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44話「スーパースライム」

 スライム。

 それはRPGなんかでおなじみのザコモンスターだ。

 ゲームだと水滴みたいな半透明な体にでっかい目が付いてるってのが定番のイメージだよな。

 で、基本的に最弱の部類。

 だけどリアルだとそうとは限らない。

 種類によっては、めちゃくちゃ柔らかい体のせいで物理攻撃がほとんど効かなかったりする。

 その場合、魔法、とくに火属性魔法が弱点だからそこを攻めていくのがセオリーだ。

 もちろんクシャナさんもそれはよく知ってる。

 だからスライム少年が敵対を表明した瞬間、容赦無い火力の魔法をぶっ放した。

 撃ったのは普通のファイヤーボール。

 色が蒼いうえに雷も纏ってるけど、クシャナさんにとっては普通のファイヤーボール。

 それが一直線にスライム少年に向かった。

 撃った瞬間当たったと思ったよ。

 弾速は速いし、普通のスライムは動きは遅いし。

 でもスライム少年は一味違った。

 一瞬何が起こったのか分からないスピードでファイヤーボールを避けた。

 しかも人間の形を捨てて、スライム状態になってだ。

 まるで早送りしたみたいに放物線を描いて距離を取ったスライム少年、って言うか完全にスライム。

 いや、ちょっとびっくり。

 こんなに速いスライム初めて見た。


「だぁから言ったでしょ。僕を捕まえたきゃもっと本気になりなよ」


 それはどうだろう。

 個人的にはあんまり賛成出来ないな。

 色々大変だからクシャナさんをあんまり本気にさせないで欲しい。

 それでもクシャナさんはスライムを捕獲するために積極的な行動に出た。

 足を止めたまま狙い撃ちにしても当たらないって判断したんだろう。

 クシャナさんは強く踏み込んで一気に間合いを詰める。

 さらにそこからファイヤーボールを連続で撃って牽制。

 プレッシャーを与えてスライムを追い詰めていく。


「まだまだぁ。こんな程度じゃ掠ってもあげられないねぇ!」


 連続火球を交わしながら、スライムが叫ぶ。

 なるほど。

 どんな形でもちゃんと喋れるんだ。


 俺がむしろそっちに関心してると、クシャナさんが戦法を変えた。

 今まではただのファイヤーボールだったけど、今度は空中で爆発するエクスプロージョンだ。

 これは撃った火球が狙ったところで爆発して、割と広い範囲に炎をまき散らす。

 おかげでスライムは炎に当たらないように回避するのが難しくなった。

 クシャナさんは直撃を狙わずに、わざと狙いを外してスライムの周りに爆炎の檻を作る。

 ここまでくると、生き残ってたオーガたちも巻き添えを食らって全滅したっぽい。

 それだけ激しい連続攻撃でスライムがついに行き場を失った。

 苦手属性の火に囲まれて完全に袋のネズミだ。


「そろそろ降参しますか?」


 クシャナさんはとどめの一撃を準備したままそう言った。

 次の一撃は絶対当たる。

 負けを認めないとスライムが焼きスライムになるのは間違いない。

 それなのに、


「嫌だね。楽しいのはまだここからじゃないか」


 その返事を聞いた瞬間、クシャナさんは火球を放った。

 まさに遊びに付き合ってる暇は無いって感じの無慈悲っぷり。

 直撃コースの火球が目の前まで迫って、その時スライムの姿が消えた。


「え?」


 俺は自分で見た光景が理解出来なくて思わず声が出た。

 今度のは目にも止まらない速さで逃げたとかじゃない。

 飛ぶでも走るでもなく、スライムの姿がいきなり居なくなった。

 なんだ?

 何をした?

 あいつはいったいどこに行ったんだ?

 俺はとっさに360度周囲を見まわした。

 クシャナさんの攻撃で木は焼け落ちてるし、オーガの死体も転がってる。

 だけどそれだけだ。

 スライムは見えない。

 どこにも居ない。

 影も形も無い。

 そんなバカなことってあるか?


 空振りした火球がむなしく炎をまき散らしてるあいだ、クシャナさんはそれをじっと凝視してた。

 そんなに悔しかったのかな?

 まさかね。

 クシャナさんに限ってこんなことでイラついたりしない。

 きっと何か考えてる。

 だってほら、クシャナさんは片足を持ち上げて、一気に踏み鳴らした。


 次の瞬間、地中でダイナマイトでも爆発したみたいに地面が爆ぜた。

 クシャナさんの土魔法だ。

 砂状になった土が高く舞い上がって、すぐさま地面に向かって落ち始める。

 その中に、不自然な土の塊があった。

 砂状にならずにアメーバみたいな歪な形の土塊。

 大きさ的に言えば、ちょうど人間と同じくらいか。

 それが地面に向かって落下する。

 そこだけ砂状にならなかった不自然な塊に、クシャナさんが新しく火属性魔法を構える。

 でもそれを撃つ前に、土塊がひとりでに弾けた。

 中から出てきたのはスライム。

 やっぱり隠れてたか。

 たぶん、急に消えたのは地面の中に逃げ込んだんだな。

 いくら決まった形が無いからって器用な奴。

 でもそんな手品みたいな作戦もクシャナさんには通じなかったな。


 姿を見せたスライムがそれ以上逃げる前に、クシャナさんの火属性魔法が命中した。

 今度のはファイヤーボールでもエクスプロージョンでもない小さな焔。

 一見すると、ランプの明かりくらいしかないショボい魔法だ。

 でも実はこれが割と鬼畜。


 怨燃火臨煉獄殺。


 これを撃ち込まれると体の中から全身を焼かれていく。

 子供にはちょっと刺激の強い系の火属性魔法だ。

 むかしクシャナさんに喧嘩を売った巨人がこれを食らって超後悔しながら真っ黒になってたっけ。

 なまじ体がすっごいデカかったから時間かかったしね。

 直撃でも即死じゃないってのが逆につらいよ。


 そんな恐怖の虐殺魔法を食らったかわいそうなスライムの絶叫が響き渡った。

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