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U博士のパラドックス

作者: 霧後天晴

 U博士は医大で働いている友人と電話をしていた。

「そうか・・・まだ、出来ないのか。えっ、老化の薬なら出来た?それでは意味がないな。私が欲しいのは、若返りの薬だ」

 U博士は電話口で肩を落とした。U博士は高齢だ。体を鍛えてはいるものの宇宙飛行に耐えられるか分からない。

 同時にU博士は自分の研究にも行き詰っていた。気晴らしをしようと、海辺を歩いていた時だった。驚いた事に、若かりし頃のU博士が向こうから走ってくるではないか。若いU博士は近くまで来ると、肩で息をしながら歩いていたU博士の腕を掴んだ。驚いたU博士は怯えながら言った。

「君は、・・・幻かね。もう一人自分がいるというのは、信じられないのだが」

「研究を・・・研究を止めてくれ!」

 若いU博士は荒く息を吐きながらU博士の目を見て言った。

「止めるって」

「ブラックホール消滅計画だ」

 U博士はしばらく考えてピンときた。

「すると、君はブラックホール消滅計画が成功して、今ここにいる人物だというのか?」

「そう、宇宙の落とし穴、ブラックホール。宇宙船を安全に運航させる為、国から頼まれた計画だ。その計画のせいで、助手のB君や沢山の研究員が死んだんだ」

「なんと・・・そうか実験は成功か。これはいい」

 U博士は研究成功のデメリットの話など、聞かなかったように舞い上がった。若いU博士は声を荒げた。

「おい、聞いているのか?ブラックホールを消した反動で時間と空間が歪み、ブラックホールの吸い込む力が、反転して膨張する力になった。研究員の乗っていた宇宙船は、膨張時の力で運よく地球の側に飛ばされたが、時間が逆流していた。私は、若い頃に戻ったが、研究員は皆、若返りすぎて受精卵に戻り消滅してしまった。そして、人体だけではない。地球についた時の時間も、計算上何故か分からないが数カ月逆流していた」

「おお、若さを手にいれて、しかも、研究成功の名誉まで。こうしてはおれない。研究再開だ」

 U博士は急いで研究室に戻っていった。若いU博士は呆気にとられてU博士を見送った。

「仕方ない。助手のB君は、この近くに住んでいる。研究を止めるように頼んでみるか」

 若いU博士は、B君のアパートへ行った。

「どちら様ですか?」

 B君は若いU博士を怪訝な顔つきで見つめた。

「私は未来のU博士だ。実は・・・」

 U博士が話ししている途中にB助手は、何か閃いたように手を叩いた。

「どうした」

「ブラックホールの消滅方法ですよ。ブラックホールの底が発している熱を止める為の冷却装置。思いついたんです。博士に連絡しなくては」

 B助手は電話機の前に急いで行き、番号を押し始めた。

「冷却が上手くいけば、ブラックホールの均衡が崩れて、消滅するかもしれない」

 B助手は興奮して話している。そして、思い出したように若いU博士を見た。

「ああ、もう、与太話は、いらないので帰ってください」

 若いU博士は落ち込んでB助手の家を出た。そして、同時に驚いた。自分の記憶の中に若いU博士に会ったことや、B助手から電話がかかって来た時のことが、なぞらえた絵の具のように書き足されたからだ。

 こうなったのは、運命なのだろうか。書き変えられていく記憶。私の知る予定よりずっと早く研究は進んで行く。運命は強い力によって推し進められていくのか。それとも私が私に出会った、つまり同じ人間が二人出会ったことによって、もう一人を消す為に急激に歴史が動いているのか。しかし・・・

 U博士は空を見上げた。

 神様はそこまで残酷だろうか。考えるのだ、私が生き残った意味を。

 U博士は医大の友人を思い出した。老化の薬を譲ってもらうおうか。そして研究員全てに手紙を送ろう。

 書くことは二つ。一つは、時間逆流時の影響を受ける前に薬を飲んでもらい若返りによる消滅を回避してもらう。二つ目は地球に不時着した時、私が目覚める前に姿を隠してもらう。これを書かないと、私が、現在のブラックホールの研究している私に会いに行くこともないだろうし、B君のアパートに行くこともないだろう。歴史にさらに矛盾が生じてしまう。 

 ただ、急いで送らなければ。ただでさえ、歴史が早く動いているのだから。

 U博士が周りを見渡すと、タクシーが側に来た。

「運よくタクシーが来てくれた」

 U博士は喜んでタクシーに乗り込んだ。

「いえね。貴方がタクシーを探しているとあちらの方・・・」

 と、言ってタクシーの運転手は道の向こう側を指さした。

「あれ、もういませんね。その方から連絡があって。お金はすでに頂いているので、大丈夫ですよ。○○医大ですよね」

 U博士はククッと笑って肩をすくめた。

「どうやら、今からおこなう私の計画も成功するようだな」








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