35話「十蔵に聞け」
「ここまで来れば大丈夫でしょう」
地下室の炎上した倉庫から脱出した俺たち。
とりあえず騒ぎに巻き込まれないところまで逃げてきた。
遠目にもけっこう煙が見えるし、消防車のサイレンも聞こえる。
あれはもう立派に火事だよ。
ってことは世間的には倉庫の所有者のクラルヴァインが問題を起こしたことになる。
俺たちのこと怒るだろうな。
いや、右腕の天蝉と戦った時点で敵認定は確実か。
おっさんは元々知り合いみたいだし、正体がバレたのは間違いない。
俺たちもそのうち割り出されると思っておいた方がいいかも。
「面倒に巻き込んで悪かったな。結局天蝉にも逃げられたし、色々としくじった」
「いや、あいつの中身を捕まえるのは難しそうだったし、それは別にいいよ。お土産も貰ってきたし、後で調べてみるから」
俺は地下室から持ってきたアイテムを持ち上げて見せた。
「ずいぶんヘンテコなものばかりだが、調べる当てはあるのか?」
「知り合いの錬金術師に見せてみるよ。盗んだもの変なとこに持って行くと代官に見つかる可能性もあるしね」
ほんと、こういうのって気を付けないと意外とバレるんだよ。
俺も昔とある異世界でヤバかったし。
ましてその辺の店で売ろうとしたら絶対にダメだぞ?
「そうか。何か分かったら俺にも教えてくれ」
おっさんはそう言いつつ俺が投げて渡した天蝉の刀を用水路に放り捨てた。
もったいないけど鞘も無いし、これ以上持ち歩いてたらお巡りさんに捕まりそうだから仕方ない。
「ところでおっさんはこれからどうするんだよ。やっぱりアルトレイアのクエストには参加してくれないの?」
「ああ。すまないが俺の目的はあくまで天蝉だ。クラルヴァインには直接用事は無いからな」
「でも天蝉はクラルヴァインの手下じゃん? だったら別に協力してもいいと思うんだけど?」
「それは微妙なところだな。最終目的が違う人間がチームを組んでも、いざと言う時に意見が割れることは珍しくない。そうなったらお互い足を引っ張り合って共倒れにならんとも限らん」
ああ、なるほどね。
それならよく分かるよ。
漫画とかでもあるだろ。ライバルとの共闘展開。
特に劇場映画版。
強敵が現れてライバルと一時的に協力しあって倒すんだけど、そのあとやっぱり殴り合うの。
『さぁ、喧嘩の続きをしようぜ』って。
あれ、なんか違う?
「まぁ、いいや。おっさんがそう言うなら俺は別に構わないし。それよりあの天蝉ってのは何の? 体を乗り換えてたりしてたけど、人工知能とかじゃないよね?」
「ああ。あんなのでも元は人間。それもれっきとした侍だ」
「侍?」
「そうだ。あいつも俺も西側の生まれでな。鹿児島薩摩藩は島津の殿様に仕えていた」
「それってつまり、同郷ってこと?」
「それ以上だな。俺たちはガキの自分から一緒に剣の腕を競い合ったし、番方と言って、常備兵力の武官として共に任務に当たった相棒みたいな仲だった」
相棒か。
子供のころから一緒ってことは幼馴染、もしかして親友ってやつ?
「じゃあそれがどうして殺しあわなきゃいけないんだよ。久しぶりに会ったなら、『なんか老けたね』『そう言うお前はちょっと錆びたね』じゃダメなの?」
「それで済む話しなら楽だったんだがな。元々俺が郷を出て冒険者なんてやってるのも、あいつを見つけ出して斬ることが目的だったからな。今さら交わす言葉なんて無いのさ」
「それは、なんか大変そうだね。そんなにしてまで追いかけないといけないとか、天蝉ってそんなに悪い奴?」
と、そこまで聞いた時、クシャナさんの手が俺の頭に乗った。
「シュウジ。あまり込み入ったことは聞いてはいけませんよ」
クシャナさんに髪の毛をクシャクシャにされて俺は黙った。
今の俺は猫だ。
クシャナさんに撫でられる、一匹の猫だ。
にゃーん。
「すみません、ジューゾー。あなたたちの身の上を掘り返すつもりはありませんが、この子は好奇心が旺盛なものですから」
「いや、構わんさ。こっちの事情に突き合わせてしまったところもあるからな」
「そうですか。とは言え、ジューゾー。私たちがアルトレイアのクエストを進めて行けば、必然的に天蝉と再び遭遇する可能性はかなりあります。その時あなたが居ないからといって、彼を見逃すことは出来ないでしょう。場合によってはその場で命を殺めるかもしれません」
実際、こればっかりは分からないよね。
俺たちとしてもあいつから情報を引き出したいとは思うけど、危なかったらそうも言ってらんない。
状況によっては生け捕りはあきらめないとかもだし。
まぁただ、あいつの本体どこよ、って話はあるけど。
「あいつを殺す、か?」
「ええ。殺します。もし彼がうちの子に手を出してくるようなら、私は一切容赦はしません」
「……分かった。それならそれで構わん。どのみち俺もそのつもりだ。せめて苦しまないようにひと思いにやってしまってくれ」
「それは約束しましょう。一瞬で跡形も無く消し去ってあげます」
わぁ、リアルにそうなりそうで怖いよね。
いくら今のクシャナさんが本調子じゃないって言っても、ロボットの1体や2体火力的にはどうってことないはず。
出来れば俺が頑張って捕まえたいとこだね。
とにかく今日のクエストは失敗気味だけどちょっとした収穫もありだった。
俺たちは連絡先を交換してからひとまず解散した。