38話「クシャナと腕輪」
小笠原諸島で唯一人が住んでる父島に上陸した俺たち。
村長のゼム爺さんの許可をもらって、島民の人たちへ聞き取り調査が始まった。
担当するのは主に軍の人たちだ。
今回、獅子雄中佐は俺たち以外にも結構な人数の部下の人たちを連れて来た。
しかも中佐の所属してる陸軍だけじゃなくて、海軍の方からもいっぱい船とか人が作戦に参加してる。
つまり、陸海軍合同の怪獣討伐大作戦ってことになる。
さすが相手が相手だけに気合が入ってるよね。
でも海軍の人たちも居るのに、陸軍の獅子雄中佐が仕切っちゃってもいいの、って聞いたら、
「僕は特務だからいいんだ。今回はあくまでうちの作戦を支援してもらってるかたちだからな」
「作戦って?」
「もちろん諸神君に怪獣を倒してもらう作戦だ」
「やな作戦だね、それ」
「そう言わないでくれ。物理耐性を持った相手に通常兵器しかもたない僕らじゃ分が悪い。ちょうどクシャーナも復活したことだし、なんとかよろしく頼む」
そんなに頼りにされると責任感じちゃうよ。
陸軍だけじゃなくて、海軍の人たちにまで手伝ってもらっといてダメでしたじゃ恰好がつかないし。
なんか思ってた以上に話が大きくなっちゃったな。
いや、怪獣が相手なんだからこれくらい当たり前か……。
「ああ、そうだ。そのことについてはっきり言っておくけど、クシャナちゃんは完全に元通りになったわけじゃないからそのつもりでね」
俺たちが話してると、そう言って愛理が割り込んで来た。
「そうなのか? 見た目は完全に戻ってるように見えるがダメなのか?」
「ダメってわけじゃないけど、いろいろ制約があるのは事実だよ」
「制約か。具体的にはどんな感じなんだ?」
「まず化身を解いて元の姿に戻ることは出来ないでしょ。それから世界転移能力も、使えなくはないけど前みたいに一瞬で世界の境界に裂け目を作れないよ。だから戦いで緊急回避とか奇襲とかには使えないね。あと大事なのが、短時間にあんまり魔力を使うと解呪の腕輪自体が効果を発揮できなくなるから、そこが一番問題かな」
愛理がクシャナさんの腕にはまった件の腕輪を指さす。
印が刻まれたその腕輪は一見するとただの装飾品だ。
でもこれのおかげでクシャナさんはある程度の力を取り戻せてる。
「クシャーナが魔力を使うと、どうして腕輪が効果を失うんだ?」
「それは腕輪に組み込んである術式がクシャナちゃんの魔力で発動してるからだよ」
「クシャーナの魔力で?」
「クシャナちゃんに掛けられてる封印ってすごく厄介でね、実際のところ、本当の意味で解呪する目途は立ってないんだよ。でもそれじゃ困るから、とりあえず力ずくで封印の効果だけでも弱めることにしたんだ」
「力ずくって、なんだか穏やかじゃないな」
獅子雄中佐の戸惑った表情も分からなくない。
普通、解呪って言ったら、解除の条件を見つけてきれいさっぱり術式を崩壊させてやるもんだろ。
そうでもしないと逃れられるもんじゃないからね。封印は。
でも愛理は現状で解除条件を見つけられてない。
って言うか、封印を掛けたブラックアイズ本人が自分でも解呪出来ないとか言ってたし。
正攻法じゃクシャナさんを元に戻すのは難しいってことだろ。
「ボクがやったのは、そうだね、例えば一つの万力がクシャナちゃんを締め付けてるとするでしょ、そこにジャッキを挟み込んで押し返してるみたいな感じだよ。でもあんまり無理やりすると封印破りのペナルティが怖いからね。ちょうど拮抗するくらいの力で抵抗させてるんだ。これでとりあえず身動きが取れなくなっちゃうことは防げてる。言い換えれば、腕輪がスケープゴートになって、クシャナちゃんの代わりに封印の効果をある程度受け持ってると思ってくれてもいいよ。だから体も元にもどったし、スキルも何割かまで使えるようになったんだ。根本的治療じゃなくて、ただの対症療法だね」
まぁ、そうは言っても、クシャナさんが元の姿に戻ってくれて俺はうれしいよ。
少なくとも、この喜びだけであと10年くらいクシャナさんに抱き着いてられる。
「とまぁ、そう言うわけで、封印に対抗し続けるために、腕輪には魔力供給が欠かせないんだ。それもかなりの量だから、正直クシャナちゃんくらいの魔力量が無いと常に使い続けるのは難しいくらいにね。だから戦闘であんまり魔力と消費すると、腕輪に必要な魔力量を下回って術式の効果が低下しちゃうの。そうなるとまた封印状態に戻っちゃうから、怪獣と戦うにしてもあんまりクシャナちゃんばっかりに無理させないであげてね」
もちろん俺は全力でクシャナさんの負担を減らすつもりだけどな。
「分かった。それならその点についても含めて先に打ち合わせをしておこう。今のクシャーナに何をどこまで任せていいのか把握しておかないと作戦の立てようがない」
なるほど。
役割分担するにしても、それぞれのキャパシティーってあるからね。
それを事前に確認しとくのは大切だ。
「それじゃクシャーナ、それに愛理も来てくれ。緒方大尉は本部で待機して島民から何か情報が入ったら教えてほしい」
「了解。緒方大尉、待機任務に入ります」
相変わらず必要最小限に返事して去っていく緒方大尉。
クールだ。
「獅子雄中佐。俺たちは?」
順番にするべきことを割り振られて残ったのは俺と白夜。
なんか残り物感がある気がするから逆に聞いてみた。
「君たちは適当にしておいてくれ。何かあったら呼ぶから、それまで自由行動だ」
「え、マジで? 話し合いとか参加しなくていいの?」
「今はまだ作戦を立てる前にお互い情報共有をしようっていうだけだ。愛理とクシャーナが居ればだいじょうぶだ」
「そっか。そういうことなら分かったよ」
なんか俺たちが役立たずみたいに見える気もするけどいいか。
実際、肝心なことは愛理が話しておいてくれるだろうし。
離れて行く3人を見送って、俺と白夜は視線を合わせた。
「ねぇ。自由時間って、どうするの?」
「適当にブラブラしてようぜ。せっかくこんな変なとこに来たんだしさ」
「変なとこって……。でもそうね。せっかくだから少し見て回りましょうか」
意見が一致したところで村の中を見学することにした俺たち。
この時、怪獣がどこに潜んでいるのか知るよしも無かった。
いや、普通にマジで含みなく。
もしかしたら居ない可能性の方がデカいんじゃない?