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槙 恭平

 

 俺はよく、人を殺す夢を見る。

 しかも、夢の中の俺は、人を殺すことを楽しんでいるようだ。

 初めの頃は起きた途端にトイレへ駆け込んでいたものだが、近頃は気持ち悪いという感覚も薄れてきた。

 そこで1つ不思議なことがある。

 俺はいつも最後に1人だけ殺せずに死んでいくのだが、そいつの顔に見覚えがあったのだ。


「おはー、槙くん、今日のパンツは何色?青?」

「どうしてお前はいつも俺のパンツを気にするんだ。10文字以内で答えろ」

「まきくんだからまる」

「意味不明の為無効とする」

「厳しい!」


 アホの代表、神城芽生だ。

 髪の色は少し違うようだが、紛れもなくあれは目の前にいる神城そのものだった。


 近頃妙に「前世」という言葉を聞く。

 もしかしたら、その夢や夢の中の神城も「前世」のものなのではないかと気付いた。

 だけど、おかしい。

 それならば、どうして俺は。


「えーん、槙くんが冷たいよお」

「自業自得ね」

「自業自得だな」

「自業自得だろう」

「味方がいないとはこれいかに!か、香菜ちゃんはあたしの味方だよねえ?」

「………………」

「やだ無言で目を逸らさないで心が折れる!」

「……馬鹿だろ」


 どうして俺は、神城を殺したいと思うのだろう。




「槙くーん!地理のノート見せてくれなーい?」

「俺の利益は?」

「あたしの」

「パ・ン・ツとか言ったらお前をこのハサミでぶっ刺してやる」

「過激すぎる!」

「若しくはこのボールペンで目を突き刺すかこのコンパスで喉を抉るかこの定規で爪を剥ぐ」

「ストップストーーップ!過激すぎ過激すぎ!無表情なのが更に怖さを増すから!今度からアイアン槙と呼ぶよ?!」

「……え、ああ、すまん」


 自然と頭にどうやったら痛め付けられるかの方法が流れてきた。

 自分の手の平を見つめる。少しだけ震えていた。

 これは、恐怖?いや、少し違う気がする。


 一体、俺はどうしたんだ?




 自分の前を誰かが走っている。

 聞こえてくるのは、二人分の足音と呼吸する音。

 先は行き止まりのようで前で走っていた誰かは足を止めた。

 俺はそいつに近付いて首に手をかけた。

 やっと、殺せる。

 俺は、顔を上げてそいつの顔を見た。

 そいつの、顔は。





「槙くん?」


 はっと気付くと神城の目の前に立っていた。

 どうしたのだろう?最近、記憶がとぶことがよくある。

 特に、神城を見ると、変な感覚が身体中を這って行く。

 殺したい、と。


「……槙くん、鬼ごっこをしようか」

「は?」

「鬼ごっこ!あたしが逃げる方ね!捕まえたらパンツの色教えてあげる!」

「だからお前のパンツなんかどうでもいいって………って、おい!」


 俺は、条件反射のように逃げる神城を追いかけた。

 翻るスカート。忙しなく動く足。聞こえてくる荒い呼吸音。必死に逃げる、目の前の獲物。


「は、あは、は、楽しい」


 楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!


 どうして人を追い詰める行為は、こんなにも楽しいのだろう!

 もっと逃げろ!もっと足掻け!

 その時の逃げ切れずに絶望した顔を想像してぞくぞくする。

 目の前の獲物は右に曲がった。

 馬鹿め!この角を曲がれば行き止まりだ!

 この先にあるあいつの絶望した顔を見ようと右を向いた。


 どす、という腹への衝撃。


「え、あ……?」

「ふう、やっぱり気にかけててよかったよ。まさか槙くんも厨二病だったとはね。残念だったね。あんたはまた死ぬんだ」

「また、お前、に……?」

「少しならあたしも見逃してあげたんだけどねえ。あんたは()()()()()()。そんじゃ、ばいばーい」

「ち、くしょ、おぉ……」




 がらりと開いた扉から、片手に原を持った神城が入ってきた。

 扉をくぐったと思ったら、どさりと原が落とされた。

 完全に通行場所なため、原が踏まれるのは避けれない事態のようだ。可哀想に。助けには行かないが。

 近付いてきた神城が俺に気付いて挨拶をする。


「おはー!槙くん、昨日はごめんねー!」

「いや、いきなり気絶した俺も悪かったし」

「槙くんは何て優しいの……!結婚してください」

「お前との将来は地球が滅亡する5秒前くらいなら考えてもいい」

「結構近い回り方で断られた!ちなみに今日のパンツの色は金?」

「どうしてそう思ったのか10文字以内で答えろ」

「しみんかくめいまる」

「解読不可能の為無効」

「厳しい!」


 今日も神城は馬鹿で世界は平和だ。

 こいつを見ると胸がざわざわとするけれど、恋愛感情ではないと声を大にして言っておこう。


 最近、何か悩んでいたような気がするのだが、思い出せそうで思い出せない。

 まあ、思い出せないくらいの悩みなら、大したことはないのだろう。

 悩みのなさそうな神城を見て、あいつは何も考えてなさそうでいいなあ、と青い空を仰いだ。





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