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33話「決闘」

 突然天井を破って現れた鎧甲冑。

 如何にも日本の鎧武者って感じで威圧感もハンパない。

 ただし人間は入ってない。

 って言うより鎧甲冑の形をしたロボットって感じ。

 そいつが刀一本を肩上に構えて十蔵のおっさんの隙を窺う。

 なんなんだよ、こいつ。

 中身は天蝉っぽいよな?

 俺はおっさんが刺し殺した死体をもう一度見た。

 こっちもやっぱりどう考えても人間じゃない。

 たぶんアンドロイド的なやつだろう。

 単純に考えればこの一体目の体を壊したから、あっちの鎧甲冑に意識移したって感じだよな。

 憑依能力って感じじゃないけど、化学技術的に似たようなことしたんだと思う。

 とにかく鎧武者の天蝉はいよいよおっさんに向かって斬りかかった。


「キェ――!」


 おお。

 天蝉の太刀筋は以外にも大味だ。

 十蔵のおっさんもおっさんで一撃必殺な方向性だったけど、天蝉のはどっちかって言うとわざと防御を考えない太刀捌きをしてるように見える。

 それも十蔵のおっさんにそれと分かるように、だ。


「どうした、十蔵。守るだけでは、追いつめられる、一方だぞ?」


 天蝉は一撃一撃の繋ぎ目でおっさんに喋りかける。

 それ自体もやっぱりわざとらしい『隙』だ。


「……」


 そんな天蝉に対して、おっさんは小太刀で攻撃を逸らしながら間合いを保つ。

 後ろに下がるだけじゃ不利になるから、右にも左にも避けたりだ。

 そこからさらに意表をついて、潜り込むように前に出てすれ違ったりもする。

 やっぱりやるな、おっさん。

 防御一辺倒ってのはそれはそれで辛いもんなんだけど、上手いことしのいでる。

 でも、


「さて、いよいよあとが無いな。もはや打って出るしかなくなったな。お前の剣の見せどころだぞ」


 よく攻撃は最大の防御って言うよな。

 あれって結局、反撃してくる敵には好き勝手には攻撃出来ないってことだ。

 サンドバッグが相手ならどんな隙だらけの大技も連続技も出し放題。

 一方的に攻撃するだけならどんなに深くだって踏み込んで行ける。

 だから相手を追いつめるのだって簡単だ。

 ちょうど今の天蝉みたいに。

 じゃあ十蔵のおっさんはなんで反撃しなかったのか。

 それは、天蝉の無防備さが逆に何かを企んでるように見えるからだろう。

 知り合いらしいし、もしかしたら天蝉の狙いもある程度分ってるのかも。


 よし。

 そろそろおっさんに加勢しよう。

 味方なんだし、当然だよね。

 ってことで俺が一歩二歩前に出ると、おっさんから制止がかかった。


「待て。大丈夫だ。こいつは俺がやる。手は出さないでくれ」


 おっさんは天蝉に睨みを利かせたままそう言った。

 いいのかな。

 追いつめられた状態で、武器だって不利なのに。


「そうだぞ、小僧。これは男と男の剣比べだ。無粋な横やりは刺すものではない」


 今度は天蝉にまで言われた。

 俺には事情が分からないけど、二人にとっては因縁の対決ってとこか。

 まぁ、本人同士がそうしたいって言うならそれもいいさ。

 ほんとにいざと言う時は割って入ればいいんだし。


「分かった。好きにすればいいよ」

「すまんな」


 おっさんは控えめに返事してから、ほんとに全神経を天蝉に向けて研ぎ澄ませたみたいだった。

 一方、天蝉は刀を頭の上に大きく構えて相変わらずの大振りスタイル。

 踏み込まれたら速攻でカウンターを取りに行くつもりだ。

 それでもおっさんは踏み込んだ。

 姿勢を低く、天蝉の刀から少しでも距離を取れるスタイル。

 打ち下ろしが届くまでほんの一瞬の差でも時間を稼ごうってことだろう。

 それに対して、天蝉は後ろに下がりながら斬撃を放った。

 地を這うようなおっさんの踏み込みに、自分は後退しながらの一刀だ。

 これは実際やってみると、結構やりづらい動作だと思う。

 低い位置へ攻撃しようと思ったら、膝を曲げて腰を落とさないといけない。

 でもそれと同時に後ろに下がるなら、あんまり深く沈んでちゃ動けない。

 そんな二つのジレンマがあるから、こういう動作を天蝉に強いたおっさんはさすがだと思う。

 ただ、それは人間相手になら通用しただろう、って結果だった。


 一歩下がる動作をした後、天蝉の体は足を動かすことなく後方にスライドした。

 腰を沈めたままの姿勢で、まるでベルトコンベアーに乗ってるみたいだ。

 いや、逆だった。

 天蝉がベルトコンベアーに乗ってるんじゃなくて、天蝉の足のうらがキャタピラみたいになってる。

 さすがロボット。

 そんなのありかよ。


 予想外の方法で間合いを外されたおっさんはさらに一歩踏み込む。

 同時に小太刀で天蝉の打ち下ろしを受け流しながら上に伸び上がる。

 攻撃を捌いた小太刀をバックハンドで顔の横に振りかぶった。

 ぎりぎり届くか?

 おっさんの二歩目の踏み込みは飛び込むくらいに深い。

 天蝉の後退に追いつきそうだ。

 打ち下ろしを外した天蝉は無防備だし、おっさんの一撃が決まるか、そう思った瞬間だった。

 もうほんとそれはどうかと思うけど、おっさん目がけて天蝉は口から炎を吐いた。

 ロボットだしそういう機能もあるかもしれないけど!

 さっき男と男の剣くらべって言ってたじゃん?

 あれはなんだったんだよ。

 口から出まかせ吐いたのか?

 いや、吐いたのは火だけどさ。

 とにかく天蝉の意外な火炎攻撃が十蔵のおっさんを襲った。

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