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41話「魔物の楽園」

「シュウジ。そこのところが滑りますから気を付けてください」

「うん。分かった、あッ。……痛てて」


 クシャナさんの忠告むなしく、足を滑らせて思いっきりこけた俺はカエルみたいにひっくり返った、と思う。

 我ながらかっこわる。

 白夜はあきれ顔だし、クシャナさんはどこか悲しそうな無表情だ。

 そんな2人に助け起こされて俺は立ち上がった。

 俺たちの中で一番先頭を歩く緒方大尉が、肩越しにこっちの様子を確認。

 なんでもないことが分かると、また前を向いて歩き出す。


『諸神君。大丈夫か? 今のところは危険は少なそうだが、油断しないでくれよ?』

『それはどうだか。修司は結構間が抜けてるからね。ちゃんと見張っとかないとまた何かやらかすと思うな、ボク』

「ほっとけ。今のはちょっとハードラックと踊りたくなっただけだっての」


 耳につけた小型レシーバーから聞こえてくる2人の声。

 俺はそれに反論しつつ緒方大尉について行く。


 俺たちが今居るのは、村のある父島から船で2時間くらい離れたとこにある母島だ。

 怪獣を探して野生系モンスターランドなこの島に上陸した我らが諸神探検隊。

 今回、参加したのは、俺とクシャナさんと白夜と緒方大尉。

 愛理と獅子雄中佐は戦闘要員として不安があるから船で待機だ。

 この母島もやっぱり霧が濃いうえに色々と条件が悪い。

 もしものことがあったらいけないから少数精鋭での探検だ。


『クシャーナ。どうだ、やっぱり気配察知は難しそうか?』

「ええ。やはりこの島は特殊です。生き物の気配が漠然としていて上手く捉えられません。今の私ではかなり近づくまで察知出来ないでしょう』


 この島の何が厄介って、クシャナさんの気配察知が効かないってことだ。

 いや、そういう特性を持った土地ってのはここ以外にもたまにあることはある。

 でも今回はクシャナさん自身が本調子じゃないから余計に察知が効かなくなってる。

 霧で視界が悪いうえにクシャナさんレーダーも無し。

 島には強めの魔物がウジャウジャ居て、もしかしたら怪獣まで潜んでるかもしれない。

 どう考えても玄人向きの仕事だよね。

 あ。ちなみに俺はFランクの冒険者ね。

 依頼主、鬼畜じゃない?

 なんてね。

 そうは言ってもクシャナさんがある程度力を取り戻したのは事実だ。

 あとは俺たちがうまくサポートすれば大抵のことはなんとかなるだろ。


「それはともかく、オガタ。進むべき方向はこちらでいいのですか?」


 俺たちは基本何も言わずに緒方大尉について行ってる。

 クシャナさんの気配察知が効かなくても、そもそもこの島は未開の地ってわけでもない。

 ちょっと古いけど地形データがあるから、それを元に軍の人たちが怪獣捜索作戦を立ててある。

 今はそれに従って、怪獣が隠れてそうなところを調べて回ってる最中だ。


「問題ない。コンパス、GPSともに正常に作動中だ」


 そりゃよかった。

 ちょっとデカいって言っても島だから遭難はしないだろう。

 でも無意味にうろうろするのはさすがに疲れるからね。

 まったく人の手が入ってない山とか森って歩きにくいし、出来るだけ効率よく捜索して回りたい。


「魔物です」


 警告と同時に魔法攻撃を放ったクシャナさん。

 地面から土属性の棘を大量に発生させる。


「――!」


 ひとつの茂みを下から滅多刺しにすると、一匹の魔物が断末魔を上げた。

 さすがクシャナさん。

 伊達に弱肉強食の魔物界を何百年も生き抜いて来ただけのことはある。

 気配察知が上手く使えなくても野生の勘は完璧だ。


 そんな感じで、俺たちは島の億に進んだ。

 若干獣道っぽいところを進んで行くと、少し開けた場所に出た。

 って言っても木があんまり生えてない平坦な場所ってだけだ。


「待ってくれ。魔術罠の痕跡がある。ここで誰かが狩りをしたようだ」

「え? うそ、何もなくない?」

「かすかな痕跡だ。一目では分からない」


 いや、ぜんっぜん見つけられないわ。

 やっぱ軍人はトラップ系強いね。


「こんなところで狩りなんて、例の侍かしら?」

「ここに来ていたという天蝉ですか。今のところそう考えるのが妥当でしょう。ですが武者修行に来ておきながら罠をかける意図が分かりません」


 単に腕を磨きたいなら罠なんて面倒なことする必要は無いだろうしね。

 やっぱりちょっと何かわけありなのかもしれない。

 もうちょっと調べたらなにか分かるかも。

 そう思って罠の痕跡を確認しようと思った時だった。


「近くに何か居ます」


 突然クシャナさんが身構えた。

 一方の方向に視線を定めて警戒態勢。

 それでも今回はクシャナさんの方から手は出さない。

 じっと相手の出方を覗って動かない。

 なんでだ?


 その疑問はすぐに解けた。

 俺たちの視線の先で姿を現した一匹の魔物。

 そいつはちょっと普通の魔物じゃなかった。

 種族としてはオーガの類い。

 でも言葉が通じるタイプじゃなくて、デカい毛むくじゃらの鬼って感じ。

 ただ俺たちの前に現れたこいつの場合、普通じゃあり得ない特徴があった。


「あの角。魔結晶エーテルっぽくない?」


 そう。

 そいつの頭から生えてる2本の角。

 それがちょうど黒曜石に似た魔結晶エーテルの見た目にそっくりだ。

 少なくとも、こんな角が生えてるオーガなんて今まで見たことない。

 俺たちはこの母島で、まともじゃない何かを見つけたのかもしれない。

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