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51話「大いなるいかさま」

『メタファーの機能がどうして変身じゃなくて死んだ相手との入れ替わりなのか、それをきちんと理解するためには、事実構造上の『死』って言う概念を把握しないといけないんだ』


 俺の疑問に答えるのに、愛理はそう言って話しを切り出した。


『物質界における『死』、つまりボクたちが普段言ってる意味での医学的な『死』は、一言でいうと生命活動の停止だよね。その定義は時代とか文化によって違うけど、心肺停止状態にしろ脳死状態にしろ、意識的な活動が出来なくなった時点で死んだって考えるでしょ。対して事実構造上の『死』って言うのは、自発的な自己変化が不可能になることを言うんだ。つまり自分の意思で自分の状態を変えられなくなること、それが事実構造上の『死』だよ』

「自分の状態?」

『そ。状態って言うのは色々な意味で考えてくれていいよ。例えばどんな体勢を取ってるかとか、今どんなこと考えてるかとか、事実的に言って自分がどういう状態にあるのか、それを自分の意思で変えられなくなった時が事実構造上の『死』って考えてほしいんだ』

「それって気絶したらもう死んでるってことか?」

『それは違うよ。たとえ気絶してても人間には無意識って言う無自覚な意思があるからね。たとえ無意識であっても自発的なことには変わりないから、それだと事実構造的にもまだ死んでない状態だよ』

「ちょっと待ってくれ。無自覚な意思ってなんだよ。自分の意思を自覚出来ないなんておかしいだろ」


 俺は思わず愛理の話しの腰を折った。

 だって俺は俺の考えてことはちゃんと理解してる。

 自覚の無い行動とかなら分かるけど、自覚の無い意思ってのはピンと来ない。

 だからちょっと確認せずにはいられなかった。


『うーん。心理学の講義は長くなるからあんまりしたくないんだけど、ちょっとだけ簡単にしておこうか』


 愛理はちょっと嫌そうに言った。

 なんだよ。

 俺はそんなに面倒なこと聞いたのか?


『えっとね、人間の心には『意識』と『無意識』があるんだ。ちょっと言い換えると、同じ心の中でも自覚出来る部分と出来ない部分があるってこと。自覚できる部分が『意識』で、自覚出来ない部分が『無意識』ね。それで自覚出来る『意識』が自分の意思だってことは説明は要らないとして、自覚出来ない『無意識』にも判断能力や決断能力があるんだ。心臓や肺を動かしたり、無意識的に何かをやったり、人間の心のどこかには自覚出来ないだけで、何をどうするか決断したり判断したりする心理機能があるってこと。そういうわけだから、たとえ気絶してても心臓が動いたりしてるなら、無意識って言う意思が働いてることに変わりはないんだよ』


 う、うん。

 分かったような分からないような……。


『ともかく、心臓が鼓動したり肺が収縮してるなら状態の変化を繰り返してるってことだから、事実構造的に言っても生きてるってこと。逆に言えば無意識も含めて意思が働かなくなって、心理的にも肉体的にも状態変化出来なくなったらそれが『死』だよ』

「それで、その話しがどうメタファーの機能の説明につながってくるんだ?」

『それはね、事実構造的な世界感で相手を死なせるってことは、その相手の人生って言いう事実構造の連続を、修司の人生って言う事実構造の連続がせき止めて終焉させるってことになるのが重要なんだよ』

「悪い。全然分からないぞ、それ」

『例えて言うと、生きてるってことを線を引き続けるって考えるといいかもね。お互い線を引いて生きてる者同士がぶつかって、ラインがクロスしちゃったとするでしょ。その時、片方が片方を死なせちゃうとする。そうしたら死んだ方のラインはそこで途絶えて、生き残った方のラインだけが伸び続けることになるよね。そうなると、ラインの形としては一方に伸び続ける『Y』の字になるでしょ。それを事実構造的に解釈すると、死んだ方の存在性が生き残った方の過去に接合されたまま固定されたってことになるんだ。メタファーの機能はその事実構造的な現象を利用して、死んだ方と生き残った方の存在を入れ替えるんだよ。』


 ここからだな。

 ここからがメタファーのとんでもない機能の秘密だ。


『メタファーは両者のどっちが死んでどっちが生き残ったかっていう事実を改変して入れ替えることで、死んだはずの方が生き残ったことにしてしまうんだ。言ってみれば生命性の乗っ取りだね。そういうわけだから、メタファーの機能は変身じゃなくて、保存されていた『死んだはずの存在の再表現』なわけ。そうなると本来は『Y』字型のどっちが途絶えてどっちが生き残ったかなんて見分けがつかなくなるから、再表現された存在性であっても、それはもはや存在として『真』なんだ。だから偽物でも仮初でもなくって、本当に本物が生き返った、むしろ最初から生き残ってたのと同じなんだよ』


 いよいよややこしい話しだな。

 でもひとつ分かったことがある。

 それは俺的にむちゃくちゃ大事な事実だ。


「つまり、メタファーを使うと、再表現した相手の代わりに俺が死ぬってことだよな?」


 だってそうだろ。

 メタファーは俺が倒した相手と入れ替わる機能だ。

 しかもその仕組みはお互いの生死を入れ替えるってぶっ飛んだ方法。

 だから理屈を言えば、俺が殺した相手が生き返るなら、代わりに俺が死んだことにならなきゃいけない。

 俺が愛理の説明を正しく理解出来てるなら、つまりそういうことになるはずだ。


『だからそうだってば。ボクは最初からそう言ってるじゃん』

「言ってねーよ。つーかそんな恐ろしいこと軽々しく言うなよ!」


 やっぱこいつ鬼畜だわ。

 そんな自殺じみた機能を追加するなんて、愛理は今まで俺が思ってた以上にマッドサイエンティスト気質だ。


『とにかくメタファーはそういう仕組みだから、再表現された相手は自我も含めて元のままだからね。下手に悪意のある相手を復活させると悪さするから気を付けてね』

「ダメじゃねーか。最悪だよ、メタファーは欠陥だらけだよ!」

『そんなことないよ。敵も味方もなく単純に暴れるだけの魔物を復活させれば、少なくとも修司の味方だけが攻撃されるわけじゃないからね。その点デウスならちょうどいいんじゃない? 見た感じ全然制御されてないみたいだし、あんなに強いんだから、いざと言う時は役に立つかもだよ』

「そりゃそうかもだけどさ、そんなのと入れ替わって死ぬ俺ってなんだよって話しだよ」

『大丈夫だって。メタファーは最初に指定した時間が経過すると、自動的にまた生死を入れ替えるから、修司が死んだままになることはないよ。あくまで一時的な再表現ね』

「じゃなきゃ絶対使わねーよ」


 って言うか、自動で元に戻るにしても怖いっての。


『それから、メタファーが保存しておける存在性は1つだけだからね。過去に倒した相手全部じゃなくて、倒した時に保存を選択した相手一人だけが再表現出来るから、一番よさそうな相手を保存するように常に心掛けてね』

「へいへい。もうどうにでもなれって言うんだよ」


 まぁ、こうなったらとことんやってみるしかないな。

 とりあえずは目の前のデウスを保存してみてどうなるか、だ。

 それには俺があいつを仕留めないといけないんだけど、危ないから現状クシャナさん待ちだ。

 でも結構喋ってたから、そろそろ来てもいいと思うんだけど、まだかな?


 俺がそう思った時、ちょうど霧の向こうに人影が見えた。

 全然ぼやけてはっきりしないけど、誰か1人こっちに近づいてくる。


「クシャナさん?」


 俺は疑いなく声をかけた。

 でも返事は無くって、その人影は無言のままさらに近づいて来た。


 違う。

 クシャナさんじゃない。

 その人影が近づくにつれてシルエットがはっきりしてくる。

 それはクシャナさんとは似ても似つかないがっしりとした体格。

 と言うか、どう見てもフル装備の鎧武者だった。


「お前、天蝉!?」


 霧の中から現れたその相手に、俺は思わず心当たりのある名前を叫んだ。

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