

「ほう。左様か。島の沿岸に軍艦が泊まっておるところを見ると、お前の雇い主は軍部であろうな。その様な者共に嗅ぎつけられたのもそれはそれで厄介。どちらにせよ、ここは引き払う潮時であったか」


 うーん。

 俺のことなんか大して興味ありませんみたいなこの反応。

 やっぱり白ローブからは何も聞いてないくさい。

 でもそれならそれで俺にとっては好都合なんだろうな。


「しかしそれにしても、まさかデウスをこうまで追い詰める人間が居るとは思わなかったぞ」

「うちのクシャナさんが本気になれば、デウスくらいどうってことないっての。上には上が居るって、あんたらにとっても勉強になったんじゃない?」

「この間も姿を見かけた女人か。一目見てただ者ではないと思っていたが、まさかこれほどとはな。おかげで念のために残しておいた体を使う羽目になってしまったわ」


 残しておいた体?

 そう言えば、天蝉はどこから出て来たんだ?

 あのスライムが化けてた木刀少年は父島に居た侍はもう居ないって言ってた。

 それが天蝉の話しだったとして、単純に俺たちをだましてただけのウソだったって可能性もある。

 でも今目の前に居る天蝉本人の口ぶりからすると、それもちょっと違う気がする。

 だって、天蝉はただでさえ自由に体を変えられるんだ。

 だから自分の意識を別の体に飛ばす方法があるのは間違いない。

 そうなると、その有効距離みたいなのはどれくらいなんだって話しだよな。

 こんな辺ぴな離れ島にずっと隠れてたわけじゃないだろうし、体だけ隠しておいて、俺たちが来たのを知って意識を飛ばして来たのかもしれない。

 仮にそうだとして、俺の予想だと少なくとも父島とこの母島くらいはいける気がする。

 もしかしたら本州からってこともあり得なくは無いかもしれない。

 うーん。

 ロボット侍天蝉の謎は深まるばかりだ。


「さて、たとえ十蔵が絡んでいなくとも、今、デウスを倒されるわけにもいかん。ここは一つ割って入らせてもらうぞ」


 まぁ、そうだろうな。

 こんなタイミングで出て来たくらいだ。

 それ以上の目的は無いだろう。

 でも、さすがにちょっと俺たちをなめ過ぎだろう。


「割って入るのは勝手だけど、こっちの方が人数多いけどいいの? もうちょっとしたらクシャナさんもこっちに来るよ?」


 そうなんだよ、実際。

 こっちには今の時点で俺と白夜と緒方大尉の3人が居る。

 3体1でも天蝉には圧倒的に不利だし、クシャナさんが戻って来たらそれこそ絶望的だ。

 いくら天蝉が体を捨てられるからって、負けちゃったらデウスを守るのも逃がすのも出来なくなる。

 それっくらいのことに頭が回らないほどバカじゃなそうなんだけどな……。


「委細承知。目には目。歯には歯。数には数。お前たちこそたった3、4人で敵地に乗り込むなど迂闊の極みと思い知るがいい」


 そう言って天蝉は後ろ腰から一本の棒を引き抜いた。

 剣、じゃないな。

 ていうかそもそも武器ですらない。

 あれはあれだ。

 なんて言うか、日本の横笛。

 イメージ的には牛若丸とか吹いてそうなやつ。

 それを取り出した天蝉は、おもむろにそれに口を付けると器用に音を鳴らし始めた。

 ……。

 そっか、今日の体はちゃんと口から息吐けるのな。

 しかも結構演奏上手いっぽい。

 日本の伝統音楽とか詳しくないけど、いかにもそれらしいリズムだから間違っては無いんだと思う。

 でも霧の中で日本の掠れた竹笛の音を聞くとちょっとホラーっぽいよ。

 実際、鎧武者が目の前に居るから不気味だし。

 まぁ、演奏してる本人だけど。

 

「って言うか、笛なんて吹いてどうするつもりなんだよ。言っとくけど、俺は即興でセッションなんて出来ないからな?」


 そう言うと、ちょうど笛を吹き終わったらしい天蝉が鼻で笑った。

 いろいろ器用な奴だな、こいつ。


「言っただろう。ここはお前らにとっては敵地。今のは災厄を呼び寄せる魔笛よ」


 それがどういう意味か、問い返す前に俺はその意味を知った。

 答えは遠くから聞こえる魔獣の咆哮。

 それも四方八方から無数の数の鳴き声が繰り返し上がる。

 いやいや、どう考えてもまずいだろ。

 絶対こっちに押し寄せてくるパターンだよ。


「少し数が多いがせいぜい食い殺されんように足掻くといい。お前らが死ぬと、俺がまた十蔵に恨まれるからな」


 こいつ、いけしゃあしゃあと。

 俺は天蝉をにらみ返して返事をした。

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