46話「踏みしだく音」
怪獣が出た。
これってぶっちゃけ願ってもないのに叶ったりな状況だよ。
俺は改めて気を取り直すことで、なんとかそいつを冷静に観察する。
霧の中から出てきたその怪獣はいかにもなヴィジュアルだ。
黒っぽいゴツゴツした体に長いしっぽ。
細かい牙が並んだ口と、意外と知性的な目。
全体的にどこか恐竜っぽいけど、大きさは段違いでビッグだ。
これはあれだよ。
映画会社のメインキャラクターにでもなっちゃいそうな風格があるね。
少なくとも、俺の頭の中ではキング・オブ・モンスターなBGMが鳴りっぱなしよ?
「ちょっと、ほんとにこんなのと戦うつもりなの?」
怪獣を前に白夜が唖然としてる。
うん。
やっぱりそのリアクションが正しいよな。
普通、怪獣の敵は別の怪獣か巨大ロボットだろ。
なんで俺たち生身で対峙しちゃってるわけ?
絵的におかしいだろ、絶対。
「獅子雄中佐。ターゲットと接触。これより作戦を開始します」
あ、こら。緒方大尉。
なに勝手に宣言しちゃってるんだよ。
その作戦って俺が不条理に頑張らないといけないやつだろ。
『了解した。まさか本当に出てくるとは思わなかったが、ラッキーだったな』
「ちょ。ラッキーってなんだよ。ソナーかなんかでここに居るって見当つけてたんじゃないの?」
『そうなんだが、巨大生物を追いかけるテレビ番組じゃ結局出てこないのが定番だからな。実はわりと気楽に構えてたんだ』
俺も俺も!
それさっき俺も思った!
なんだよ。
中佐もあんまり期待してなかったんじゃん。
『それより注意してくれ。そいつはこの世界じゃ規格外に強いぞ』
だろうね。
見た目からもう強そうだし。
それに気になるのはスライムがこの怪獣に詳しそうだったこと。
いや、あの調子じゃそれどころじゃないな。
「おい。この怪獣もオーガみたいに改造されてるのか?」
俺はスライムに疑問を投げた。
いつの間にか俺たちから距離とってるし、抜け目ないなこいつ。
「ああ、そうさ。こいつの名前はデウス。白い連中が改造した中でも最強のモンスターさ!」
やっぱりか。
だから物理耐性とかむちゃくちゃなスペックなのか。
なんてやつを生み出してるんだよ、あいつら。
もうちょっと常識的な個性にしとけっての。
「言っとく、け、ど、謝ったって許してなんかやらないからね。さっき受けた苦痛と屈辱は、こいつを使ってたっぷりと100倍返しさせてもらうよ」
「そりゃ怖いな。でも気を付けろよ。こっちにはクシャナさんが居るから、最後にまた泣きをみるかもしれないぞ?」
「言ってろ。泣きを見るのはどっちか、すぐに思い知らせてやる!」
そう言ってスライムは怪獣を見上げた。
いや。
顔無いからいまいち分かんないけど、なんとなくそんな感じ。
「よし、行け。デウス。こいつらを皆殺しにしろ!」
あ。
最初からそんな命令しちゃう?
泣きをみさせるとかそういうレベルじゃもうなくない?
ウル○ラマンだって必殺技はあとにとっておくのにさ。
これじゃこっちはたまったもんじゃないよ。
そう思ったのは俺だけかもしれないけど、デウスがジロっとスライムを見た。
その目が怖い。
どことなく友好的じゃない。
それでいて何か意思を感じさせる。
そしてデウスはスライムの方に足を踏み出した。
俺たちじゃなく、あくまでスライムの方に。
「え? 違う。こっちじゃない。あいつらを殺せって言ってるのが分からにのか!?」
俺たちを指さして必死に叫ぶスライム。
でもその声はデウスには届かない。
デウスは一歩一歩ゆっくりと前に出る。
「なんでだよ。なんで言うことを聞かないんだ。ちくしょう!」
スライムは慌てて逃げ出した。
人間の形を捨てて、霧の中に消えて行く。
あいつのスピードは速い。
単純な追いかけっこなら逃げきれないこともなさそうだけど……。
スライムが逃げたのを見て、デウスが吠えた。
世界を揺るがすような重低音。
そして口から魔力波動を放った。
無属性の単純なエネルギー放出。
それが霧を裂いてスライムの逃げた方に撃ち込まれた。
轟音。
魔力波動がビーム砲みたく地面を吹き飛ばす。
爆発してるわけじゃないけど、凄まじい力が叩きつけられた結果同じようなことになってる。
「クシャナさん!?」
俺は思わず名前を呼んだ。
なにがどうなったか、この霧の中じゃ自分の目じゃ分からなかったからだ。
「スライムの気配が消えました。どうやら逃げきれなかったようですね」
マジかよ。
魔物をコントロールすとか言って、全然出来てないじゃん?
あんな化け物作っといてそれは無しだろ。
ともかくスライムを消滅させたデウスが俺たちに向き直る。
見逃してはくれないか。
どうやらこのまま戦うしかないらしい。