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34話「脱出」

 火炎ブレス。

 その攻撃方法は異世界なら珍しくない。

 ザコからドラゴンまでいろんなモンスターが使ってくる。

 威力もまちまちだし、ブレスって言うよりファイヤーボールを撃ってくる奴もいる。

 そんな中、火炎ブレスを吐く鎧武者の天蝉は割とレア。

 人型はあんまり吐かないよね。

 普通はみんな手とか杖とかかざして出すもん。

 それがいきなり口からだから十蔵のおっさんもちょっとびっくり。

 でもそこはさすがベテラン。

 踏み込みにカウンターで火を吐かれたのに、タイムラグ無しで反応した。

 ブレスが来た時、おっさんはすでに天蝉に向かって飛び込んでた。

 だからその状態で回避するとか無理。

 両足が地面から離れちゃってたからね。

 そこでおっさんは振りかぶってた小太刀を投擲した。

 しかもブレスを吐いてくる口に向かってだ。

 これがまた狙いぴったりで命中。

 口の中に小太刀が突き刺さったことで、ブレスがとまった。

 まぁ、ちょっと残り火が出てるけど気にしない。

 て言うか、魔法じゃなくてガスかなんかで吐いてたっぽい。

 さすがロボ。

 さすがついで言うと、小太刀を口に突っ込まれても天蝉は倒れたりしなかった。

 こっちもこっちでタイムラグ無しで反応。

 一度は小太刀に捌かれた刀の刃。

 それを返して今度は逆袈裟に切り上げた。


「くッ――」


 天蝉の反撃を、素手になったおっさんが防御する。

 でもその方法がけっこう強引。

 おっさんは切り上げて来る天蝉の刀じゃなくて、刀を持ってる腕を蹴った。

 普通、剣を持ってる相手に足技なんて自殺行為だ。

 でも今回は間合いがかなり詰まってたし、回避も防御もろくにできない状況だった。

 そうなるとおっさんの取った選択枝は悪くない。

 って言うか、よくアドリブったよね、そんなの。

 ただロボットの天蝉の力が思ったより強かったらしい。

 おっさんは蹴った反動で空中に弾き飛ばされて、少し離れた位置に着地した。


「腕を上げたな、十蔵。今のをこうも容易く切り抜けるとは思わなかった」


 喋ってる。

 天蝉さん、口に小太刀刺さったまま喋ってる。

 ロボットだし、スピーカーは他のとこにあるんだな。


「そう言うお前はいよいよ大道芸じみてきたな。以前にも増して人間離れしてるぞ」


 おっさんがそう言ってる前で、天蝉は口から小太刀を引き抜いて床に捨てた。

 音を立てて転がったあの得物を回収するのは難しそうだ。

 拾ってる間にやられかねないしな。


「いい体だろう。こいつは試作品だがなかなかいいスペックでな。実戦試験の相手がお前なら申し分無い」


 天蝉はそう言って、これ見よがしに剣を振って見せる。

 踏み込みもしない、体幹も使わない完全に腕の振りだけの素振り。

 それでも並みの剣士よりはるかに速い剣閃なんだから機械さまさまだな。


 天蝉はまた刀を担ぐように構えておっさんににじり寄る。

 おっさんは天蝉が近づいた分後ろに下がる。

 なんたって今のおっさんには武器が無い。

 そんな状態でもう一度やりあうのは辛いだろう。

 さすがに素手じゃ厳しい。


 ふいに、俺は天蝉の1体目の体のことを思い出した。

 見てみると、一体目の体には刀が残されたままだ。

 俺はそれを鞘ごと掴みとって大きく振りかぶった。


「おっさん!」


 俺の声を聞いたおっさんが左に走った。

 こっちの意図は伝わったみたいだ。

 俺はおっさんの進行方向に刀を放り投げる。


 放物線を描いた刀の落下に間に合ったおっさんはそれを掴み取る。

 即行で鞘から抜いて天蝉に向き直る。

 追いかけて来てた天蝉との間合いは無い。

 お互いに放った一撃がぶつかりあって火花が散る。

 二撃、三撃。

 両者とも一撃必殺スタイルの豪快な打ち合い。

 鉄を打つ音が地下室に響き渡る。

 何度か攻防が続いたあと、二人は同時に後ろに跳んだ。

 同時に肩に担ぐ同じ構えを取って、突進。渾身の一撃が交差した。

 訪れた静寂。

 二人は刀を振り下ろした視線のまま視線を交わす。


「見事だ。十蔵。だが所詮まだ試作の体。今日は試運転に過ぎん。次に会った時はこうはいかないと思っておけ」


 それだけ言って、天蝉の体が崩れた。

 左肩から右の脇腹にかけて両断された体が泣き別れる。

 二つになった体が床に転がって、透明な液体が広がる。

 なんだろうな、ちょっと臭いがある。


「ははは。十蔵、早く逃げろよ。もたもたすると黒焦げだぞ」

「なに?」


 次の瞬間、天蝉の口が小さく火を吐いたかと思うと、それが爆発的に広がった。

 体から漏れだしてたのは燃料か!

 地下室の中を満たすように炎が膨れ上がる。

 おっさんが飛び退いて床に伏せる。

 俺とクシャナさんもそれに習って姿勢を下げた。

 熱ちち。

 床に腹ばいになった俺にクシャナさんが覆いかぶさり、魔力障壁を張る。

 たまたま効果範囲に入ってたおっさんごと炎から守ってくれた。

 とりあえず爆炎が通り過ぎて顔を上げると、地下室のあちこちが燃え始めてた。

 やばいな。

 このままここに居たら、とにかくやばい。


「逃げますよ」


 クシャナさんに引き起こされて、俺は出口に向かう。

 おっさんも何とか無事だったみたいでついてくる。

 炎から逃れるように一気に階段に走る。

 これじゃ勝ったのか負けたのか分からないな。

 天蝉もあれで死んだわけじゃないんだろうし。

 意識だけ逃げてるよね。

 あいつを捕まえて情報を引き出せたらよかったんだけど……。

 あ、そうだ。

 ならせめて何か手土産でも貰って行こう。

 もしかしたら手がかりになるものがあるかもだし。

 俺は逃げながら地下室にあるものを適当にいくつか掴んで拝借した。

 そのまま地上に上がってボロ倉庫からも脱出する。

 煙が出てるから消防とか警察がすぐ来るだろうしね。

 厄介ごとになる前に、俺たちは早々に撤退した。

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