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40話「影を追いかけて」

「ここだよ。その侍が住んでたのは」


 俺と白夜は木刀少年に連れられて、村はずれの小さな小屋にやってきた。

 そこは岩場の影って感じの寂しい場所だった。

 お世辞にも人が住むのには快適じゃない環境だ。

 普通に生活しようと思ったら絶対選ばない。


「その侍はここで何してたとか分からないのか?」

「さぁ。村長には剣の修行って言ってたみたいだけど」

「こんなとこで?」


 元々ここは練習相手も居ないような島だぞ。

 そのうえさらに村からも離れたこんな場所で修行もなにも無いだろ。


「この島じゃ素振りくらいしかしてなかったけど、時々母島で魔物と戦ってたみたいだよ」

「母島って、強い魔物が居るっていう島だっけ?」

「そう。人の手が入って無いからたくさん居るんだ。侍はそこで修行するために来たんだってさ」


 なるほどな。

 本土にはたくさん冒険者が居るし、強い魔物と好きな時に好きなだけ戦おうと思っても難しい。

 逆に冒険者の来ないこんな孤島みたいなところなら、強い野良の魔物もウジャウジャだ。

 侍とか生粋の剣客とかが魔物相手に武者修行ってのはイメージ的にも納得。

 もっとも、その侍がほんとに天蝉だった場合は胡散臭いことこのうえないけど。


「ねぇ。ところでなんでそんな侍なんかのこと気にするのよ。私たちは怪獣退治にこの島に来たんじゃないの?」

「そうなんだけどな。別件のクエストで追いかけてる奴でさ。無視出来ないんだよ」

「それってもしかして悪い奴?」

「まぁ、それなりに。敵ってことは間違い無いけど、どこまで悪いのかはちょっと、な。手がかりが少ないから色々苦労してるんだよ」


 少なくとも俺が知ってるのは、天蝉がクラルヴァインの手下で、都内の魔物事件を裏で糸引いてるらしいってことだけだ。

 十蔵のおっさんはもっと知ってそうだったけど、聞きそびれちゃったからな。

 実際、天蝉がどういう奴なのかって聞かれると答えるのが難しい。


「そう。大変そうね。なんならそのクエスト、手伝ってあげてもいいわよ?」

「お前が?」


 俺は白夜の顔を見た。

 今のところあのクエストに参加してるのは、俺とクシャナさんとうららとパンク兄ちゃんの4人だけだ。

 十蔵のおっさんは相変わらず単独行動だし、白夜が手伝ってくれるならそりゃ助かるけど。


「なによ。イヤなの?」

「イヤって言うか、依頼主の都合もあるじゃん?」


 あのクエストって、ギルドも通してない秘密のクエストだ。

 なんたって渋谷区代官のアルトレイアが、千代田区代官のクラルヴァインを捕まえようっていうんだ。

 色々なこと考えると、参加者は信用できる人間じゃないといけない。

 実際、俺たちだって守秘義務の誓約書にサインさせられたくらいだ。

 だから白夜に手伝ってもらうならアルトレイアの了解が要るんだよな。

 俺が勝手に決められることじゃない。


「分かったわ。帰ったらその依頼主に紹介してよね」

「それはいいけど、なんでそんなにやる気なんだよ」

「べ、別になんでもないわよ。獅子雄中佐からの仕事は協力してるんだし、普段からも一緒に行動してた方が何かと都合がいいでしょ」


 そうか?

 うーん。

 そう言われるとそうかもしれないって気もするな。


「まぁ、いいや。その話は帰ったらちゃんとするから、今は目の前のことに集中しようぜ」

「いい? 絶対よ? うっかりでも忘れたら許さないんだから」

「分かった。分かったって」


 やけにこだわるな。

 俺ってそんなに信用無いか?


 とにかく俺たちは侍の住んでた小屋を調べるために近づいてみた。

 全体的にちょっとボロいけどまだ全然使えそうな感じ。

 窓から中を見てみる。

 ほとんどワンルームに近いような簡単な造りだ。

 ガランとしてて確かに誰も住んでないのが分かる。


「中には何にも無さそうだな」

「無いよ。侍は出てっちゃったんだから、荷物なんて残ってるわけないだろ」

「そうは言ってもなんか無いか? こんな村から離れたとこに住んでたのにはなんか訳がありそうだけど」

「それだったら下の船着き場だと思う」

「こんなところに船着き場があるのか?」


 小屋がある岩場は島の中じゃ少し高めの場所にある。

 当然海面からは離れてるわけだし、港だって無いはずだ。


「下まで降りられるところがあるんだよ。細くて危ない道だから荷物も運べないけど、降りちゃえばけっこう広いんだぜ」


 そうか。

 侍は母島で魔物と戦って修行してたって話だったな。

 だから船を泊められる場所が必要だったって理屈か。


「その船着き場はみんなよく使うのか?」

「全然。言っただろ。荷物も運べないんだから、わざわざこんなとこに船を着ける必要ないんだよ」

「なるほどな。それでその下に降りる道はどこだ?」

「なんだよ。そっちも見るのかよ。案内してやるからついて来い」


 そりゃ当然確認しないわけにはいかないだろ。

 船が要るって言っても、普通なら村の港を使えばいい。

 それをわざわざこんな人目のつかない離れた場所に陣取ったんだ。

 気にならないわけがない。


 ってことで話しの通りめちゃくちゃ狭くて険しい道、って言うか岩場の坂を頑張って降りた。

 そこは確かにそこそこ広い入り江みたいになってた。

 いや、むしろ断崖絶壁のくぼみか?

 とにかく、船はつけれるけど港としては全然役に立たない場所ってことは間違いない。


「言っただろ。こんな場所だから誰も近づかないんだよ」


 うーん。

 もうちょっとなんかあると思ったんだけどな。

 さすがに小屋も引き払った後だし、残ってるものなんて無いか……。


「ねぇ。あれって魔物、かしら?」


 俺が陸地で手がかりを探してると、白夜が波打ち際の一点を指さした。

 何かと思って見ると、海中に何かの骨が沈んでた。

 それも一部とかじゃなくて全身の骨だ。

 しかも死んでからあんまり日が経ってないのか、きれいな形で残ってる。


「だと思うけど。侍は島に倒した魔物を持って帰って来たりしてたのか?」

「全然。素材の一つだって村には売りに来たこと無いよ。だから村のみんなは、あの侍本当は魔物なんか倒せてないんじゃないか、って言ってたんだ」


 でも魔物の骨がここに沈んでるってことは、少なくとも一匹はここまで運んできたんだよな。

 どういうことだ。

 人目を避ける以外に利点の無いこんな場所に魔物を運んで来て何をどうする意味があったんだ?

 俺はその理由を考えてみたけどダメだった。

 結局それ以上何も手がかりは見つからずに、俺たちは上に引き返した。

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