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10話「竜鱗と店長と身分証」

「竜鱗とは迂闊なことをしましたね、シュウジ」


 女店員の姿が消えると、俺のすぐ後ろに居たクシャナさんが背中に張り付くようにしてボソっと言った。

 あれ、クシャナさんのためだったのに何か不評?


「いや、ほら、今までいろんな世界で竜がらみで色々面倒あったじゃん? だからこの世界だと竜はどんな立ち位置なのか調べといた方がいいと思ったんだけど……」


 いや、ほんと色々あったからな。例えば何か知らないけどやたらと竜族総出でクシャナさんを狙ってきたり、倒してみたらその世界の神様だったとか。竜ってのはやっぱり他とは別格だから気になる相手なんだよ。

 ましてここは日本だ。この国にとって竜ってのがどういう立ち位置なのかはやっぱり知っておきたかったんだけど、これはちょっとミスったか?


「それにしてもいきなり本物の竜鱗を持ち出すことはなかったでしょう? ここは代官の膝元らしいから目立たないようにと話し合ったばかりじゃないですか」


 う。それを言われると弱いな。言われてみりゃさっきの女店員も戸惑ってたし、少なくとも普通に目にするようなもんじゃないのは明らかだ。


「とは言え出してしまったものは仕方ありません。できるだけ話しが大きくならないように済ませましょう」

「分かった」


 店員が戻ってくる気配を察知して、俺はクシャナさんに短く答えた。

 大丈夫。今度は上手くやる。


「お待たせしました。店長のガンドワルドです」


 そう言いながら店の奥から出てきたのは身長3メートルほどのサイクロプスだった。

 マジかよ。中古屋のチェーン店の店長がこれかよ。やっぱ最近の日本スゲーよ。

 店長のガンドワルドさんは典型的なサイクロプスだ。青い肌にでっかい一つ目と額の一本角。どこの世界でもサイクロプスって言えばだいたいこんな感じだ。ただガンドワルドさんはGパンにTシャツ姿の上から店のエプロンをかけてる。もちろんこんな恰好のサイクロプスは初めて見る。


「それで、何でも今日は竜の鱗をお持ちだとか?」


 カウンターの越しに対面したガンドワルドさんからすごいプレッシャーを感じる。それが竜鱗を持ち込んだせいなのか、単に身長差からくるものなのかよく分からない。だってこんな状況初めてだもの。


「あ、はい。本物かどうかは分からないんですけど」


 俺がそう答えると、ガンドワルドさんはカウンターの上に置いたままになっていた竜鱗を拾い上げた。そしてその巨大な一つ目でまじまじと竜鱗を観察する。

 さぁ、ガンドワルドさんの目利きはどうなのよ?


「まぁ、真偽のほどは誰にも分からんでしょうな。何せ鱗のある竜はまだ誰も倒したことがないはずですから。もし本物だったら国の研究所だかに持って行くべきもんですよ」


 な、なるほど。この世界にも竜は居るけど無敵状態か。まぁ、よくあることだ。

 でもちょっと気になるな。鱗のある竜って言い方だと鱗のない竜もいるってことだよな。あんまり思い当たらないぞ、そんなの。俺の知らない種類なのか?

 あと竜鱗が本物なら研究所に持って行くレベルってのも何か変じゃね? 竜を狩るのは無理でも死骸漁りとかはしないのか? 

 よく分からないから俺はとりあえず話しを合わせてガンドワルドさんに話しを続けさせる。


「やっぱり偽物ですよね。竜なんて倒せるはずないし。ちなみに日本だと竜ってどこに居ましたっけ?」

「鱗のある上位竜が居んのは国内じゃ鬼ヶ島くらいですよ。幸いにしてそっからほとんど出てこないんであたしらも平和に暮らせてるわけでしょ。中国だのヨーロッパだのの大陸じゃ竜の縄張りが少しづつ動くってんで大変だそうですよ」


 鬼ヶ島!? 何その伝説的に物騒な島。そこに竜が住んでんの? 鬼じゃなくて? それ竜ヶ島って呼んだ方がよくね?

 つーかこの世界について知れば知るほど疑問符が増えてるような気もするぞ?


「そういう訳でこいつはウチじゃ買取できませんな。あとお売りになんのはポーション3つとハーピーの羽1枚でしたかね。他にもあればあたしが見ますが?」

「いえ。それだけで大丈夫です」


 クシャナさんにも釘を刺されてるし撤収撤収。

 考えてもみれば、わざわざこんなとこで情報収集しなくても図書館とかで調べれば済む話しだったな。それかネットカフェで情報漁るって手もあった。アイテム換金さえ済ませれば行動の選択枝も広がるんだし、何も情報収集まで同時にやる必要はなかった。やっぱり最初にもう少し考えてから動くべきだったのかな。

 まぁ、いいや。ポーションがちょっとした金になったし、こっから上手いことやればいいさ。


「んじゃあこの用紙に必要事項の記入をお願いします。あと身分証と、未成年の方は保護者さんの同意書が要ります」


 ガンドワルドさんのその一言で俺はつい固まっちゃった。


「……身分証?」

「ええ。あと同意書も。なければお連れの方が売るって恰好でも構いませんよ。身分証も運転免許でいいですし」


 うん。身分証ね。ねーよ、そんなの。この世界じゃ俺は10歳で行方不明になってるからな。当時の俺が身分証なんて持ってるはずがなかったし、そもそも俺の、諸神修司の戸籍が生きてるかも怪しい。ましてやこの世界の出身じゃないクシャナさんが運転免許なんか持ってるはずない。

 まいった。つまんないオチがついたな、これは。いや、古本売るのだって身分証は居るんだし、物の値段を考えれば当たり前だったか。

 ここまで来てこれはちょっとバカらしいけど仕方がない。こういう戸籍とか身分確認がしっかりしてる世界はやりづらいんだよ。金策に関しては何か手を考えないと。


「あー、やっぱり買取はいいです。また今度にします」

「そうですか? 何だったらそこの網膜スキャンの機械で住民登録ネットワークで身分証明してもらっても大丈夫ですけどね?」


 地味にハイテクだな。まさかサイクロプスから網膜スキャンを要求される日が来るとは思わなかった。


「いや、いいです。すいません、邪魔しました」


 俺はカウンターに出したアイテムを全部取り返すと、クシャナさんを連れて速攻で出口に向かった。

 くそダセーな、俺。クシャナさんにいいとこ見せれなかったし、ガンドワルドさんにも変なやつだと思われたはずだ。

 悔しかったから去り際にちょこっと振り返るとちょうど電話の受話器を持ち上げるところだったガンドワルドさんと目が合った。

 なんかスゲー負けた感。

 俺は足早にショップを後にした。

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